2018年からスーパーGTに参戦するルーキー、フェリックス・ローゼンクヴィスト 2018年スーパーGT開幕戦岡山、ジェンソン・バトンや小林可夢偉といった実力と知名度の高さを併せ持つ“ルーキー”に注目が集まるのは当然だったが、彼らとは別に、やはりという感じで玄人筋をうならせる渋い活躍を演じた新人がいる。LEXUS TEAM LEMANS WAKO'Sのフェリックス・ローゼンクヴィストだ。
RAYBRIG NSX-GTのバトンが2位に入ったこともあり、4位だったローゼンクヴィストの活躍はややサブマリン的な印象になってしまったが、バトンと可夢偉が昨季のスポット参戦経験を有するのに対し、ローゼンクヴィストはGT500の真正ルーキー。しかもABBフォーミュラE選手権など他カテゴリーとの日程の問題で、開幕前の岡山~富士での公式テスト4日間のうち、彼が参加できたのは富士の初日だけである。
もちろん昨季はスーパーフォーミュラに参戦していたので、コース経験があり、チームとの付き合いも2年目という追い風材料はあるものの、それを差し引いてもローゼンクヴィストの開幕戦での活躍は見事なもので、どこでもなんでも速くて巧い“ミスター即戦力”の面目躍如だった。
スーパーGT初の予選に臨む前に話を聞くと「まあ、いい感じで来ていると思うよ」と、昨季のスーパーフォーミュラでもよく見せた、ひょうひょうたる笑顔のローゼンクヴィスト。開幕戦の週末、岡山国際サーキットは異常な低温傾向にあったが、タイヤのことを聞くと「OKだよ。もちろんもう少し暖かくなってくれた方がいいけどね」と、必要以上に気にしている素振りはない。
そしてQ1に臨んだローゼンクヴィストは、ドライコンディションで14台が1秒以内差という接戦のなかで、しっかり5番手に入ってQ2進出(8番手以内)を果たした(ウエットのQ2で相棒の大嶋和也が4番手に)。
決勝でのローゼンクヴィストは前半パートを担当。やや混乱気味のスタートから1周目をポジションキープの4番手で終えるが、前に出た2台のGT-Rがのちにジャンプスタートでペナルティを取られたのだから、実質的には2ポジションアップだ。
その後、KeePer TOM'S LC500のニック・キャシディには抜かれるが、ローゼンクヴィストは3番手でピットイン、大嶋に交代する。結果的にはタイヤ無交換作戦のRAYBRIG NSX-GTにピットで抜かれる格好で、ローゼンクヴィストと大嶋のWAKO'S 4CR LC500はレースを4位でフィニッシュすることになった(それ以外の順位攻防も後半パートにはあったが、トータルで見るとRAYBRIGに前に出られての3→4位)。
■「彼がF1に乗れていないのはおかしい。格が違う印象」
「初めてのレース、エンジョイできたよ。スタートはけっこう(まわりのみんなが)クレイジーな状況だったね。(GT300クラスの)トラフィックもやはり大変だった。タイヤのウォームアップに少し問題があったし、スティント終盤はタイヤがムービングしているところもあったんだけどね。でも、うまくマネージメントできたと思う」
まったくもって“新人感”のないレースぶりで上位フィニッシュに貢献したローゼンクヴィストの言である。山田健二チーフエンジニアも「普通はもっと苦労しますよ。過去にも海外から来た(他陣営の)選手が、最初はもっと苦労していたことがありましたよね。昨日の予選もレクサスのベテランたちでさえ苦戦する状況のなか、レクサス勢トップでQ1を突破してくれましたし、スーパーマンですね」とローゼンクヴィストを絶賛する。
山田エンジニアはローゼンクヴィストの良さを「真面目ですね。すごく真面目です」と、習得意欲の高さを強調。マカオF3で2回も勝ったのにF1には乗れず、いろいろなカテゴリーに出場するなど「そういう苦労をしてきているところも(彼の速さや強さにつながっている面が)あると思いますし、逆にいえば彼がF1に乗れていないことはおかしい。F1にいっても通用するでしょうね。格が違う印象を受けます」。納得のローゼンクヴィスト評である。
脇阪寿一監督も、「プラスアルファの能力の持ち主」と評し、彼があれだけのことをできるのは「勝負にいく前に徹底した準備があるからです」と語る。
ミスター即戦力たるローゼンクヴィストには、天性の閃きだけで走っているような印象を抱きがちだが、それもあるとはいえ、やはり真面目に入念な準備をしているからこそ、のようだ。
もちろん準備は誰でもしているはずだし、一日が24時間しかないのも皆、同じ。だから、おそらくは要点を得た、質の高い準備をできるのがローゼンクヴィストというドライバーの凄さの源泉なのだろう。
また、脇阪監督の評価にはコース上での振る舞いに関しての意味も汲み取れるように思える。たとえばオーバーテイクをするにしても、場当たり的に仕掛けるのではなく、その前に相手に対して入念に布石を敷いておいてから、仕留めにいく。「勝負にいく前の徹底した準備」とは、そういうことでもあるのではないか(GT500現役時の脇阪監督がそうだった)。いずれにせよ、ローゼンクヴィストと大嶋のコンビは今季GT500戦線において強力な存在感を放つことになりそうだ。
次の富士戦に向けてローゼンクヴィストは、たった1日だけ参加できた公式テストの感触をもとにこう語る。「富士にも我々のマシンは合っていると思う。自分たちのマシンはブレーキングが特にいいと富士テストでは感じられた。(ハンデ16kgなら)ポディウムを争うことができるだろう。もちろん、我々よりもハンデの軽いレクサス勢がいる、という状況はあるけどね。OK、いいと思うよ」。
真面目で、質の高い徹底した準備ができるからこそのひょうひょうさ。昨年のスーパーフォーミュラに続き、今年はスーパーGTでミスター即戦力が魅せてくれそうだ。