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4月から東宝作品の公開日が金曜日に 日本映画を取り巻く「世界基準」と「日本の風土」

2018年04月18日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 先週末の映画動員ランキングは、シリーズ22作目となる『名探偵コナン ゼロの執行人』が土日2日間で動員101万2000人、興収12億9600万円と、動員、興収ともに現時点での2018年最高記録を更新して初登場1位。続いて、土日2日間で動員31万5000人、興収3億6700万円をあげた『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~』が初登場2位。同じ東宝配給の『名探偵コナン』シリーズと『クレヨンしんちゃん』シリーズが同日に公開されるのはこれで13年連続。通常週ならば『クレヨンしんちゃん』も1位をとれるだけの好成績なのだが、いくらなんでも『名探偵コナン』では相手が悪すぎる。というわけで、これで3年連続して『名探偵コナン』と『クレヨンしんちゃん』のワン・ツー・フィニッシュとなった。


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 しかし、もしかしたら外国映画を中心に観ている映画ファンの中にはまだ気づいていない人もいるかもしれないが、今週はとんでもない大事件が起こった週だった。いや、「大事件」というのは大げさかもしれないが、少なくとも本コラムを4年近く毎週書き続けている自分にとっては、その足元を根底から揺るがされるほどのパラダイム・シフトである。実はこの4月から、連休や映画サービスデーなどの特別な事情とも関係なく、東宝作品の公開日が通常週においても土曜日から金曜日へと基本的に変更された。つまり、『名探偵コナン ゼロの執行人』と『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~』の2作品は、「金曜初日の東宝作品」の記念すべき第1作目と第2作目となったわけだ。


 金曜公開/土曜公開問題については、これまでもしばしば本コラムで取り上げてきた。大半の外国映画の初日が金曜日で、大半の日本映画の初日が土曜日であることで、興行通信社が毎週発表する週末の動員ランキングだけでは読み取れない、実質的な興行成績の比較がずっと困難だったのだ。現在、アジア各国を含む海外ではほとんどの国が金曜公開。作品によっては世界同時公開であること、金曜日の勤め帰りの観客の需要などから、外国映画は日本でも金曜公開が徐々に慣例化してきた。一方、日本映画は観客に学生層が多いこと、そして日本固有の興行習慣である出演者による初日舞台挨拶などの事情もあってか、これまで基本的には土曜公開が続いてきた。


 それが、「大人向け作品から段階的に金曜公開」などではなく、いきなりこの4月から東宝配給の全作品が原則として金曜公開となったわけだから、そのインパクトは大きい。2015年4月に発表された「TOHO VISION 2018 東宝グループ 中期経営戦略」によると、2012年から2014年にかけての3年間の国内全映画市場の約4割、日本映画に限れば約6割という圧倒的なシェアを誇る東宝が金曜公開に踏み切ったということは、おそらくこの先、他の配給会社もこれに追従することになるだろう。実際、東宝に次いでシェア2位の松竹も、昨年12月の段階で5月25日公開の『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』を皮切りに、段階的に金曜公開作品の比率を増やしていくことを発表している。


 こうなってくると、毎週発表されている「土日2日間の動員ランキング」にも見直しが迫られるだろう。アメリカをはじめとする、新作が金曜日に公開される日本以外の国では「週末成績」といえばもちろん金曜日から3日間の成績のこと。そして、動員の数字ではなく興収の数字によってランクが決められる。「それはそれ」として、このまま変わらないのかもしれないが。


 思えば、毎年4月に公開されるシリーズ22作目のアニメ作品が1位で、同じ日に公開される同配給会社のシリーズ26作目のアニメ作品が2位という今週のランキングは、あらゆる側面において日本の映画興行の特殊性が顕著に表れている。ハリウッドではここ数年、観客が「続編疲れ」を起こし、シリーズものの成績が全体に下降傾向にあるが、それとはまったく逆に日本では、ここにきて毎年のようにシリーズ作品の最高記録が更新されている。結局のところ、日本は『男はつらいよ』(配給会社は違うけれど)の国ということなのだろうか。まるで季節の風物詩のように、「春になれば『ドラえもん』」「ゴールデンウィークが近づけば『名探偵コナン』」と、多くの観客が劇場に押し寄せる状況がずっと続いている。今後、外国映画との数字の比較がこれまで以上にガチンコで可能となったわけだが、ここにきての金曜公開への移行は、それでもビクともしない東宝の余裕の表れなのかもしれない。(宇野維正)