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ゲスの極み乙女。はアップデートし続けていく 既発曲に新たな解釈与えた『MTV Unplugged』

2018年04月11日 13:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ゲスの極み乙女。が出演した『MTV Unplugged』が、3月25日に豊洲PITにて行われた。


 『MTV Unplugged』とは、アコースティックな手法でライブを行うMTVの人気企画。日本でも、これまでに宇多田ヒカル、平井堅、Chara、KinKi Kidsなどが出演し、通常のライブとは一味違ったパフォーマンスを披露してきた。


 出演が決定した際、川谷絵音は「ゲスの極み乙女。の真髄はメロディです。それを100%伝える機会を頂けたと思って頑張りたいと思います」とコメントを寄せていた。その言葉通り、この日の演奏からは、独創的かつ叙情的な、川谷の作るメロディの完成度の高さを十分に感じることができた。一回限りの企画ものライブというスペシャル感はありつつも、ゲスの極み乙女。というバンドのさらなる可能性を示す有意義な試みにもなったのではないだろうか。


 ゲスの極み乙女。のアコースティックライブは今回が初めてのこと。休日課長はウッドベース、ちゃんMARIはグランドピアノを弾き、えつこ&ささみおのコーラス隊も登場。さらに曲によってはサポートギターとして景山奏(Nabowa)、ホーン隊、ストリングスカルテットも加わり、普段とは違う楽器を取り入れての演奏が繰り広げられた。


 ちゃんMARIのピアノの響きを生かした「ユレルカレル」から幕を開け、序盤は「ルミリー」「息をするために」などのメランコリックな楽曲が続く。休日課長&ほな・いこかは抑制の効いたリズムを刻み、川谷も序盤はギターを持たず歌を丁寧に届けていった。


 この日は、ライブの定番と言える楽曲も、大胆にアレンジが変わっていたのも特筆すべき点だろう。「ロマンスがありあまる」では、ちゃんMARIがエレピを弾き、通常のせわしなく進んでいく展開よりも、メロディの豊かさが強調されていた。また、「課長がめちゃくちゃかっこいい曲」(川谷)と紹介して始まったのは、「ホワイトワルツ」。通常のライブだと、いこかとオーディエンスのコール&レスポンスで会場を盛り上げる役割を果たしているが、この日はまったく違う印象に。課長のウッドベースを軸に、ホーン隊それぞれのソロが加わり、また、川谷・いこか・ちゃんMARIの3人も記者会見のようなセットで歌い上げ、どこか張り詰めた緊張感が新鮮に感じられた。


 最近のライブでは滅多に披露されてこなかった「ラスカ」などのレア曲も交えながら、ライブ後半は曲ごとにストリングスカルテットとホーン隊が加わり、さらに華やかに進んでいった。最新アルバム『達磨林檎』収録曲である「某東京」「心地艶やかに」、そして「ハツミ」など、ジャズやソウル、ヒップホップの要素が感じられる曲が多く、大所帯での演奏がよく映える。本編ラストは、音源とも、通常のライブとも異なるアレンジの「キラーボール」で幕を閉じた。


 アンコールで再びステージに戻り、ラストに「bye-bye 999」を披露する前、川谷は「最初に作った時に今までのゲスの極み乙女。とは違った新しい曲になったと感じた」と当時を振り返った。苦しかった時期に制作したことを明かしながらも、自身にとって大きな意味を持つ楽曲であり、節目ごとにやっていきたいとも語る川谷。いつものライブとは違う親密な雰囲気だったこそ、川谷のパーソナルな心象風景を歌った「bye-bye 999」は特別に響いた。


 昨年より、ゲスの極み乙女。、indigo la End、DADARAYの3つを中心に、川谷絵音の音楽活動が加速的に活発化している。その中で、新曲を作るだけではなく、AmPmやPARKGOLFなどのトラックメイカーによるリミックスや、今回のライブでのアレンジの大幅な変更など、既発曲をこれまでとは異なる角度から見直し、刷新していこうとする動きも興味深い。MCでも「アンプラグド向きじゃない曲だからこそやりたい」「アレンジのために毎日スタジオに入った」と明かし、今回のアコースティック編成に大きな手応えを感じているようだった。おそらく今の川谷絵音は、どんな経験も血肉化して自身の創作活動に結びつけていくような状態にあるのだろう。6月22日には結成6周年を記念した、東京では初のホール公演『乙女は変わる』をNHKホールにて行うことも発表された。川谷絵音が手がける作品世界はこれからどんな進化を見せるのか。もちろん、期待しかない。(取材・文=若田悠希)