スーパーGT第1戦岡山の決勝、ピックアップに苦しむジェンソン・バトンの走りを見ながら、山本尚貴は決断を迫られていた。いや、正確には誰も山本に判断を強要してはいなかった。自ら決めたのだ。「ここからジャンプアップするには、タイヤ無交換でいくしかない。やらせてほしい」。土曜日はミッションからのオイル漏れで公式練習を棒に振り、ドライ路面は未知数。あまりにも無謀な作戦に思えた。
じつは山本は、予選日のうちに「無交換ってアリかな?」とチームに提案している。周囲の反応は芳しくなかったが、山本は岡山公式テストでの感触を思い出していた。あの「初日はバトン占有」となった3週間前の2日間だ。
バトンがスーパーGT特有のピックアップに悩むような場面でも、そのクルマを引き継ぐと自分はタイムを出すことができていたのである。チームは山本の提案を受け、無交換に対応できる内圧やキャンバーへとアジャストし、バトンをグリッドに送り出した。
低気温でのウォームアップに苦しむライバル勢を後目に、アウトラップから激走する山本。だが引き継いだタイヤにはすでにマーブルがこびりついていた。それを取る走りをするうちに、塚越に抜かれてしまった。タイヤがクリーンになるとペースでは上回る場面もあったが、残り15周でエンジンのアラームが点灯。そのままチェッカーとなった。
レース後の山本の表情には同門対決に敗れた悔しさも滲んだが、新たな環境のなか自らの決断と働きでチームを2位に押し上げた満足感も感じられた。