ついに開幕を迎えたWTCR世界ツーリングカー・カップで初代勝者に輝いたガブリエル・タルキーニ 2018年から世界最高峰のツーリングカーシリーズとして創設されたWTCRワールド・ツーリングカー・カップの記念すべき開幕戦がモロッコのマラケシュ市街地で開催され、BRCレーシングのヒュンダイi30 N TCRをドライブする56歳のガブリエル・タルキーニが、オープニングのレース1、そして日曜レース3も制し、栄えある初代勝者の栄冠に輝いた。
2005年から続いた文字通り世界選手権のWTCC世界ツーリングカー選手権と、創設から4年で瞬く間にグローバル・カテゴリーへと成長を遂げたTCRインターナショナル・シリーズが合流する形で誕生したこのWTCR。
その初年度には、双方の選手権で戦っていたトップドライバーたちが集い、26台のTCRマシンがグリッドに並ぶ豪華絢爛たるシリーズとしてスタートを切った。
4月7日に開催されたその最初の予選で初代ポールシッターとなったのは、イバン・ミューラー・レーシングから参戦する最後のWTCC王者、テッド・ビョーク(ヒュンダイi30 N TCR)で、フロントロウにはBRCレーシングでタルキーニのチームメイトを務める元WTCCホンダ・ワークスドライバーのノルベルト・ミケリス(ヒュンダイi30 N TCR)がつけた。
しかし、ミケリスのマシンは予選中盤にこのタイムをマークするもマシン後方から炎を上げて激しくブロー。赤旗中断の要因となっただけでなくエンジン交換により最後尾グリッド降格が言い渡されることに。
これで実質的2番手となるセカンドロウ3番手にはタルキーニがつけ、カスタマーデリバリー初年度からヒュンダイのマシンが高い戦闘力を持つことが明らかとなった。
迎えた記念すべきレース1スタート。ドラマ満載のこのレースで、最初に1コーナーを制したのはタルキーニだった。
同じヒュンダイに乗るビョークを出し抜き、ここからリードを拡大すべくスパートしようかというその矢先、1コーナーでは後方集団で多重クラッシュが発生。
WTCR最後の参戦発表ドライバーとなったジェームス・トンプソン(ミュニッヒ・モータースポーツ/FK8ホンダ・シビック・タイプR TCR)が1コーナーにターンインしたところ、そのシビックのリヤに、コム・トゥ・ユー・レーシングのフレデリック・バービッシュ(アウディRS3 LMS)がヒット。そのアクシデントが引き金となり、後続が次々と巻き込まれる事態となり、トム・コロネル(ブーツェン・ジニヨン・レーシング/FK8ホンダ・シビック・タイプR TCR)、マット・オモラ(DGスポーツ・コンペティション/プジョー308 TCR)、オーレリアン・パニス(コム・トゥ・ユー・レーシング/アウディRS3 LMS)らがストップ。
パニスとバービッシュのマシンはそこでリタイアとなったものの、コロネルは自力でピットへと戻り、同時に出動したセーフティカー(SC)と赤旗中断にも助けられ、なんとかレースリスタート時にコースへと復帰することができた。
そのリスタートでも集中力を切らさなかったタルキーニは、現役WTCC王者を相手に一歩も引かない駆け引きを見せてトップを堅守。ビョークの背後には4番グリッドのTCR王者、ジャン-カール・ベルネイ(アウディスポーツ・レパード・ルクオイル/アウディRS3 LMS)をかわした2012年WTCC王者のロブ・ハフ(セバスチャン・ローブ・レーシング/フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)が上がってくる。
しかしここで25番グリッドからポジション挽回を見せていたミケリスにふたたび悪夢が襲い、左フロントホイールの取り付けがルーズとなりコース脇にストップ。これで2度目のSCが導入されることに。
11周目に再開したレースはふたたび56歳の老兵が先頭集団を指揮し、ビョーク、ハフを引き連れて3台の編隊走行に。ビョークも再三、前を行くマシンの隙を伺うものの、経験豊富なイタリアンは付け入る隙を与えず、そのままのポジションで20周のチェッカー。自らの手で開発を続けてきたヒュンダイの新型TCRマシンに、栄えある最初のWTCR勝利をプレゼントするとともに、自らも初代勝者として歴史にその名を刻んだ。
「子供のことは何でも知っているようなもんさ!!」と、自らの愛機をそう例えたタルキーニ。
「スタートが鍵になることはわかりきっていたので、そこに“息子”を押し込んだよ(笑)。首位に立った後はリラックスしていたんだ。オフにしてきた開発の成果が理解できていることはもちろん、このコースでオーバテイクするのは並大抵の技術では不可能なことを知っているからね」と、満面の笑顔を見せたタルキーニ。
続く日曜のレース2は、ベルネイが地元の英雄であるメディ・ベナーニ(セバスチャン・ローブ・レーシング/フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)と好バトルを演じ、大観衆を沸かせる初勝利を挙げると、午後の最終レース3でもタルキーニがふたたびの勝利。2位にはレースを通じてタルキーニを追ったイバン・ミューラーが入り、2005年のWTCC創設年を思わせるワン・ツーに。3位はビョークとなり、ヒュンダイが表彰台を独占している。
続く第2戦、ハンガリー・ラウンドは3週間後の4月28~29日に開催される。