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王道の『わろてんか』と攻めの『半分、青い。』 視聴者ひきつける朝ドラの攻防

2018年04月11日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年の上半期の朝ドラ『半分、青い。』がいよいよ幕を開けた。放送開始から1週間。主人公の子供時代から始まる朝ドラの定番スタイルの斜め上をいく、胎児姿での登場には驚かされたが、ユーモラスな会話劇やコミカルな展開も相まってか、週間平均視聴率は20.1%(以下・ビデオリサーチ調べ、関東地区から算出)と概ね好調の様子。星野源による主題歌「アイデア」も、朝に相応しい軽快なメロディでドラマを盛り上げている。


参考:清々しいにも程がある! 永野芽郁×星野源『半分、青い。』オープニング、朝ドラに革命起こす


 主な舞台は岐阜県。聴覚障害を持つヒロインの楡野鈴愛が、さまざまな困難を乗り越えながら、ある一大発明を成し遂げるまでの半生を見つめていく。中盤では夢に敗れ、シングルマザーになる展開もあるとのことで、なかなかの苦労人にも思えるが、鈴愛本人のキャラクターは大らかで度胸があり、明るくハツラツとした女の子という印象。演じる永野芽郁はモデル出身の若手女優で、これまでは『俺物語!!』などティーン向け映画やドラマで存在感を示してきただけに、朝ドラ出演でどれだけ株を上げられるかにも注目が集まる。時代背景は高度経済成長の終わりから現代まで。その時々のカルチャーにもスポットが当てられ、視聴者層的にも共感しやすいドラマ、ヒロインになりそうだ。


 前作『わろてんか』は吉本興業の創業者・吉本せいという実在の人物をモデルにした物語だった。裕福な家に生まれながら元芸人と駆け落ち婚をし、笑顔と機転とアイデアで夫を支える妻を葵わかなが健気に演じた。ほぼ無名での大抜擢ながら、少女時代から壮年期までを見事に演じあげたことには素直に拍手を送りたい。まさに朝ドラが得意とする「女の一代記」のお手本のような作品でもあった。ただし、それだけに残念だったのがヒロイン像としてもドラマとしても、“優等生”に終始していたこと。よく言えば安定感、悪く言えば単調。せっかく“笑い”という普遍のテーマを掲げたのであれば、もっと賑々しく、こちらの想像を裏切るような展開があってもよかったのではないかと思ったのも事実だ。


 その点、今作『半分、青い。』は、片耳の聴こえないヒロインの設定といい、冒頭述べた生まれる前からの描写といい、出だしから随分と挑戦的だ。朝ドラの場合、あまり初週から飛ばしすぎると固定ファンの離脱を早めてしまうというアンビバレンツが生じやすいが、それを押してまでも新しいことに挑むのには、初の朝ドラ脚本を務める北川悦吏子の存在が大きい。


 北川氏といえば『愛していると言ってくれ』『ロングバケーション』『ビューティフルライフ』(全てTBS系)と、TVドラマ史に残る傑作ラブストーリーを数多く手がけてきた名脚本家。本作には、ヒロインの出身地といい、登場人物が患う持病といい、北川氏本人の経験や境遇が色濃く反映されてもいる。それだけリアルで丁寧にドラマを描いていこうとする姿勢の表れだろう。また、彼女にとっては実績のあるラブストーリーでなく、人間ドラマを描くというのも大きな変化で、それに関しては「私は恋愛よりも家族を書くことに恥ずかしさを感じるタイプで、ホームドラマをずっと避けてきたんですが、序盤のお話を書いていく中で、恋愛も家族も変わらないなと思いました。私は人と人とのつながりを書くのが好きなんだと、改めて感じているところです」と語っている(『半分、青い。』公式サイト|インタビュー 脚本・北川悦吏子より)。つまり本作は北川氏の“冒険”そのもの。それだけに集大成となるのではとの期待もかかる。


 『わろてんか』ではスタンダードを、『半分、青い。』ではセオリーから外れたものを。このバランスは前年の『べっぴんさん』の王道ぶりと、その後の『ひよっこ』の異端さにも不思議と通じる。まるで前後の作品が互いに補完しあうことで、ルーティーンで視聴している層にも飽きさせないテンポを生みだしているかのようだ。


 さあ、攻守交代。これから半年間は攻めの朝ドラで大いに楽しませて欲しい。(渡部あきこ)