バーレーンと中国のわずか2週間の間に、トロロッソ・ホンダは天国と地獄を味わった。チームも中高速コーナーが多い上海ではマシン特性的にバーレーンほどの活躍が難しいことを予想してはいたものの、まさかここまでの苦戦になるとは思っていなかった。
実際のところ、金曜の時点ではマクラーレンやフォースインディアと10~12位を争う位置にいた。チームとして5~7番手。ハースやルノーとの差も0.3秒ほど。ある意味ではこれがトロロッソが予想していた上海でのポジションだ。
しかし土曜に向けたセットアップ変更から全てが狂ってしまった。
「金曜日は良かったよ、ルノーとは0.3~0.4秒差でしかなかったしポジティブだった。でも土曜から違うセットアップにしたことは明らかに正しい方向ではなかったね。予選までに時間がなくてセットアップを戻すこともできなかった。少なくともそのことは分かっているけど、それをさらに細かく深く分析する必要がある」(ピエール・ガスリー)
バーレーンでは、新メカニカルセットアップによる低速コーナーの侵入・脱出の速さが快走の要因になった。しかし上海では長い中高速コーナーでリヤが不安定になり、中高速コーナーの改善を意識したがために低速コーナーの良さまで失われてしまった。つまり、マシンパッケージの良さが何一つ残らない状態で予選・決勝を戦わなければならなくなってしまったのだ。
では、どうしてSTR13は上海でリヤが不安定になってしまったのか?
実はこれはメルセデスAMGと全く同じ症状だった。ただしメルセデスAMGは柔らかいコンパウンドのリヤタイヤがオーバーヒートしワーキングレンジ(作動温度領域)を超えてしまうことが原因だったが、トロロッソは違ったようだ。
テクニカルディレクターのジェームス・キーはこう説明する。
「我々のマシンはアウトラップでタイヤに充分な負荷がかけられていない。それがダウンフォースが足りないためなのか、メカニカル面のセットアップによるものなのか、それがまだ分からない」
土曜は低温、そして金曜とは風向きが逆の突風で、マシン挙動の変化がセットアップ変更のせいなのかコンディションのせいなのかを読み解くのにも時間を要してしまった。しかし日曜が金曜と同じようなコンディションになったにもかかわらず挙動は土曜のままで、やはりセットアップに問題があったのだという結論に辿り着いたのだ。
フリー走行3回目ですぐにドライバーたちがマシン挙動に違和感を訴えたのに対し、チームは路面コンディションが向上すればマシン挙動も良くなると考えていた。
しかし一向に良くならず、FP3後のデータ分析にも時間を要してしまったため、予選までにメカニックがセットアップ変更を施す時間が残されておらず、セットアップが間違っていることは分かりながらもほぼそのままの状態で予選・決勝に臨まなければならなかったことも痛かった。
決勝ではチームメイト同士の接触が取り沙汰されたが、別にバトルを演じた末の接触ではなくお互いがポジションをスワップすることを理解していた上での意思疎通ミスの問題だけに、大騒ぎするようなことではない。それよりも重要なのは、間違ったセットアップのまま予選・決勝を戦わなければならなかったことだ。
ホンダのパワーユニットは1.2kmと長いバックストレートでも充分に競争力を発揮し、決勝ではトラクション不足のためザウバー、レース後半はステアリングアームの破損のためウイリアムズを抜くのに苦労したが、まずまずの車速を見せた。
ただしこれはSTR13のドラッグの小ささに助けられたものでもあり、ルノーと同等程度になっているとはいえ仮にあと10kW(約13.6馬力)パワーがあれば上海なら0.2秒弱のゲインになるはずで、大接戦の中団グループでは大きな意味をもたらすことができるのも事実だ。
バーレーンでは「4位」という見た目の順位に踊らされた面もあったが、チームとしては3強に次ぐ中団トップの「4番手」。上海では予選・決勝でSTR13のポテンシャルを引き出すことができず見た目上はザウバーやウイリアムズと最下位を争うところとなったが、金曜の結果からすれば本当の力としてはチームとして「5~7番手」を争う位置にいたことは確かだ。そして「4番手」までのタイム差は0.5秒もなかった。
つまり、これが今のトロロッソの実力であり、上海では今ここで見る必要の無かった地獄を見たことになる。しかし、その地獄を見ることになった原因をしっかりと究明できれば、いずれは必要になるはずの成長をここで遂げることができる。これを糧として次へのステップをしっかりと踏み出せば良いのだ。