2018年からホンダからルノーPUに切り替えたマクラーレン。入賞はするものの表彰台にはまだ手が届かない現状に苛立ちもなく淡々としている印象だ。今回は中国GPのフェルナンド・アロンソのグランプリウイークエンドに密着し、戦いの舞台裏を伝える。
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F1中国GP木曜日のアロンソ囲み取材。集まったジャーナリストは、たった7人だった。内訳はスペイン人2人、日本人2人、イギリス人2人、ドイツ人1人。ほぼ同じ時間帯にライコネンやリカルドの囲みがあったとはいえ、ここまで少人数だったことは一度もなかった。席に付こうとしたアロンソも、帯同した女性広報担当にイタリア語で、「これだけ?」と思わず訊いたほどだ。
沈滞した空気を振り払うかのように、アロンソは威勢よくまくしたてた。
「確かに予選一発の速さを始め、改善しなければならない部分はたくさんある。でも一方で僕は暫定選手権4位だし、チームも3位だ。序盤2戦を終えてまったくトラブルフリーでポイントを獲得し続けてるのは、僕らだけだ。メルセデスでさえ、ギヤボックストラブルに見舞われてるしね」
確かにアロンソの言う通りである。しかし、だったらなおさら、あまりに寂しすぎる元世界チャンピオンの囲み取材だった。実際のところ、マクラーレンのこのポジションがライバルたちの自滅にも助けられた、いわばゲタを履かせた結果なのは間違いない。
アロンソが言明していた「一発の速さ」は、バーレーンよりはマシン特性が合っているはずの中国でも改善されず、この二日後の予選はアロンソ13番手、ストフェル・バンドーン14番手が精いっぱい。序盤3戦を終え、一度もトップ10に入れずにいる。
予選後のチーム定例会見も、出席者は決して多くなかった。今年はエンジンメーカーのエンジニアは参加せず、レーシングディレクターのエリック・ブーリエとドライバーふたりのみ。しかもアロンソたちは途中で退席し、後半はブーリエ一人だけが質問に答えるという形式になった。
ホンダの長谷川祐介総責任者も同席していた去年は、良くも悪くも盛り上がった定例会見だったが、今年はおざなり感が強いのが残念だ。アロンソの表情も、上機嫌だった開幕戦メルボルンから、少しずつ陰りが出てきたように思える。
それでも決勝レースでは、いつもながらの好スタートで2つ順位を上げ、中盤のピットイン直前には7番手につけていた。後半は8番手で周回を重ね、チェッカー2周前にベッテルを抜いて7位完走を果たした。バンドーンがスタートで順位を落とし、その後も入賞圏内になかなか入れないまま、13位完走に終わったのとは対照的な走りだった。
序盤3戦を終えて、順位は落としたとはいえアロンソはドライバーズ選手権ではマックス・フェルスタッペン、ニコ・ヒュルケンベルグを抑えて暫定6位。
コンストラクターズ選手権でも、マクラーレンは4位と健闘している。アロンソの老練なレース運び抜きには、マクラーレンがこれだけの結果を出せていなかったことは確かである。ホンダのエンジニアたちからも、「どんな状況でもきっちり結果を出すフェルナンドは、やっぱり凄かった」という本音の声が聞こえる。
しかし残念ながら今のアロンソからはレースを本気で戦うワクワク感も、逆に戦闘力がなかなか上がらないことへの焦燥感も伝わってこない。与えられた環境で、期待された役割を淡々と果たしているだけという印象が強いのである。
アロンソは今季限りで引退するのでは、という観測記事もそろそろ出始めた。しかしこれほどの逸材が、このまま輝けずに終わるのはあまりにもったいなさ過ぎる。第5戦スペインGPで投入予定といわれるマクラーレンのフルアップデートに、今は期待するしかないだろう。