2018年04月15日 10:02 弁護士ドットコム
再雇用の条件として、賃金を25%相当に減らす提案を会社がしたのは不法行為にあたるとして、会社に慰謝料100万円を支払うよう命じた福岡高裁の判決が確定したと朝日新聞が伝えている。原告と会社の双方が上告したが、最高裁が3月1日に不受理の決定をしたという。
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希望する人が65歳まで雇用されることを企業に義務づけた高年齢者雇用安定法の趣旨に照らせば、定年前と再雇用後の労働条件に「不合理な相違が生じることは許されない」と高裁判決は指摘。会社側が提案した再雇用の条件は「生活への影響が軽視できないほどで高年法の趣旨に反し、違法」と認めたという。
再雇用に際しての賃下げを不法行為とする判決が確定したことで、今後どのような影響がありそうか。労働問題に詳しい白川秀之弁護士に聞いた。
ーー今回の高裁判決確定をどう捉えますか
「これまで、本件のような事案は、不本意ながら賃金減額の労働条件に応じざるを得なかった労働者が正社員との待遇格差を労働契約法20条違反で争うことが多かったです。今回は、再雇用に至っておらず、従業員としての地位確認、賃金請求は棄却されたようですが、再雇用の拒否が不法行為と判断された事案です」
ーー高齢者雇用を進める趣旨を逸脱する再雇用の条件だと感じました
「高年齢者雇用安定法は、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的としています。企業は(1)定年年齢の引上げ、(2)継続雇用制度の導入、又は、(3)定年の定めの廃止のいずれかを講じる必要があり、継続雇用を希望する高年齢者全員を継続雇用することが事業主に原則として義務付けられました。
今回は、収入が75%も減るという労働条件の提示は、はじめから労働者に対して無理難題を言い、継続雇用を諦めさせようとするものなので、65歳までの雇用を確保するという継続雇用制度の導入の趣旨に反し、違法性があると判断したようです」
ーー再雇用に際して賃下げは常態化しているのでしょうか
「独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った調査によると、継続雇用者の給与は全体の平均で定年到達時の約7割の水準であり、定年後の賃金減額が常態化しており、賃金減額提案のため、継続雇用を諦めた人は多数いるのではないかと思われます。
あまりに不当な労働条件切下げを行う会社に対しては、損害賠償請求の支払を命じられる場合もあることを前提に交渉をする必要があると言えます。本事案は、再雇用に際する会社側の不当な賃金減額に警笛を鳴らす意味合いがあるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
白川 秀之(しらかわ・ひでゆき)弁護士
2004年、弁護士登録。労働事件が専門だが、一般民事事件も幅広く扱っている。日本労働弁護団常任幹事、東海労働弁護団事務局長、愛知県弁護士会刑事弁護委員会委員。
事務所名:弁護士法人名古屋北法律事務所
事務所URL:http://www.kita-houritsu.com/