2018年F1第3戦中国GPは前戦で辛酸を舐めたダニエル・リカルドがオーバーテイクショーを披露し見事逆転勝利を収めた。F1ジャーナリストの今宮純氏が中国GPを振り返り、その深層に迫る──。
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オーバーテイク『撃墜王』ダニエル・リカルドが表彰台で高笑い。シャンパン靴飲み“シューイ”をメカニックのクリス・ジェントとやってみせた。
屈辱的な敗北を先週バーレーンGPで喫した彼とレッドブルは、メルセデスよりも先に今シーズン1勝目をすくいとった。6番グリッドから逆転、17年アゼルバイジャンGPの10番手からの逆転に勝るとも劣らぬ勝ちっぷり。
第2戦の屈辱とは、たった1周でリカルドがPUトラブル、その直後3周でマックス・フェルスタッペンもデフ・トラブル。2台が全滅し連続入賞記録が38戦で止まったことだ。
印象としてレッドブルには“非信頼性”イメージがあるかもしれないが16年スペインGPから、2年近くずっとポイントゲット・レースを戦っていた(フェルスタッペン初優勝後からだ)。
それがあっけなく終わり、リカルドとフェルスタッペンがすごすご帰る姿が国際TVに映し出され、メカニック達もレース中に撤収作業にとりかかった。
どんなに落ち込んだことか。レースペースに秘めた自信があったのに全滅、不戦敗レースは屈辱以外のなにものでもない……。
上海では土曜FP3にまたリカルドにターボ・トラブル、炎上アクシデントが発生。ICE、ターボ、MGU-H、MGU-K交換を急いだメカニック達が、2時間余りでマシンをよみがえらせた。
予選Q1、残り時間3分11秒、テール・スライドさせながらピット・ガレージから飛び出たリカルド。最近、見たことない場面だ。
この日4周しかしていないリカルドはアウトラップから飛ばし、1分33秒877を出しきる。チームメイトより約1秒も劣るこれが精いっぱい、14番手のQ1通過に彼は満足した。作業が間に合わずグリッド最後尾をほとんど覚悟していたのだから……。
撃墜王の妙技をじっくり見直すその前に、31周目に“2台同時ピットストップ”を完全に遂行したピットワークが素晴らしかった。
今年はいくつものチームが“アンセーフ・リリース”を犯している(CS中継でベテラン西岡アナが「今年の流行語かもしれません(?)」と指摘したのはそのとおり)。
・37周目:キミ・ライコネンを14コーナー・インから。特筆すべきはまだDRSが使えないときに、直線最高速度が遅いと言われても手前13コーナーからの加速力を活かして5番手へ。
・40周目:ルイス・ハミルトンを同じ14コーナーでインから。既に22ラップしているミディアムでは抵抗できない相手の心理を読みとり3番手に。
・42周目:セバスチャン・ベッテルを14コーナー手前の直線で並走しながらパス。参考データを挙げると、このバックストレートにある最高速計測地点でリカルドはベスト334.3KMH、10位にすぎない。データはデータでしかなく、リアルなバトル(中間速度)でまさり2番手へ。
・45周目:バルテリ・ボッタスを6コーナーでインから。それまでと違うここで仕掛けたのは、相手側(メルセデス)が無線で注意を指示していたからだろう。
この6コーナー手前にはセクター1計測ポイントがあり、そこでリカルドは最速290.5KMHをマーク、これがレッドブルの“追い越し加速力”なのだ。一方ボッタスはもうぎりぎりライフのミディアム、完全にインをふさぐブロック・ラインをとったら止まれない。それを事前に読み、ブロックが甘くなったその内側に刺しこんだ強い減速力、これで1位だ。
前方にもう撃墜すべき敵機はいない。すると“撃墜王”は闘いの仕上げを楽しむかのように、55周目に最速ラップ1分35秒785。
開幕戦に続きリカルドは今年3戦で2度目、だが昨年のハミルトン最速ラップには0.407秒届かなかった。つまりレースペースは今年、それほど速くはなかった。それでも見ごたえじゅうぶん、今年ここまでのベストレースだった3戦目だ――。