2018年04月24日 10:32 弁護士ドットコム
打者として3試合連続ホームラン、投手としても開幕2連勝など、メジャー1年目から活躍が著しいエンゼルスの大谷翔平選手。「たまった有給休暇を使って、アメリカまで観に行きたい」と思うファンも多いはず。
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素直に「大谷選手の試合を観戦するため有給休暇を1週間ください」と言って認められればいいものの、言いにくい人もいるでしょう。そこで、「家の都合で、むにゃむにゃ・・・」とウソの理由でごまかして有給休暇を取得し、観戦へ。球場でハイテンションで応援し、中継に映り込んでしまった。しかも映ったことを指摘したのは上司だったとしたら。
有給休暇を取る権利はもちろんある。でも、ウソの理由で取ってしまった。上司にどう説明すればいいのだろう。労働問題に詳しい河村健夫弁護士に聞いた。
ーー何とかして観戦に行きたくなる人もいるでしょうね
「でしょうね。大谷選手の活躍、素晴らしいですね。また、アメリカでの野球観戦もフレンドリーな雰囲気で楽しいですから、思わず渡米したくなる気持ちはよくわかります。でも、嘘の理由がばれたら。。。どんなペナルティーになるのでしょう。
実は、結論から言うと、たいしたペナルティーにはなりません。そもそも、有給休暇の制度は『労働者の権利』ですから、有休を取得した時に何をして過ごすか(有休の取得理由)を会社に伝える義務も存在しません」
ーー理由がいらないということはあまり知られていないように感じます
「有休の取得理由を会社に伝える義務がない以上、虚偽の有休取得理由を会社に告げたとしても、労働者に義務違反は何もなく、会社はペナルティーを課すことができません。このことは、林野庁白石営林署事件の最高裁判決で是認されています。ストライキ支援の目的を秘して有休を取得しても、有効な有休として扱うべきと判断されています」
ーー就業規則で別に規定がある場合はどうでしょうか
「会社の就業規則などに『会社に提出する書類には虚偽を記載してはならない』などの規定が存在していた場合、就業規則違反として懲戒処分される余地は残ります。ただ、その場合であっても、もともとが権利行使のケースですから、重い処分になることは考えられません(仮に重い処分になった場合は、処分が無効であると考えられます)。
『うちの会社には、嘘を書くと懲戒という就業規則がある。じゃあ、やっぱり嘘を書くと処分されるから、アメリカに行けないな』と思った方、大丈夫ですよ。裏技があります」
ーー裏技?どういうことでしょうか
「有休取得にあたっては事前に所定の用紙を用いて申告せよ、というシステムの会社が多いと思いますが、有休は再三述べているとおり労働者の権利行使ですから『何月何日は有休で休みます』と言いさえすれば、取得できるのです。
つまり、所定の用紙に『目的』欄があっても、何も書かずに提出すれば良いのです。上司から『有休中は何するの?』と聞かれても、やりすごして目的を言わねば良いのです(目的を言わないから有休を認めないとの処理は、違法です)。
この方法であれば、嘘をつくこと自体がないので、就業規則違反などの処分もあり得ません。まぁ、ここまでしてアメリカに行きたいか?という疑問は残りますが」
ーー会社側が「時季変更権」を主張してきた場合はどうしたらいいでしょうか
「その時季変更権が認められるかどうかは、有休の取得が『事業の正常な運営を妨げる』(労働基準法39条5項)かどうかによります。
『遊びでアメリカに行くのは許せない』とか『1人が有休を取ると業務が回らないほどギリギリの人員で業務運営している職場だからダメ』程度では時季変更権は認められない(つまり、有休が認められる)ケースが多いと考えられます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
河村 健夫(かわむら・たけお)弁護士
東京大学卒。弁護士経験17年。鉄建公団訴訟(JR採用差別事件)といった大型勝訴案件から個人の解雇案件まで労働事件を広く手がける。社会福祉士と共同で事務所を運営し「カウンセリングできる法律事務所」を目指す。大正大学講師(福祉法学)。
事務所名:むさん社会福祉法律事務所