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UQiYOが語る“サブスク時代”の音楽の届け方 「ローカルな日本を土台に飛び出す時期が必ず訪れる」

2018年04月11日 13:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 UQiYOが、4月11日に3rdアルバム『Stones』をリリースする。


 UQiYOは2017年4月より、新たな試みとしてSpotifyやApple Musicをはじめとした各サブスクリプションサービスにて、毎月新曲を発表してきた。今作には、その新曲群が時系列順に収録されている。


 今回、リアルサウンドでは聞き手に音楽評論家の小野島大氏を招き、楽曲制作を手がけるYuqiに単独インタビューを行った。サブスク時代と言われる今の時代における音楽の届け方や活動方法、そしてUQiYOにとっての“日本らしさ”など、示唆に富んだ話を聞くことができた。(編集部)


■「面白い発想で、ひとひねりした試みができないか」


ーー3年ぶりのフルアルバム『Stones』ですが、各ストリーミングサイトで毎月1曲新曲を発表する「月刊少年ウキヨ」という企画でリリースした楽曲を時系列に収録したアルバムですね。


Yuqi:いやあ、もうほんとに……死ぬかと思いました(笑)。


ーー毎月新曲を出す。簡単そうに見えて大変な企画だったと思います。


Yuqi:そうですね……正直、わりと軽い気持ちで始めたんですけど、じわじわと「これはヤバいやつ始めちゃったな」と(笑)。


ーーそもそもどういうところから始まった企画だったんですか。


Yuqi:ちょうど1年くらい前だったと思うんですけど、サブスク(サブスクリプション制ストリーミングサイト)がいくつも出てきて、プレイリストという存在が本格的に注目され始めた時に、みんなの音楽の聴き方が変わる、みたいなことがしきりに言われるようになったんです。各アーティストもそれに対応してプレイリストを作ったりするようになった。じゃあアルバムを出さないでプレイリスト的な発想で、1曲1曲各プレイリストに載せてもらうように出せばいいじゃん、という考えまでは容易に行き着いたんです。でもそれだけじゃ、西洋的な合理主義に則ってるだけで、あまりにも心が通ってないし、冷たい感じがして。なにかひとつ面白い発想で、ひとひねりした試みができないかと思ったんですね。


ーーはい。


Yuqi:そこで考えたのは、作家の人って雑誌などで連載して、それがたまって単行本として出すじゃないですか。それを音楽でやってもいいんじゃないか、それこそがプレイリストであって、アルバムってそういう定義でもいいんじゃないかと思ったんです。まとめて曲を作って出すんじゃなく、毎月頑張ってコツコツ作ったものを発表して、それを単行本にするようにまとめてアルバムを作るのでもいいじゃないかと。


ーーじゃあ最初からアルバムにまとめるつもりで始めたわけですか。


Yuqi:うーん、ざっくりとは。最初はもっと短いはずだったんですよ。ミニアルバムでもいいと思ってたので。半年ぐらい、6曲ぐらいのイメージで。でもサブスクで再生数がどんどん伸びてきて、もっと続けてみようって話が出て……そこからが大変でしたね(笑)。もともとストック一切なしで、ちゃんとその月ごとに作ってたんですよ。


ーーストックなしで始めたんですか! 普通、作家も連載前に何回分か書きためておきますよ。


Yuqi:ガチンコだったんですよ、ムダに(笑)。楽曲を作ること自体は今でも好きなんですけど、とにかく時間が足りなくて。曲だけじゃなくMVも並行して作ってたので。しかもその間にいろんなお仕事をもらったり企画で海外に行ったり、複数のことを同時に進めていたら、一気に〆切りが押し寄せてきて。やっとできた! と思ったら、もう次の〆切りが来てる、というような状態で。


ーー『少年ジャンプ』の作家先生の気持ちがわかったような。


Yuqi:そうなんですよ。それで「月刊少年ウキヨ」ってタイトルにしたんですよ(笑)。


ーーUQiYOの楽曲はYuqiさんが1人で制作してますから、全てがYuqiさんの肩にかかってきますからね。でも自分で決めてやってることだから逃げようがないですよ(笑)。


Yuqi:そうなんですよ(笑)。ヤバかった。体調を維持することも大変で。


ーーどの段階が一番大変だったんですか。そもそもの発想の段階で時間がかかるのか、それを具現化して完成させていく過程が大変なのか。


Yuqi:僕は発想の段階で行き詰まることはあまりないんです。僕の場合、あまりプリプロはやらず、最初から清書のつもりでやるんですよ。最初から最終音源にするつもりで音をどんどん入れていって、ダメだと思ったら消していく。最初からペンと修正液で描いているような状態で作るんです。なのでとりあえずペンを走らせるまでは早いんですが、そこから納得いくところまで行き着いて、ミックス、マスタリングまでが時間がかかる。それを今回は数日間で終わらせなきゃいけなかったから。


ーー数学みたいに明快に答えが出るものでもないし、納得のラインを自分で決めなきゃならないわけですよね。


Yuqi:そうですね。だから〆切りの時点で納得いくもの、ということになるんですけど、今聴くと納得いってないところもあって、そういうところは今回CDにするにあたって修正したりしてるんですけど……とにかく「このままでは出せない」というラインを超えるのがいつも大変でした。


■「“体験”というものの大切さは未だにある」


ーーなるほど。今回のプロジェクトを始める時、テーマやコンセプトはある程度考えていたんですか。


Yuqi:まったく考えなかったですね。


ーーじゃあどういうモードで始めたんです?


Yuqi:イケイケっていうか(笑)、よしやってやるぞ、と。これは新しい試みだし、自分にとっても挑戦だって気持ちもあったし。あとは毎月、その時の季節だったり世の中で起こってること、音楽的なムードだったり、そういうこともフレッシュに感じ取って曲に落とし込むようにしてました。なのでほんとガチャガチャで。毎月毎月、結構振り幅があったんじゃないかと思います。


ーー一貫性を持たせるよりも、その時点の気分とか感情とかコンディションに素直に作っていった。


Yuqi:そうですね。普通バンドだと絞るのが大事だったりするじゃないですか。これは僕らです、というカラーみたいなもの。そこをものすごく最低限のレベルまで下げて、自分で「やべえ、一番かっこいい」と思うものを出すことに、ひたすら終始しましたね。


ーーじゃあアルバムの設計図みたいなものもなく。


Yuqi:そうですね。数カ月前にアルバムにしよう、CDを出そうって話になって、初めて「どういうアルバムになるんだろう」って考え始めました。


ーーストリーミングで発表するなら、それをそのままプレイリストにすれば今回のアルバムと変わらないような気もしますが、CDにするとまた違うわけですね。


Yuqi:モノの価値ってまだあるのかなと思ってて。やっぱり最終的にはCDで出したいと今は思ってますね。


ーー以前『Black Box』(2016年)のインタビューの時は「ストリーミングは便利だけど感動がない」というようなことをおっしゃってたんですが、そのへんは考え方が変わった部分もあるんでしょうか。


Yuqi:そのころに比べると、自分自身の音楽の聴き方がだいぶ変わったんです。プレイリストの良さをだいぶ享受してるので。ただ「体験」というものの大切さは未だにあると感じてるんです。「プレイリストで聞くという体験」もあるけど、それ以外にもいちアーティストとしてお客さんに提供できる方法はいくつかある。その模索は諦めちゃダメで。そここそがクリエイティブな部分だと思ってるので。


ーー個々の曲から受ける印象と、その楽曲が一定の曲順に並べられ、ある流れのある固まりとして聞いた時に受ける印象は変わると思います。実際に今回の楽曲を制作した時と、アルバムとしてまとめる作業の段階では、ご自分の捉え方とか感じ方は変わってきましたか。


Yuqi:そうですね……アルバムって言っても今回は「連載の単行本化」という考え方なので、曲順も時系列にしようと思いました。従来の「アルバム」の概念だと、シャッフルして一定の流れを作って、みたいなのがあると思うんですけど、今回は1年間という時間の流れを曲を通して感じてもらえればいいのかな、と。お金をもらって音楽を作らせてもらってる、という立場である以上は、ある一定の水準以上の完成度の高いものにするのは大事なんですけど、その中で自分自身の成長とか進歩みたいなものが毎月あるわけですよ。ある月(の楽曲制作)に気づいたことが自分の学びとして次の月に活かされてたりする。結構「修業感」があって、それがだんだん強くなってる。


ーーああ、修行の塔をどんどん登ってるみたいな。


Yuqi:そうそう(笑)。ミックスでもマスタリングでも、やればやるほど奥が深くて。僕は独学なんで、いつも手探りだったんですけど、今回はずいぶん学びましたね。最後の「loTus feat.Pt. Ajay Pohankar」は集大成感があって。今までの曲で学んだことを全部注ぎ込んで作りました。


ーーなるほど。前作から今作までの変化というと、キーボード担当のPhantaoさんが辞めて、2人編成になったことも挙げられます。


Yuqi:彼はオリジナルメンバーだったし、すごく大切なメンバーだったんです。去年の頭ぐらいに辞めたいと言われて。なんとかしようと思った時期もありました。彼にとどまってもらうために、どういうことができるか。なるべく彼の存在感が引き立つような曲を作ったりとか。それはこのアルバムの前半の方に入ってたりするんです。


ーーなるほど。


Yuqi:でも彼なしにやっていかなきゃいけないんだって腹をくくったタイミングも途中であって。そこからは完全にキーボードを全く意識しない作り方になったんです。


ーーああ、そういう一種のドキュメンタリーにもなっているわけですね。


Yuqi:そうかもしれないですね。なので後半は完全にギターロックみたいになってる(笑)。毎月毎月、いっぱいいっぱいの状態でやってたので、その時に起こってたことや考えてたことがそのまま反映されてる。それが全体としてどう見えるかなんて、先月ぐらいまで考える余裕もなくて。


ーーでも、今何かを創作することのリアルってそういうことじゃないですかね。U2みたいに何年もじっくり時間をかけてアルバムを作るとか、今の世の中の流れからすると少し違う。その都度の状況や感情の流れにフットワーク軽く対応していくことが要求されてる。特にサブスクの時代になって。


Yuqi:そうですねえ、確かに。フットワークの軽さはあるかもしれません。


ーーやっている間の反響はいかがでしたか。


Yuqi:そうですねえ、わかりやすいのはSpotifyなんですけど、アーティストページというのがあって、かなり詳しくデータが見れるんですね。性別、年齢、どの国のどの都市でどの曲がどれぐらいの回数再生されてるか。人数単位で出てくるので非常に面白い。それが曲を発表するたびにわかりやすく増えていって、最終的には累計で150万再生とか、それぐらいきました。日本だけじゃなく欧米やアジアのいくつかの主要都市で意外に大きな数字が出たり。それも曲によって違いがあって、非常に興味深くて。詳しい解析はこれからしようと思ってるんですけど、非常に貴重なデータなので、次にやっていくアクションにはすごく参考にできると思いますね。なかでもプレイリストの影響は大きくて。イギリスのあるプレイリストに入った途端、どんどんどんと数万単位で増えたり。何回かそういう現象があって。


■「僕にとってのローカルは、東京じゃなく“日本”」


ーー一方で、アルバムを作ってCDで出して全国をツアーして、というのが旧来の日本的な音楽ビジネスモデルですが、UQiYOは今後どういう形の活動になりそうですか。


Yuqi:実は去年、『Young Cultural Innovator』という国際カンファレンスに呼ばれてオーストリアのザルツブルグに行ったんです。世界中のアートやクリエイティブなことに関わる人たちが一同に集まって一週間討論するというカンファレンスで、僕も日本代表として呼ばれて参加したんです。いろんな国の人と話してすごく面白かったんですけど、そこで一番感じたのが、アメリカの人もカナダの人も、そこのローカルでの音楽シーンなりアートのシーンをすごく大切にしていること。そこにいるアーティストがどう食べていけるか真剣に考えてる。結局世界で売るとかいう前にローカルがまず大事なんだってことを痛感させられたんですね。で、僕にとってのローカルは、東京とかじゃなく、「日本」じゃないかと思うんです。日本が僕のローカルで、日本人として日本でまずは受け入れられるのが大事じゃないか。そういう意味でCDっていうのはみなさんが持って大事にしてもらうものとして、出す必要があると思ってます。でも同時にサブスクみたいなものも、これだけ手応えを感じている。ローカルな日本というものを大きな土台にして、サブスクを武器にして飛び出していかなきゃいけない時期が必ず訪れると思ってますね。


ーーUQiYOのいいところって、国籍とか地域の呪縛からいい意味で解き放たれていると感じさせてくれるところだと思います。それでいて日本らしさは失っていない。


Yuqi:日本全土がローカルと考えて、日本人であるというルーツだけはすごく大事にするけど、地方性、地域性みたいなものはあまり気にしない。「日本」という括りで、和楽器の音を取り入れるとかそういうことじゃなくて、日本で暮らして日本の空気を吸っている、という実感だけあればいいんじゃないかなって思います。UQiYOっていうゆるいコミューンが日本全国に広がって、日本全国っていうゆるい、生暖かいコミューンができたら、それをベースに僕らは世界に旅立てればいいかなと思います。


ーーUQIYOにとって「日本らしさ」って何ですか。


Yuqi:僕からすると「細かさ」なのかな。全部細かいと思う。人間関係から、モノ作りの精密さまで含めて。僕はサラリーマンでモノ作りにも携わって6年ぐらいやってたんですけど、ちゃんときめ細かく丁寧に、最後まで諦めないで作る。それに加えて慎重なだけじゃなく大胆にやれれば、日本のモノ作りとして世界に旅立つことができると思うんです。だいぶ崩れかかってはいますけど、でもまだまだ精神性としては根っからの職人民族だと思うし、日本人って。そこはすごく素敵なことだと思ってます。


ーーそう考えるとひとりでコツコツ作っていく作業はYuqiさんに合ってますね。


Yuqi:確かに(笑)。ほんと職人なんですよね、ただの。


ーーいま曲を作るときに日本国内向けとか海外向けとか、意識するんですか。


Yuqi:基本的には全然意識しないようにしてます。日本人向けとか海外向けというよりは、こういうシチュエーションで聞くと楽しいとか、そっちの方で考えるようにしてます。その方が最終的には楽しい気がするし。ただ、これから作るものに関しては、ギアをひとつ変えていく可能性がある。いろいろデータがあるから。


ーー海外の最新の音楽動向と、日本人であるUqiyoの独自性のバランスも考える必要がありますね。


Yuqi:そこはいつも考えてます。今回の楽曲を作っていた時も、時間との戦いの中で今やれるベストを常に考えてました。ただ、これからに関していうと、「その先」に行かなきゃいけないと思ってます。日本の最新の音楽と世界の最新の音楽ではだいぶ開きがある。どっちが前とかじゃなく、違う方向にある。でも自分たちは「その前」に行かなきゃと思ってます。そろそろやる時期だなって。


ーー「その前」とは?


Yuqi:今起こってる現象の最先端ではなくて、その先を見越してやるっていう。それがまったく見当違いの可能性もあるけど、でもそれをやることが、日本っていう国から世界へ何かを発信するってことの本当の意味なのかなって思っていて。


ーーなにかに追従するんじゃなく、自分が先頭に立って新しい価値観を提示しなくちゃならない。


Yuqi:と思ってます。今までもずっと、なんとなくは思ってたんですけど、今になってそれをはっきり意識し始めてる段階かな、という。


ーーそのために一番重要なことってなんでしょう。


Yuqi:マーケティングみたいなことは、基本的に過去のことしか映し出さないので、その影響を受けすぎない。それをちゃんと理解したうえで、一旦脇に置いて、これから何をやるべきかゼロベースで考える、ということですかね。


ーーSpotifyのデータを分析しすぎてもよくないと。


Yuqi:そうなんですよ。なにか新しいものが生まれる時って……たとえばアフリカの音楽がなにかと融合したとか、ちょっとしたアクセントみたいなもので急に何かが変わることってあるじゃないですか。新しいものが生まれるきっかけって、その「何か」なのかもしれないし、そういうものを敏感に拾っていく時期かもしれないですね。僕もいろんな企画で人と一緒に曲を作ったりすると、その化学反応だけでめちゃくちゃ楽しくて、いいものができてるっていう実感があるんですね。それを作る過程にもいい影響がある。そういう意味で、何かと何かを掛け合わせることって、いいものを生む気がします。螺旋のように、繰り返し、ちょっと古いものに戻ったりしながらも、次のものになっていく。次のフェーズはそんな感じな気がしてます。


ーー最後に。タイトルの『Stones』とは、何を意味してるんでしょう。


yuqi:ジャケットの「Stones」って文字、nのところに点を打つと「Stories」になるじゃないですか。「Stones」ってそこらへんに転がっている石ころなんですけど、それぞれにストーリー、歴史がある。僕らがそれに気づいてないだけで。それってすごく素敵なことだと思うんですよ。僕はこうやって曲を出して、曲の一個一個にはストーリーがあるんだけど、聴く人は別に石ころぐらいに考えてもらってよくて。最後に買ってもらった皆さんに点を打ってもらって、自分のストーリーにしてもらいたいなって気持ちもあるんですね。音楽って皆さんの人生のストーリーのBGMだと僕は思ってて、そんなアルバムになったらいいなという気持ちで、このタイトルにしました。(取材・文=小野島大)