2018年04月15日 10:02 弁護士ドットコム
「ワーケーション」という言葉を聞いたことがあるだろうか。仕事(Work)と休暇(Vacation)を組み合わせた造語で、休暇中に旅先などで仕事をするという新しい働き方だ。
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日本経済新聞電子版の「旅先で仕事『ワーケーション』認めます 長期休暇促す」(3月31日)と題した記事では、2017年度からこの制度を取り入れているJAL(日本航空)の事例を紹介している。
JAL広報によると、この「ワーケーション」はデスクワークの社員約4000人(グループ会社含む)を対象に、長期休暇の取得を断念しないための施策として始められた。半日単位(4時間)で認められており、所属長の了解が得られれば理由を問わずテレワークすることが可能。合計で4時間になれば問題ないという。結果として、2017年の有給取得率は90%(全社員の合算)と15年より17ポイント増えた。
こうした新しい取り組みについて、ネットでは「仕事をしていたら休暇じゃない」「本末転倒ではないか」といった批判もあれば、「お金が入るならいいんじゃないか」といった声も上がっている。
まだまだ聞きなれない制度だが、「ワーケーション」について、労働問題に詳しい弁護士はどのように評価するだろうか。
山田長正弁護士は「働き方改革に繋がると評価できる」と話す。
「会議など1週間のうち1日だけは休めない日があるような場合でも、この制度を使えばその日以外は休むことができます。長期の休暇を取得しやすくなり、休暇に関する選択肢も増える以上、働きやすさが向上するでしょう。
また、仮に従業員がワーケーション制度を利用しなくても、会社がそのような制度を導入したこと自体、年次有給休暇の取得を促進している姿勢の表れとも言えます。従業員にとってはより働きやすい環境になると思われます。
もちろん、会社にとっても、ワーケーション制度の導入により、採用率向上に伴う人手不足の解消や離職率の低下、無駄な会議の廃止等を通じ、一定のメリットもあります。導入を検討する余地はあるでしょう」
導入することで、企業側も労働者側もメリットがありそうだ。一方で、山田弁護士は「いくつか注意も必要だ」と指摘する。
「まずは労働時間の管理です。ワーケーションは『テレワーク』制度と同様に、職場で勤務状況を目で見て確認したり、タイムカードなどによる労働時間を把握したりすることができません。
労働時間は従業員の自己申告が原則となります。しかし、本当に従業員が申請した時間通りに就業しているかが不明であり、従業員の労働時間や残業時間の把握が困難になります。結果として、適正に人事評価を行うことができるのかという問題も生じます」
ワーケーションでは、休暇中に旅行先で勤務することもありうる。
「中には、勤務する環境が整っていない場所もあるでしょう。勤務意欲やモチベーションが維持できるのか、さらには情報管理上の問題もあります。
ワーケーション制度を導入するのであれば、ノートパソコンには必ずパスワード設定を行わせたり、社外に持ち出す資料も最小限にするなど、情報漏洩のリスクを最小限に抑えた上で、制度を利用させる必要があります。
さらに、休暇時にも『ワーケーション制度を利用するように』などと、社員に指示することも認めるかどうかも検討が必要です。ワーケーション制度の導入により、労働者にとって休暇の意義が損なわれることがないよう配慮が必要です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士
企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。
事務所名:山田総合法律事務所
事務所URL:http://www.yamadasogo.jp/