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X JAPAN、コーチェラ出演直前ライブに見た“20世紀Xの片鱗” 市川哲史『YOSHIKI復活の夜』評

2018年04月14日 13:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 観ました、話題の4・11『復活10周年記念X JAPAN LIVE 2018 アメリカフェス出演直前 PREMIUM GIGS~YOSHIKI復活の夜~』@Zeppダイバーシティ東京。


(関連:YOSHIKI、“天然のポジティビティ”取り戻す 市川哲史の「X JAPAN紅白+格付けGACKT共演」評


 さすがに1Fスタンディングに3万円、ましてや2F席に5万円も払う気にはならないので、WOWOW観戦である。有料視聴したんだから、好きに書かせてくれよ。


 今回の【大】テーマはライブタイトル通り、「YOSHIKIがドラムを叩きます!」だ。昨年7月にはドラム抜きで『X JAPAN WORLD TOUR 2017 WE ARE X Acoustic Special Miracle~奇跡の夜~』なる〈瓢箪から駒〉エンタまで案み出したあげくの、例の頸椎人工椎間板置換緊急手術以来11カ月ぶりの自爆ハイスパートドラム解禁、である。


 本当は暮れの『紅白』で華々しく復活済のドラムYOSHIKIだったが、リアルに3人倒れた欅坂46の前では無力だったため、この際なかったことにしたのか、〈今度こそ〉の雪辱戦がこのZepp公演2daysといえる。


 そういえば「日本人アーティスト初の英ウェンブリー・アリーナ公演」の座も、PATAの門脈血栓症で1年延期したためにBABYMATALに奪われたし、定番化しつつある女子アイドルに煮え湯を吞まされる図もなかなか微笑ましい。


 にしても、YOSHIKI命名のライブタイトルは昔から売り文句そのまんますぎて、清々しさすら憶える。


 『X PRODUCE~何が起こるか分からない。Xがパワステを借り切った!』に『X with Orchestra』に『新型エックス第一弾 日本直撃カウントダウン X JAPAN RETURNS』に『X JAPAN攻撃再開2008 I.V.~破滅に向かって~破壊の夜』に、単に3日連続で演るから『同・無謀な夜』とか、単に17年ぶりのライブハウスだから『X JAPAN COUNTDOWN GIG~初心に帰って~』とか、単に何度も延期したので『X JAPAN WORLD TOUR in TAIPEI~本当にやる夜~』とか『X JAPAN WORLD TOUR in YOKOHAMA 超強行突破 七転八起~世界に向かって~』とか――。


 もはや新聞のラテ欄、もしくはハッシュタグだなこりゃ。


 とはいえテーマが一つだけでは、いささか心許ない。


 Zepp翌日に渡米して、大型野外フェス『2018 Coachella Valley Music and Arts Festival』に出演するという話も立派なトピックではある。だが、晋三ちゃん肝入り(失笑)の官製〈クール・ジャパン〉がいつの間にかインバウンド頼りになるようなこの国で、いまさら海外有名フェス参戦にユーザーがざわつくとは思えないじゃないか。


 と勝手におせっかいしてたらフェス1週間前になって、「SUGIZOのビザの処理が遅れ最悪初日のステージに立てないかも」事件がアナウンスされた。さすがYOSHIKI、天の配剤には相変わらず事欠かない男である。


 すると再結成以後のXファンは優しいうえに熱心だから、「ヨルダンのシリア難民キャンプを訪ねたり『世界難民の日』にも参加したSUGIZOの経歴が、きっとトランプの難民排斥政策にひっかかって就労ビザ発行を妨害してるんだぁ!」などと、ネット上では〈詮索〉という名の妄想に華が咲くのだ。盛大に。


 こうして今年もまた、X JAPANはドラマツルギーを味方に稼働するのかぁ。


 さてライブの具体的な内容は、あちこちの音楽サイトを参照してもらえば済む話として――いちばんの見どころは当然YOSHIKIの太鼓叩き初(ぞ)めだから、「紅」「Rusty Nail」「X」など昔ながらのXクラシックスなのは言うまでもない。しかも各種ドラムのリムにはLEDが施されていて、まるでクリスマスの軒先のようにカラフルに光る中、上半身裸で叩きまくる。〈いつも主役のYOSHIKI〉が、今回は〈いつもより余計に主役のYOSHIKI〉仕様なのだから、そりゃおめでたい。


 しかも、Guns N’ Rosesのリチャード・フォータスにLimp Bizkitのウェス・ボーランドが、続々登場して弾きまくる。二人は1週間後のコーチェラ・フェスでも客演するようだから、この夜はフェスのゲネプロ代わりだったかもしれない。


 それでもこの夜は、〈SUGIZOもしもの代役〉を密かに拝命してたMUCCのミヤも呼び込まれるなど、賑やかな忙しなさが微笑ましくもある。「この景色はデジャブっぽいな」と悩んでたら、それこそ10年前の復活第1弾東京ドーム3daysが蘇ってきた。


 そりゃそうだ。あのときのX JAPANは〈ホログラムhide〉が正式メンバーで、ゲストギタリストがSUGIZO(LUNA SEA)とフォータスとボーランドだったのだから。


 あれ、今回のラインナップと一緒じゃん。


 印象深かったのは、いままで見たことのない喜色満面のミヤの姿か。2016年あの『VISUAL JAPAN SUMMIT』で初登場以来、ときどき出没する初期Xの優秀なコピーバンドX-SUGINAMIの首謀者が〈本物〉に参加できたのだから、これ以上の幸せはあるまい。観ていたこっちが涙ぐんでしまった(←嘘)。


 なおこの夜のYOSHIKIのMCによると、その〈ホログラムhide〉も新登場の〈ホログラフTAIJI〉と共に遠征して、コーチェラに出演するらしい。


 ああ、問答無用の「十年ひと昔」ライブを堪能してしまった。


 20世紀末(←こう書くと「昔々」感がハンパないな)の90年代に、それこそ思春期をXと駆け抜けたいわゆる〈運命共同体〉の元少年少女らが、この10周年を迎えた再結成X JAPANをどう捉えてるのか私にはわからない。


 私にとってはやはり、20世紀Xと21世紀Xは〈同名異バンド〉である。それはあくまでも感触であって、hideとSUGIZOの〈交代〉とか、再結成後いつの間にかYOSHIKIによる新ライブ名物として定着した、「うぃーあー?」「えーっくす!」「うぃーあー?」「えーっくす!」の不思議なコール&レスポンス無限絶叫パフォーマンス、といった具体的な違いではない。おもいきり違うけど。


 言ってしまえば同じ『スター・ウォーズ』でも、ジョージ・ルーカスによるオリジナル六部作と、ディズニー製作の近作『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』がどこか違うようなものなのだ。それでも20世紀組にとっては20世紀Xが、ご新規さんの21世紀組にとっては21世紀Xが〈X〉なのだから、30年以上にわたり認知される安心ブランドとなったこのバンドは、日本独自のエンターテインメントとして正しいのである。たぶん。


 再結成以降すっかりステージ上で喋り倒すようになったYOSHIKIが、この夜のMCでSUGIZOのビザ騒動の解決を報告した上でこう続けた。


「いろいろなことが起きるけどXは100転101起だから!」


 そういえば1992年5月、私と共著の人格別インタビュー(!)本『ART OF LIFE』の中で、YOSHIKIはこんな名言を吐いている。


「だから僕は5万1%の自信と、4万9999%の不安をいつも抱えてます。その2%の差が大きいんですよねぇ」


 元々パーセントで語るのが好きな男ではあったが「5万1%」とは、目茶目茶スケール感だけは感じさせるではないか。たぶん意味はないけど。だから今宵の「100転101起」というYOSHIKIらしい数字に、20世紀Xの片鱗を見つけてちょっと嬉しくなった私なのだ。本当か?(市川哲史)