2018年04月16日 10:12 弁護士ドットコム
栃木県日光市の小学1年の女児を殺害した罪などに問われている男性の控訴審で、東京高裁は、起訴内容の犯行日時や殺害場所に幅を持たせる検察側の訴因変更を認めた。
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毎日新聞(3月29日)によると、殺害場所は「茨城県常陸大宮市の林道」から「栃木県か茨城県内とその周辺」、日時は「2005年12月2日午前4時ごろ」から「(下校中の被害者が同級生と別れたとされる時間を起点とした)同1日午後2時38分ごろから同2日午前4時ごろ」に広がった。
そもそも事件において、犯行日時や場所は核となる部分だ。どのような場合に訴因変更が行われるのだろうか。また、どういう目的があるのだろうか。元検事の荒木 樹弁護士に聞いた。
訴因とは何か。
「訴因とは、刑事裁判で、検察官が有罪であると主張している具体的な罪となるべき犯罪事実のことを指します。
刑事訴訟法では、起訴状には公訴事実を記載する必要があるとされ、訴因については、『公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない』(刑訴法256条2項3号)と規定されています。
このように、日時・場所・方法を可能な限り特定された具体的犯罪事実が訴因となるのです」
日時や場所、方法というのは、犯罪を構成する重要な部分だが、これが裁判途中で変更できるのか。
「はい。起訴状に一度記載された訴因は、裁判の途中で変更することも許されます。
刑事訴訟法では、『裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない』(刑訴法312条1項)と規定されているのです」
「公訴事実の同一性を害さない限度」というのはどの程度か。
「『公訴事実の同一性を害さない限度』の範囲をどのように理解するのかは、刑事訴訟法の解釈上重要な問題です。判例としては、社会的な事実関係が一致しており、変更前の訴因と変更後の訴因のそれぞれの犯罪事実が両立しない関係にあれば、公訴事実の同一性はある、と考えられています」
今回の栃木女児殺人事件の場合、どう考えたらいいのだろうか。
「今回の殺人事件の場合ですと、犯行日時と場所は変更されましたが、そのことで殺人の罪が両立する可能性というのはありえません。同じ被害者に対する殺人事件であって、例え日時や場所が違っても同じ人を2回殺害ができないと考えられるからです。ですから実質的に二重処罰の危険は生じず、公訴事実の同一性は認められる場合であると考えられます」
訴因変更はどんな場合でも認められるのか。
「公訴事実の同一性が認められたとしても、無条件に訴因の変更は認められません。
たとえば、裁判において、犯行当日のアリバイ立証が争点となっていたような場合、長期間の裁判の審理の終了間際に、訴因を変更することは、訴訟上の信義誠実の原則(刑事訴訟規則1条2項)、迅速な裁判の要請(憲法37条1項)といった観点から認められない場合もあります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
荒木 樹(あらき・たつる)弁護士
弁護士釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取扱っている。
事務所名:荒木法律事務所
事務所URL:http://obihiro-law.jimdo.com