スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。アルゼンチン・テルマス・デ・リオ・オンド行われたMotoGP第2戦で起こった出来事は、勝者の存在を隠しているとガルシアは語る。スペイン人ジャーナリストは荒れたアルゼンチンGPをどう見たのか?
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■再び起こってしまったマルケスとロッシの戦争
バレンティーノ・ロッシとマルク・マルケスが、MotoGPで最も激しく対立し合っているライダーであることは確かだ。ふたりは攻撃的で才能に溢れた、最も成功したライダーである。そうしたことすべてを考えれば、強いライバル意識が育つ原因が揃っているわけだが、ここ数年彼らの関係は非常に厳しい状況を経ている。
悪名高い2015年の第17戦マレーシアGPでのクラッシュでマルケスとロッシの戦争は始まったが、翌年の第7戦カタルーニャGPでは和平に達した。だが2018年シーズンの第2戦アルゼンチンGP、テルマス・デ・リオ・オンドで彼らは接触し、ロッシが転倒したことで、再び注目が集まることになった。
アルゼンチンGPで起きたことは、最初に起こった事件からはかけ離れたものだ。すべては2013年に始まった。コークスクリューコーナーで、マルケスがロッシの有名なオーバーテイクを再現してみせたときだ。その餌食となったのはロッシ自身である。彼は笑顔を装ってはいたが、快く思っていなかったのは明らかだ。
そして2015年の第3戦アルゼンチンGPで戦争は本格化した。テルマスではロッシと衝突したマルケスが転倒を喫したが、オランダGPではふたりは最終コーナーで争った。
いずれの場合も、ロッシがマルケスよりも上位でフィニッシュしている。しかし精神的な面では、マルケスはロッシよりも優位に立つことができていた。ロッシはホンダが不調に沈んでいた年にタイトルを賭けて戦っていたが、それでもなお、マルケスのことを無視するのではなく、脅威と見なしていた。
2015年のマレーシアGPでの一触即発状態の記者会見で、ロッシは同じスペイン人のホルヘ・ロレンソのことをマルケスが故意に助けたと批判した。その後に起こったことは今では悲しいかな、有名になっている。ロッシとマルケスは再び接触したが、その際ロッシがマルケスを“蹴った”というのだ。
ありとあらゆる不快な非難が巻き起こるなか、バレンシアで王者が決まった。2016年のカタルーニャGPで、不慮の事故によりルイス・サロムが亡くなるという悲しい出来事をきっかけに、敵意に満ちたふたりのライバルは“和解せずには”いられず、すべてがうまくいくように見えた。もちろんそれは2018年のアルゼンチンGPまでの話だ。
アルゼンチンGPでは過度に攻撃的なマルケスがロッシに接触し、最終的にロッシは転倒を喫した。その後の出来事は、さながら“セパン・ゲート(最初に起こったマルケスとロッシの事件)”の繰り返しのようだった。ライダー、記者、ファン、それにレースディレクションにとってさえも、最悪の展開だった。
この件でまず責を負うべきはマルケスだ。現王者であるマルケスは他のどのライダーよりも約1秒速く、普通の状況ならレースを支配しているべきだった。しかしさまざまな物事が、このレースを通常のレースとは程遠いものにしてしまった。まず、グリッド上でストールしたマルケスのバイクにはそれに応じた対応が行われず、マーシャルの指示が適切でなかったため、彼は混乱することになった。このことが、マルケスがアレイシ・エスパルガロをコースからほとんど押し出し、攻撃的なオーバーテイクを行なって最終的にロッシを転倒させるという、連鎖反応を生み出してしまったのだ。
マルケスはまるで悪魔のようで、極度に速いスピードを出し、他のライバルたちを気にかけることはなかった。彼はライバルたちと全体の安全に配慮し、落ち着く必要があった。
彼はペナルティを科されるべきだったし、レースディレクションが早い段階でそうしていたら、この状況は避けられたかもしれない。たとえ彼らがレース後にペナルティを科さないとしても、順位をはく奪すれば、厳しいが順当な罰になるだろう。
■ロッシのメディア対応もペナルティを科すべき
結局、順位はく奪ほどの大きなペナルティは科されていないが、この件は若手のライダーたちにとって、このような行動は容認されないのだという教訓になるだろう。その点でロッシは正しい。マルケスは危険な走行を行なったので、なんらかのペナルティ、おそらくは少し厳しいペナルティが科されるべきだ。(一部の人々が求めている出場停止処分ほどではないにしろ)
しかし物事には常に別の側面があり、ロッシの態度は彼自身を正当化することができないのは確かだ。第一に、ロッシのチームはマルケスから謝罪の申し出があった際、無礼な対応をしている。(ロッシの右腕を務めるウーチョ・サルッチは、こうした振る舞いについてヤマハから警告を受けている)
その上、バレンティーノ自身のプレスへの対応はMotoGPシリーズにふさわしくないものだった。史上最も成功したライダーのひとりであり、激しい戦いにおける経験もスキルも持ち合わせている彼が、マルケスと走るのは“怖い”と主張したのだ。過去にロッシがホルヘ・ロレンソやケーシー・ストーナーに対して行なったことを思い出せば、それはたわ言だ。マルケスが無責任な走行に対してペナルティを受けるべきなら、ロッシは少なくともMotoGPのパブリックイメージを損なったことに対する重大な罰金を科されるべきだ。レース自体は素晴らしかったその週末、こうしたことでチャンピオンシップが知れわたることは望まれていない。
起きてしまったことは残念なことだ。MotoGPは素晴らしいシーズンを迎えている。ホンダ、ドゥカティ、ヤマハがトップに名を連ね、スズキは復活の途上にある。プライベーターのバイクはワークスのバイクと戦えるレベルにあり、若い才能が開花している。胸を躍らせる理由はたくさんあるのに、巨大なエゴを抱えたふたりのライダーが、報道陣の目をレースから逸らせてしまっている。アルゼンチンでの記者会見でカル・クラッチローが不満を述べているようにだ。
メインのニュースは外部ではなく、コース上で生まれるべきだ。まずは、クラッチローがバリー・シーン以来最高峰クラスでポイントランキングで首位に立った初めてのイギリス人ライダーであることを覚えておこう......。