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ベトナム人実習生に「有給取るなら帰れ」、強制帰国は規制の抜け穴…弁護士「制度が不十分」

2018年04月22日 09:12  弁護士ドットコム

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横浜市の水産加工業者で技能実習生として働いていたベトナム人男性(27)が、男性の受け入れ窓口となった監理団体「房総振興協同組合」(千葉県鴨川市)に有給休暇を取りたいという希望を伝えたところ、強制帰国させられたと共同通信などが報じた。


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報道によると、房総組合の職員は2018年2月、事前の通告もないなか、男性宅に押しかけてベトナムに強制帰国させたという。男性は2017年3月から勤務。契約書では勤務を始めてから半年が経てば10日間の年次有給休暇が取得できるとされていたという。実習制度に詳しい高井信也弁護士に今回の問題点を聞いた。


●「強制帰国」あとを絶たず

ーー問題点を教えてください


「本件のような有給休暇の請求のほか、未払い賃金の請求や労働災害で負傷したこと等を契機とした強制帰国は後を絶ちません。


このような強制帰国は、暴行、脅迫等の強制的手段が用いられた場合には、略取・誘拐や強要罪に該当し得る犯罪行為です。しかし、2017年11月から施行された技能実習法では、技能実習生に対する強制労働等の人権侵害行為等については禁止規定や罰則が設けられたものの、強制帰国はその対象外となっています。


滞在期限途中で帰国する実習生に対し、空港等の出国審査の窓口で、帰国の意思を確認する運用も始まってはいますが、実習生の中には、受入れ企業から監理団体の施設に移動され、就労することも外部からの助力を得ることもできず、あきらめて『自主的に』帰国する者もおり、規制は不十分です」


ーー技能実習生の労働者としての権利は十分尊重されているのでしょうか


「そうは言えないのが実態です。そもそも技能実習制度は、技能移転による国際貢献との制度目的が形骸化しており、実質的には非熟練・低賃金労働者の受入れ制度となっています。


そして、制度上、受入れ企業が固定されているため技能実習生が従属的な立場となり易く、技能実習生の労働者としての権利を尊重する意識に乏しい受入れ企業や監理団体も少なくありません。本件でも、本来、実習生を保護すべき監理団体が、有給休暇の請求という労働者の基本的権利を無視した背景には、制度の構造的問題が存在するのではないでしょうか」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
高井 信也(たかい・のぶや)弁護士
2007年に弁護士登録後、技能実習生等の外国人労働者の事件に取り組む。外国人技能実習生問題弁護士連絡会事務局長。2014年に東京都中野区に高井・村山法律事務所開設。労働事件のほか交通事故(被害者側)、離婚・相続、不動産事件等を取り扱う。
事務所名:髙井・村山法律事務所
事務所URL:http://law-tm.jp/