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高橋芳朗が選ぶ、ニュージャックスウィング再評価の今聴きたい新作たち

2018年04月22日 11:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ニュージャックスウィングにオマージュを捧げたブルーノ・マーズ「Finesse」の大ヒット、TLC「Waterfalls」(1994年)やラルフ・トレスヴァント「Sensitivity」(1990年)なども取り上げたミシェル・ンデゲオチェロのカバーアルバム『Ventriloquism』のリリース、コモン+ロバート・グラスパー+カリーム・リギンスからなるスーパーグループ=August Greeneによるサウンズ・オブ・ブラックネス「Optimistic」(1991年)のカバーなど、2018年に入ってから俄然再評価の気運が高まるニュージャックスウィング期~90年代前半のR&B。今回のキュレーション連載では、そんな流れのなかで聴きたいR&Bの新作を比較的メジャーなところから5タイトルほどピックアップしてみました。


(参考:EXILE ATSUSHI、ブルーノ・マーズ日本語カバーの意義とは? 音楽ジャーナリスト 高橋芳朗に聞く


 まずはタイ・ダラー・サインとのコラボアルバム『Mih Ty』も楽しみなジェレマイのEP『The Chocolate Box』。ここ日本でも話題になったモンテル・ジョーダン「Get It On Tonite」(1999年)ネタの「I Think of You」をはじめ、セヴン・ストリーター「Anything U Want」(SWV「Anything (Old Skool Party Mix)」を引用)やザ・ゲーム「Oh I」(Blackstreet「Get Me Home」、Soul For Real「Every Little Thing I Do」を引用)といった客演曲など、なにかと90’s R&Bと相性の良いジェレマイですが、なんと今回のEPにはH-Town「Knockin’ Da Boots」(1993年)の実質的なリメイクといえる「Forever I’m Ready」を収録(タイトルはJodeci「Forever My Lady」のもじり?)。さらにはボビー・ブラウンの傑作スロージャム「Rock Wit’cha」(1988年)ネタの「Cards Right」なんて爆弾も仕込まれていたりと、近年の彼が確信的に1980年代後半~1990年代のメロウネスを取り込んでいることがよくわかる内容。ジェレマイの歌い手としての資質を考えても、この路線は今後さらに推し進めていってほしいものです。


 続いては、3月の来日公演の記憶も新しいBJ・ザ・シカゴ・キッドとロ・ジェイムスによるJodeci「Come and Talk to Me」(1991年)のカバーを。ふたりはロ・ジェイムスの「Already Knew That (Remix)」ですでにコラボ済みなのに加え、2017年の第59回グラミー賞では揃ってベストR&Bソロ・パフォーマンス賞にノミネートされている間柄ですが、これは5月からスタートする合同全米ツアー『The R&B Tour』の旗揚げに合わせてレコーディングされたもの。BJはミックステープ『The M.A.F.E. Project』収録のアリーヤ「One In a Million」(1996年)のカバーで「Feenin’」(1993年)をサンプリングしていたほか、デビューアルバム『In My Mind』の「The Resume」でも「Stay」(1991年)を引用していたりと機会あるごとにJodeci愛をちらつかせてきたわけですが、今回もロ・ジェイムスとの「なりきりK-Ci & JoJo」ぶりが微笑ましいナイスカバーになっています。BJのJodeciに対する思い入れからすると、ツアー本編ではこのカバーを軸にしたJodeciメドレーなんて企画が持ち上がってくるかも?


 今後リリースの新作で1980年代後半~1990年代前半のR&Bのエッセンスが強烈に打ち出されることになりそうなのが、5月11日に発売予定のチャーリー・プースの2ndアルバム『Voicenotes』。チャーリーが表紙を飾った『Billboard』誌2月3日号のインタビューによると、今回のアルバムのイメージは「1989年にニュー・エディションを聴きながら荒れた道を歩いているような感じ」とのこと。さらに彼はベイビーフェイスやジミー・ジャム&テリー・ルイス、テディ・ライリーといった1980~1990年代のスーパープロデューサーからの影響が色濃い作品になるだろうとも話していますが、ボーイズIIメンをフィーチャーした「It’s So Hard to Say Goodbye to Yesterday」(1991年)のオマージュ「If You Leave Me Now」の出来からいってこのチャーリーコメントには全幅の信頼を寄せていいのではないかと。引き合いに出されている名前がブルーノ・マーズのグラミー受賞時のスピーチともろにかぶっているからというわけではありませんが、個人的には「Versace On The Floor」や「Too Good to Say Goodbye」みたいな曲がぎっしり詰まったアルバムを期待しています。今回の連載の趣旨からはちょっと逸れますが、Wham!「Everything She Wants」をモチーフにした「Done for Me」、ダリル・ホール&ジョン・オーツ「I Can’t Go for That」を彷彿させる「How Long」、すでに全米チャートで最高5位をマークするヒットになっているファンキーディスコ「Attention」など、「If You Leave Me Now」以外のリードトラックも総じてハイクオリティなのでぜひご一聴を。


 最後は1990年代に一世を風靡したR&Bアーティストのカムバック作を2タイトル。まずは破産や難病を乗り越えてつくり上げたトニ・ブラクストン約8年ぶりのニューアルバム『Sex & Cigarettes』。第57回グラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞を獲得したベイビーフェイスとのデュエット作『Love, Marriage & Divorce』での堂々たる復活劇、そして今年に入ってからのバードマンとの婚約発表など、ここにきてようやく運気が上がってきた印象の彼女ですが、この新作はそんなテンションがダイレクトに反映された快心の一撃。抑制を効かせたボーカルのなかに深い情念をにじませたベイビーフェイス&ダリル・シモンズ作のスロー「FOH」(タイトルは「Fuck Outta Here」の略)、出世作の「Another Sad Love Song」(1993年)を想起させる哀愁のミッドテンポ「Sorry」、そして文句なしのハイライトといえる90’sマナーなスムーズ・ミディアム「Long As I Live」(プロデュースを務めるのは2005年作『Libra』で2曲に携わっていたアントニオ・ディクソン)など、全8曲トータル30分強というコンパクトな内容ながら貫禄のパフォーマンスにぐいぐいと引き込まれていくこと必至。かつての「Un-Break My Heart」(1996年)のハウスリミックスの成功を踏まえたと思われるトリッキー・スチュワート制作のトロピカルハウス調「Missin’」も抵抗なく楽しめました。


 もう一枚、こちらはオリジナルメンバーの分裂騒動を経てようやくリリースに漕ぎ着けたEn Vogueの14年ぶりのニューアルバム『Electric Cafe』。「Deja Vu」や「I’m Good」といったリード曲で立証済みですが、オリメンのシンディ・ヘロンとテリー・エリスにローナ・ベネットを加えた『Soul Flower』と同じラインナップ、そしてデビュー以来のメンターであるご存知デンジル・フォスター&トーマス・マッケルロイがエグゼクティブプロデューサーということで、長いブランクをまったく感じさせない磐石の仕上がり。アルバムの音楽的方向性についてシンディとテリーは「エレクトリックソウル」や「パンクソウル」といったフレーズを使って説明していましたが、スヌープ・ドッグが客演したモータウン調の「Have a Seat」やラファエル・サディーク制作のファンキーソウル「I’m Good」など旧来からのEn Vogueのイメージに忠実な楽曲はもとより、エレクトロ/ダブステップ(「Life」)、ディスコ/ブギー(「Reach 4 Me」)、ファンクロック(「Electric Cafe」)、ハイエナジー/ユーロディスコ(「Love The Way」)などが次々と繰り出されていくごった煮ぶりが実に痛快。もちろん、そんなバラエティに富んだ構成のなかでもレトロヌーボーなR&Bを標榜してきたグループのアイデンティティはきっちり提示できていて、どんなスタイルに挑んでもびくともしないEn Vogueの芯の強さを改めて思い知らされた次第。年内は新作をひっさげてのツアーも行なうとのことで、ここは9年ぶりの来日公演の実現もぜひ期待したいところ。(高橋芳朗)