トップへ

ザ・クロマニヨンズの音楽と共に“心の旅”に行く 『ラッキー&ヘブン』ツアーセミファイナルを見て

2018年04月19日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 11枚目のアルバム『ラッキー&ヘブン』を携えて2017年10月からスタートした全国ツアー『ザ・クロマニヨンズ ツアー ラッキー&ヘブン 2017-2018』のセミファイナル公演が、4月8日に東京・オリンパスホール八王子で開催された。


 「よく来てくれた。楽しんでいってくれよ」という甲本ヒロト(Vo)の言葉とともに、「デカしていこう」、「流れ弾」「どん底」とアルバム『ラッキー&ヘブン』の曲順どおりにライブはスタート。ステージには、アルバムのアートワークの大きなバックドロップが掲げられて、天井から吊り下げられた船舶用ライトのような明かりが柔らかく灯っている。バンドと一緒に航海するような感覚で、とくに序盤はソリッドなロックンロールでスピードを上げていく。


 「みんな、元気だった? 元気がなくても、元気になって帰れよ」(甲本)と言い、「(アナログ盤でいうと)A面の4曲目からいきます」とプレイしたのは、「足のはやい無口な女子」。続く「ハッセンハッピャク」では、会場から大きなシンガロングが起こって観客が一体化し、グッと会場が熱くなったところで「嗚呼! もう夏は!」のゆったりとしたサウンドが、観客の心から懐かしい子どもの頃の夏の記憶、夏の情緒を引っ張り出していった。


 次も夏の歌だといって、桐田勝治(Dr)による「盆踊り」の祭りのビートが高らかに力強く鳴り響くと、観客は合いの手や掛け声をあげて、笑顔を見せる。ここまで、最新アルバムの曲順どおり(4曲目の「ぼー」はシングル『どん底』のB面曲)で、観客たちも次にどんな曲がくるか作品の流れはもちろんわかっているし、舞台上でもとくに凝った演出などがあるわけではない。しかし、それでもライブはスリルに満ちていて、曲ごとに新鮮な景色が見えたり、心の旅をしたりする感覚だ。4人で奏でるロックンロールはシンプルで鋭く、そして何よりも深い味わいで、心に突き刺さっては思いもよらないような記憶を呼び出したり、そのときに自分が必要な言葉をおいていったりする。観客は、まさに老若男女というのがぴったりな幅広い年代の観客が集っているが、バンドの奏でる音楽と一体化して、思い思いに楽しんでいるのがわかる。


 「(「盆踊り」で)B面の1曲目まできたけど、このままいくとあと10分くらいで終わっちゃうので、他のアルバムからの曲もやります。アルバムいっぱいあるんだよ」(甲本)と、後半は2013年のアルバム『YETI vs CROMAGNON』から「チェリーとラバーソール」「ヘッドバンガー」、2015年のアルバム『JUNGLE 9』から「今夜ロックンロールに殺されたい」を連投。観客は歓喜に沸いて、踊る。照明の色合いも単色で、観客のエモーションに訴えるような前半とはまたちがって、後半はグッと躍動的だ。


 再び最新アルバムの曲に戻って、「ワンゴー」では、甲本が観客に向かってヴ~と犬のように唸って笑わせ、「ジャッカル」のキレのあるロックンロールで観客をジャンプさせる。会場の温度が上がったところでさらに、甲本のハーモニカがリードしてジャムセッションがスタートし、そのままメンバー紹介へと繋いでいく。


 心地よく饒舌なセッションの流れから、ドラムが華麗にロールして「ペテン師ロック」や「エルビス(仮)」などシングル曲を披露。前半でのスリリングでソリッドなバンドアンサンブルから、後半では、より厚みを増したようなゴージャスで華やかなサウンドに変化していった。「ナンバーワン野郎!」では甲本のハーモニカと真島昌利(Gt)のギターの掛け合いで観客の興奮を煽ると、ダイナミックな小林勝(Ba)と桐田のビートをエンジンに、観客のシンガロングを一段と大きく響かせていった。


 ラストに据えたのは、アルバムでの終曲「散歩」。<歩いてく 初めての道 どこまでも 行けるのだ>と歌うこの曲は、ライブでよりドラマティックに映える。約1時間半ほどという、時間としてはあっという間のライブだったが、体感的にはいろんなところを巡ったような充実感、充足感のある、かつピースフルな時間。その最後に「散歩」という曲が、ポジティブな余韻となって、心をゆさぶった。陽性のムードに満ちていつつも、彼らから何かを問われ、投げかけられたような感覚もある、いい夜となった。


(取材・文=吉羽さおり)