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「海賊版サイト」ブロッキングで白熱議論 「抽象論だと結論出ない」「いや、避けて通れない」

2018年04月22日 23:42  弁護士ドットコム

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「漫画村」など違法にアップロードされたマンガやアニメを無料で見ることができる「海賊版サイト」をめぐり、政府が国内通信事業者(プロバイダ)に対して、サイト遮断(ブロッキング)を促すことを決定したことを受け、一般財団法人 情報法制研究所(JILIS、鈴木正朝理事長)などは4月22日、東京都千代田区で緊急シンポジウムを開催した。


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サイトブロッキングについては、専門家を中心に批判が強く、シンポジウムでは今回の政府の決定に対し、研究者や弁護士、業界団体関係者らが多岐な視点から検証を行い、今後の展望を話し合った。


●村井純・慶大教授「サイトブロッキングはありえない」

シンポジウムの冒頭、「日本のインターネットの父」として知られる慶應義塾大学の村井純教授が飛び入りで登場、挨拶した。


「サイトブロッキングと聞いた途端に、この件ではありえないとすぐに思いました。なぜかというと、世界中で私たちがインターネットを運用してきた時、ひとつのサイトをブロックする要求に対応してきたたくさんの歴史がある。それが必ずしもうまくいかいないし、技術的に簡単なことでもないし、その有効性も理解されていません。最終的にそれほど効果がないと認識されていると思います。


インターネット上での知財に関する扱いは、国ごとのルールを飛び越えた解決方法はいろいろな意味でございまして、私も長い間にこれに関わっていた。そもそも言葉が違う人同士なので、長い議論のプロセスを取っています。


解決するにはどうしたらよいのか。違うことを話すには議論を尽くす必要がある。インターネットの技術や運用で本当に必要な私たちにとっての共通の目的は、地球上全体でネットが健全に動くことです。たくさんのステークホルダーが知を結集して、できるだけ早く正しい共通のゴールに向かう議論を期待したいです」と話した。


●中村伊知哉・慶大教授「政府はよくここでとどめたとみている」

パネルディスカッションでは、最初に対策を決定した「知的財産戦略本部会合・犯罪対策閣僚会議」に参加した慶應義塾大学の中村伊知哉教授がビデオメッセージで、対策や今後の展開について次のように説明した。


「今回は、政府がメッセージを発することが第一目的でした。海賊版サイト対策は知財の委員会で2年以上議論されまして、昨年来ブロッキングが残る課題でした。その内容は法解釈と法整理の2点。政府としてとりうる措置をとったもので、民間への要請も行政指導も明言していました。


私はよくここでとどめたとみています。政府の決定と前後して、検索ブロックや広告の停止と動いています。決定が何らか作用した面もあるかもしれません。この次のアクションは、法運用をめぐるタスクフォースの設置と法制度の検討の2点です。ここからが本番です。


まず第一に、政府の決定手続きに問題はあったのか。第二に海賊版サイトの現状をどう見るか。第三に緊急避難という法解釈は刑事にしろ民事にしろどういう意味があり、どういうリスクを持っているのか。第四にブロッキングに関して、ネット企業による協議体をどう設置をして、当事者がどう判断するのか、第五に法制度をどう検討・設置するのか。


今回、議論が盛り上がったことは絶好の機会と考えます。より大きな課題もあります。たとえば、漫画界には、『漫画村』のような魅力的なプラットフォームをどうすれば作れるのか。政府はIT対策と知財対策をどのように融合できるのか。ブロッキングの問題に止まらず、ポジティブでクリエイティブな議論に発展させていただきたい」


●宍戸常寿・東京大学教授「政府による対策の問題点とは?」

パネルディスカッションの議論では、まず司会の宍戸常寿東京大学教授から政府の対策への問題点について、次のような整理が行われた。


・対策では、緊急避難の要件を満たす場合には遮断が許されるというだけで、「漫画村」など3サイトの遮断が緊急避難に当たると明言していない。


・民間への要請こそしないものの自主的に遮断するよう「忖度」を求めていないか。勝手に遮断するとなると、コンプライアンスの問題やユーザーからの訴訟のリスクに晒される。


・例外である緊急避難が、違法有害情報一般に対する遮断にまで広がることの歯止めがなくなる懸念がある。


・政府の下で独立性のない協議体が基準を策定することは検閲にあたる恐れがあるのではないか。


●出版広報センター・村瀬拓男弁護士「出版社も対策してきた」と反論

一方、出版社の業界団体でつくる「出版広報センター」の村瀬拓男弁護士は、「政府が海賊版サイトの問題を我が国のコンテンツ産業の基盤を揺るがす重大な問題だと認識していることを示し、その意味においては歓迎するという声明は出しました。なおかつ、今回の決定が、具体的かつ実効性のある法整備につながることを強く希望するとしています」と話した。


また、これまで出版社が有効な対策をとってこなかったのでは、という批判に対しては、次のように反論した。


「そんなことはまったくないです。ここ数年、削除要請は多い出版社では、DMCAルールで月に4万件ほど行なっています。また、Googleに対する削除要請も一社あたり月6万件くらい。これだけ出して初めて漫画村は決定が出た直後に成果が上がってきた。それから海外のサーバに対しても、削除要請は出しています。


大手の出版社を中心に、いろいろな対策を行なっていますが、残念ながら大手といっても、本当に一握りで多くは中小企業です。漫画村のようなサイトは数百ありますが、ここ1、2年ぐらいほとんど海賊版として出回り始めていました。ではどのような対策ができるのか。出版界として情報として共有できている状況ではなく、その中で手段にも当然コストがかかります。それがあまりに多大なコストになれば、実際に対策として現実的にとることが難しいです」


●「政府の対策は問題点が多い」「抽象論を始めると結論が出ない」

また、シンポジウムでは対策に対する批判が多かったが、さらに、出版社側の立場として、村瀬弁護士はこう解説した。


「出版社もある程度は対策をやってきています。業界全体でDMCAの削除要請は数十万件。成功率はそんなに高くなくて、平均で27%くらいです。ドメイン閉鎖要請もやっていますが、一般的にレジストラは対応せず、漫画村は半年の間に2回、ドメインが変更されています。


また、資金源対策ですが、国内の多くの広告代理店は協力が得られるケースが多いと聞いていますが、海外の出稿業者の場合、特にアダルト関係広告は請求してもなしのつぶてが多いです」


また、今後としては、「児童ポルノは見れば、違法であることがわかるが、著作権侵害は一見、見ただけでわからない。そこをどう判定するのかが問題だと思っています。今、正規コンテンツであると識別できるマークの付与が実装できるよう、検討しています。ホワイトリストを作ることは当然の責務として急ピッチに進めているところです。早ければこの夏には全容がご報告できると思いますし、これは出版社だけでなく、配信事業者含めて業界全体の問題としてやっていくことと考えています」とした。


さまざまな批判は多いものの、出版社側としては、「今までの議論は、緊急避難に該当するのかなど、抽象論を始めると結論が出ません。一方で、抽象論は避けて通れないところではありますが、海賊版サイトに代表される権利侵害は非常に大きく、対策が必要だという基本的合理があるのであれば、ある種の結論が出ない論争を可能な限り回避、ないしは乗り越える努力を全体で行なっていければ」と話した。


これに対し、森亮二弁護士は「法制度化するには、抽象的でありながらも避けがたい。それがうまく説明できず、国民的合意が得られなければ、乗り越えられないのかなと思います」と反論した。


●曽我部真裕・京都大学教授「この問題の背景にある司法制度の限界」

このほか議論の中で、技術的にブロッキングには抜け道があり、海外でも根本的な対策になっていない現状や、海賊版サイトに広告を掲載している代理店への対応の必要性、著作権への理解不足から無料で漫画を見てしまう若い世代への教育、フィルタリングの有用性など、さまざまな観点からの報告や取り組みが示された。


シンポジウムの最後に、曽我部真裕・京都大学教授は、「背景には司法制度の限界がある。この問題は、インターネット社会で司法制度が適応しているのか、そのあり方がどうなっているのか、本来はその点からも考えていくべき話だと思います。たとえば、損害賠償命令があっても海外にいてずっと払わずにいる人もいるとか。司法制度の全体がインターネット社会に対応しているのかという問題も投げかけていると思いますので、この問題についても、制度改革を検討するきっかけにしてもらえれば」と締めくくった。


(弁護士ドットコムニュース)