表彰台の頂点で笑顔を見せながらも、時折、目頭を抑えるダニエル・リカルド。勝利の喜びとともに、リカルドが涙を流したのには理由があった。
「24時間前、僕らは予選に出走できないかもしれない瀬戸際に立たされていたんだ。日曜日のレースは最後尾からスタートすることも考えていた。それが、いまは表彰台の中央にいる。信じられない」
リカルドに不運が襲ったのは、土曜日の予選前に行われたフリー走行3回目。ターボが壊れたリカルドのPUはバックストレートで派手に白煙をあげた。
「エンジンは動いていたから、僕はピットに戻ろうとした。でも、エンジニアから無線で『すぐにマシンを止めろ』と言われて、ピットロード入口手前でマシンを止めた」(リカルド)
予選までのインターバルは2時間。メカニックは昼食抜きでリカルドのPUの積み替え作業を行った。しかし、作業はQ1が始まる午後2時になっても完了しなかった。残り時間4分で作業を終え、リカルドがコースインしたのが午後2時15分。アウトラップを入ったリカルドが計測ラップに入ったのは、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表によれば、Q1のチェッカーフラッグが振られる45秒までのことだった。
つまり、コースインしたリカルドに与えられたタイムアタックのチャンスは1回しかなかった。通常であれば、レッドブルがQ1を突破するのは難しいことではない。だが、中国GPではリカルドはフリー走行3回目でアタックする前にPUが壊れており、軽い燃料でのセッティングを確認していなかった。その状態で、リカルドはミスなく、しかも15番手以内のタイムをマークしなければならなかった。そんな状況で14番手をマークしたリカルド。
その後、リカルドはQ3まで進出し、予選は6番手に終わったが、予選後チームホスピタリティに帰って来ると、遅めのランチを食べにきたメカニックたちとハイタッチし、無言の謝意を贈っていた。
そのメカニックたちは、日曜日に再び、大仕事をする。勝負の分かれ目となった31周目のピットストップの際、マックス・フェルスタッペンとリカルドを同時にピットインさせるダブルピットストップを成功させたのだ。その無線をエンジニアから聞いたのも、前日PUトラブルでマシンを止めた14コーナーだった。
ただし、今度の無線は絶望の命令ではなく、胸が高鳴る指令だった。
メカニックたちは完璧な作業で、タイヤ交換作業以外のロスなく、2台をコースに送り出し、奇跡の大逆転を後押しした。
リカルドがトップでチェッカーフラッグを受けた直後、優勝したコンストラクター(チーム)を代表して表彰式に参加するスタッフに、クリスチャン・ホーナー代表は迷わずリカルドのナンバーワン・メカニックを務めるクリスチャン・ゲントを指名した。
ゲントを見たリカルドは涙が止まらなかった。