昨年インディ500を制覇しながら、今年は心機一転、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングへの移籍を決めた佐藤琢磨。その理由のひとつは、インディ500の連覇もさることながら、シリーズタイトルへの挑戦も目標であったからだ。
開幕前フェニックスの合同テストではペンスキーやチップ・ガナッシ勢を抑えてトップタイムを叩き出し、今年に向けての意気込みを十分に感じ期待を抱かせるものだった。
しかし、シーズンが開幕してみると、開幕のセントピータースバーグから、第3戦のロングビーチまで表彰台どころかトップ10でもフィニッシュできずに大きく出遅れた。こんなはずではなかった……。琢磨もファンもそう思っているだろう。だが突きつけられる現実は厳しい。
4月の3連戦の最後、第4戦のバーバーでなんとか奮起して、5月のMonth of Mayを迎えたい。不運の連鎖を断ち切ってブリックヤードに帰りたいところだ。
バーバーでは事前にテストがあったが悪天候のため半日でテストは終わっていた。今年初めて迎えるロードレースのレースは、不安材料もなくはない。
金曜日のプラクティスではFP1で11番手、FP2で8番手とまずまずの出足。
「いつものようにグラハムと助け合いながら、メニューをこなしましたが、まだ気に入らないところもあるし、もうちょっと。トップのタイムはまだ見えてこない」という仕上がり具合だった。
土曜日の予選日も好天の中でFP3を走り、11番手で0.7~0.8秒の差は埋まらないままで予選を迎えることになった。
グループ2でQ1を迎えた琢磨は、ブラックタイヤで1分8秒5676で9番手のタイムをマーク。いざレッドタイヤに履き替えてタイムアタックという時にトニー・カナーンがピット出口からターン2の間でクラッシュ! 赤旗となった。
無常にも時間は過ぎていきQ1のセッションが終了。琢磨はまたしても不運な結果で総合18番手のグリッドとなった。
「レッドで出られると思って待っていたんですが、ダメでしたね。他のマシンもそうでしたけど、残念としか言いようがない」と琢磨。ロングビーチに続き、またしても後方からのスタートとなったバーバー。
抜き易いとは言えないこのサーキットでこの順位は痛い。もう一つの不安要素は、日曜の決勝が雨予報でかなり高い降水確率だったことである。
しかも日曜の朝にはウォームアップ走行の時間が設けられておらず、2018年の新パッケージでいきなりレインタイヤを履いてレースする事であった。どのマシンも条件は一緒であれ、ウエットのレースがそう簡単に終わらないであろうということは想像できた。
■雨に翻弄される決勝レースが幕開け
迎えた日曜日。インディカーはTVオンエア枠や想定される事態に備えて、スタート時間を約30分切り上げた。そして最初のパレードラップを4周とし、シングルファイル(一列縦隊)でのスタートを決定した。
ドライバーズパレードなども省略されて、運営側としては最大限の配慮の中でスタートが切られる。
捲き上る水しぶきの中でスタートが切られレースが始まり、琢磨は後方で真っ白な視界の中を模索しながらターン1に入っていった。
「まるで2007年の富士の時のよう」と例えていたが、容赦なく前のマシンにアタックを続けた。5周で13番手まで上がり、最初のイエローが出る12周目には12番手。そのイエローが解除された16周目には9番手まで上がっていた。
だが雨量が多くリスタートでウィル・パワーはストレートでクラッシュするほど。19周の時点で赤旗が提示され全車がピットに入ることになった。この時点で琢磨は8番手だ。
赤旗の後、路面の水を処理しつつ少しの間を置いて再度ペースカーの後コースインしていくが、状況は好転せずに23周の時点でレースは再度赤旗となった。
「この雨ではどうしようもないですね。今日はインディカーの判断を尊重するしかない」と琢磨も言う。
天候は悪くなるばかりで、レースは翌月曜日に残りの周回を行うことになった。
月曜日も雨予報はあったが、好転し晴れの中でレーススタートだった。23周終了時点での隊列のままでスタートとなり、タイヤについては2種類のタイヤを履く義務はなく、また燃料の積載量も自由となった。前日のスタート前に2時間レースへと変更されていたため、レースは残り周回数の67周ではなく75分のレースとなった。
琢磨は予選ではレッドタイヤを使っていないので、3セットのレッドを使うことができる。考えようによってはかなり有利だが、琢磨の考え方は違っていた。
「変則的なルールになったけど、残りの距離を考えると2ストップが常套手段だけど、1ストップになることも考えていた……」
グリーンランプが点いてレースが始まると琢磨は8番手のポジションをキープし周回する。前のマシンを追うペースがやや鈍いようにも見える。
「新品のレッドタイヤがラバーの流された路面にうまく合っていなくて、磨耗も早かった」とレース後に語った琢磨。後方からはスコット・ディクソンやシモン・パジェノーも追ってくる。
各マシンによって戦略は別れた。2ストップで早めにピットに入るマシン、序盤はなるべくコースにステイするマシン、前のマシンに使えるとピットに入る戦略を取ったマシン。
琢磨は最初のスティントを引っ張り30周を消化してからピットイン。レッドからブラックに変えてコースに戻る。琢磨は残りの時間を考えワンストップで行けるように慎重にドライブを続けた。
後方からチームメイトのグラハム・レイホールにも先行させた。この後イエローが出たなら琢磨は労せずしてトップグループに出る計算だったし、そうでなくても2ストップのマシンは前から姿を決していく。
そんな読みを嘲笑うかのように、またしてもバーバーの空に雨が落ちてきた。残り時間は20分あまり。
雨の量は多く、スリックでステイアウトする選択はなかった。ピットに入るタイミングが命運をわける。琢磨は比較的早めにレインに変えたのが功を奏して13番手でコースに戻ってから、他のマシンがタイヤを変え終わる頃には8番手に戻っていた。
雨が降り続ける中で琢磨はチェッカーを受け、8位になった。今季初のトップ10フィニッシュだ。
波乱の予選、悪天候の中断、ステラトジーの変更と次から次へと流れが変わったが、その中で琢磨はもがきながらも8位をもぎ取った。
「予選ではトップ10に入れるかどうかのスピードだったし、Q1の赤旗があったにしろ、雨の中では順位を上げることができた。今日も1ストップならという思いもあるけれど、8位でフィニッシュできて良しとしたいですね」
「この後は日本に帰ってまたインディのスーパースピードウェイでテスト。そして5月になります。インディのGPでレースもあるし、インディ500は今年チャンピオンとして迎える特別な年になります。また新たな気持ちでインディ500を迎えたいですね」