F1第3戦中国GPでトロロッソ・ホンダは、初日のフリー走行から決勝まで全く歯車が噛み合わない週末を過ごすこととなった。
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ブレンドン・ハートレー(以下、HAR)「風が強くてすごくトリッキーだよ」
中国GPの金曜フリー走行を走り始めてすぐ、ブレンドン・ハートレーが無線で訴えた。強い突風が吹き、コーナーの入口で追い風を受けると途端にダウンフォースを失い挙動を乱してしまう。
ピエール・ガスリー(以下、GAS)「クルマはさっきよりノーマルなフィーリングになったよ」
セッション中のセッティング微調整でまずまずの挙動に仕上がったピエール・ガスリーのマシンだったが、ハートレーの方は午後になってもイマイチだった。
トロロッソ(以下、STR)「ターン6入口で追い風だ」
HAR「クルマはそんなに悪くないけど、最終セクターで少しリヤに苦しんでいるよ」
STR「フィーリングはどう?」
HAR「どんどん悪くなっていくよ」
2台ともに大きくセッティングを変えて臨んだ土曜日は、ハートレーはやや改善方向に向かったものの、ガスリーはリヤのスタビリティが大きく悪化してしまった。中高速コーナーで飛び出す映像とともにガスリーの無線が飛び込んで来た。
GAS「バランスが良くない。特に高速コーナーだ」
STR「ターン7で追い風だ」
FP3の段階ではチームはまだセットアップ変更が正しいと信じていた。しかしそれは間違いだったと後になって判明する。
STR 「路面がインプルーブ(改善)してくればマシンバランスは悪くなくなるはずだ。セットアップ変更は全て正しい方向に向かっている。間違いなくもっと速く走れるはずだ」
そう言われていたが、FP3の最後に新品のオプションタイヤを投入したアタックは2台ともに不発に終わった。
HAR「ゴメン、ターン12で大きなスナップオーバーが出てそれ以外にもミスがいくつかあった。でも正直言ってタイヤはアタック2周目まで保たないし1周目にまとめる必要がある」
GAS「(風の影響で)途中で大きくグリップを失ったんだけど?」
STR「今データを見ているところだよ」
GAS「リヤをどうにかしないといけない。特に高速コーナーがかなりひどいんだ。ひとつのコーナーから次のコーナーへ、クルマの一体感がない」
FP3から予選までには充分な時間がなく、金曜のセットアップへ戻すことはできなかった。そのため予選では下位に沈み、決勝では15番グリッドのハートレーがウルトラソフト~ミディアムの1ストップ、17番グリッドのガスリーがミディアム~ソフトの1ストップというやや冒険的な戦略で浮上を狙うしかなかった。
当然ながらウルトラソフトの方がデグラデーションがすぐに進み、ペースはガスリーの方が速くなる。そしてレース中盤にはソフトに履き替えたガスリーがハートレーを再度逆転する可能性もあった。だからチーム内では2台が交錯する際にはバックストレートエンドのターン14でスムーズに順位を入れ換えるように事前の合意ができていた。
4周目、まずはガスリーがハートレーの背後についた。
STR「ドライバースワップをしてくれ。ターン14手前で今やってくれ」
HAR「マジで言ってるのか!? まだ4周目だぞ? OK、もう抜かれたよ」
ハートレーの履いたウルトラソフトはトロロッソにとって外れだった。10周目にはこれを捨て、早々にミディアムに履き替えることになった。
HAR「できるだけ早くこのコンパウンド(ウルトラソフト)は捨てるべきだと思う」
そのためハートレーの戦略はやや狂い、ソフトタイヤに履き替えフィーリングが向上していたというガスリーが29周目には追い付いてきてしまった。ここでチームからは再びターン14でドライバースワップを行なうよう両者に指示が出た。
しかしガスリーが充分に追い付いていないと思ったハートレーはターン14の出口で譲るつもりで通常通りにターンインし、インを開けてくれたと思ったガスリーはそこに飛び込んでしまった。そして両者は接触。
GAS「一体何をやってるんだ! 彼はドアを閉じたんだ! 何なんだ、あれは!?」
HAR「GASにヒットされた。ダメージがあると思う」
STR「どこにヒットした?」
HAR「右リヤだ。間違いなく問題が出ていると思う」
マシンのダメージを確認しながら走行し、一瞬は感情的になってしまったガスリーもすぐに冷静さを取り戻し、チームメイト同士での接触という最悪の事態に対してチームに謝った。
GAS「フロントウイングにダメージだ。本当にゴメン。でも彼は譲ってくれたと思ったのにドアが閉じられたんだ」
STR「(セーフティカーデルタに対して)ポジティブにステイ。集中しろ」
GAS「フロントウイングにダメージ、左フロントだ」
HAR「ダメージのレベルは分からない。でもこのスピードで走っている限りではそんなに悪くないよ」
バトルを演じたわけでもなく、両者ともに譲るつもりでいたものの、譲る場所の誤解による接触。だからこそレース後の2人の間にしこりは残っていないように感じられたが、あれがなければ中団グループでストフェル・バンドーンと戦うことはできたとガスリーは悔しがった。
この接触とセーフティカー導入がレースを劇的に面白くしたことは事実だが、トロロッソが上海で抱えた問題はチームメイト同士での接触などではなく、セッティングの方向性だ。もちろん彼らはそのことをしっかりと認識し、次に向けて徹底的な究明を進めている。