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Block B、iKON、WINNERなどのメンバーも 韓国で盛り上がる“アイドルラッパー”のソロ活動

2018年04月09日 16:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 韓国のアイドルポップスにHIPHOPが根づいていることは周知のことだろう。韓国で近年のHIPHOPジャンル一般化への大きなきっかけになったと言われるサバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』(以下、SMTM)はアイドルラッパーが優勝したシーズン3、準優勝したシーズン4をピークに現在はシーズン6を終え、現役アイドルはほぼ参加しなくなった代わりに若手ラッパーのアイドル化とも言える逆転現象も起きつつある。並行するように2013年頃からのHIPHOPアイドルブームは2015年をピークに徐々に沈静化してきた。


 しかし一方で、BTS(防弾少年団)のJ-HOPEのようにアイドルグループに所属する特に男性アイドルラッパーが、ミックステープやトラックを発表するケースは増えている。今回はソロでHIPHOPトラックをリリースしているアイドルラッパーを何人か紹介したい。なお、BTSメンバーのミックステープに関しては別途記事で触れる予定であり、今回は含まれていないことをお断りしておく。


■ZICO(Block B)


 まず現在の韓国のアイドルラッパーの中で、別格な存在とみなされているのが、Block BのリーダーZICOだろう。デビュー前からラップユニットのGeeksや『SMTM 3』ファイナルラウンドに残ったGiriboy等人気ラッパーが所属するBuckwildsやDo’main等のヒップホップクルーに所属し、現在もDEANやCrush等が所属するFANXYCHILDを率いている。


 クリアな発音・多彩なフロウ・パンチラインの効いたリリックといった技巧的な点だけでなく、作詞作曲プロデュースまでヒップホップトレンドを牽引する一人とも言える。BIGBANG以降の若手男性アイドルソロでは現在最も音源が売れる存在であるが、コリアンヒップホップアワーズ(旧HIPHOPPLAYA Awards)にもノミネートされており、大衆性だけでなくヘッズからの評価も兼ね備えている。昨年リリースした2ndミニアルバム『Television』収録の「ANTI (Feat. G.Soul)」は自身に向けられるアンチコメントの投稿主になりきったリリックで、自分に向けられた刃を外部へと反転させて突きつけるような洞察力の鋭さを見せた。一方で自身がプロデュースを務めるBlock Bの楽曲では、メンバーに合わせてヒップホップに留まらない多彩な音を作り上げ、時に叙情的なリリックも見せている。デビュー以降紆余曲折ありながらも、ぶれずにアイドルとラッパー活動を並行して地道に続けて来たことが、今の大衆認知度と業界からのリスペクトとして結実したのだろう。


■BOBBY(iKON)


 ZICOと並んでアイドルラッパーとして高い実力を持ち、一般層にも認知されているiKONのBOBBY。韓国生まれだが家族と共にNY留学中に現地のYGオーディションに合格し、中学生ながら単身ソウルでYG練習生になった帰国子女だ。iKONとWINNERが対決したデビューサバイバル『WIN』でも評価されていたが、BOBBYを一躍有名にしたのは『SMTM3』での優勝だろう。Vasco(現Billy Stax)のようなベテランから若手ラッパーまでが参加した大会で、大手事務所の有名アイドル練習生という立場は注目と反感を集めたが、メンターであったDok2とThe Quiettにも助けられ優勝した。


 最大の特徴は一聴してわかる唯一無二の個性がある唸るようなフロウと、どこかセクシーなハスキーで低いトーンの声だろう。リリックが聴き取りづらいという批判もあるが、ヒップホップメディアのインタビューでYoung ThugやRich Homie Quanのようにあえて発音を潰しているようなラップに憧れるとも発言している。昨年リリースした初のソロアルバム『LOVE AND FALL』では全曲の楽曲制作に参加し、甘い歌声のラブソングから自伝的なナンバー、swagの効いたラップまで多彩な面を見せた。iKONの創作面でも、やはりラッパーでありリーダーのB.Iの片腕的存在として多くの楽曲に参加している。


■MINO(WINNER)


 現BRANDNEW MUSIC所属のラッパーHanhaeと共に、デビュー前のBlock Bに参加していたのがWINNERのMINOだ。家庭の事情でBlock Bとしてはデビューしなかったが、その後BoMというボーカルグループでデビューし(2013年に解散)、スカウトでYG練習生になった直後にデビューサバイバル『WIN』に参加して翌年WINNERとしてデビューした。グループは新人賞を総ナメにする等デビュー直後から人気を得たが、MINOがラッパーとして評価されたのは『SMTM 4』だろう。3でのBOBBYの優勝を受け、4にはアイドルラッパーが過去最多数参加。大手事務所の人気グループからの参加ということもあり、プログラム中でもしばしばdisのターゲットにもなった。途中で歌詞の内容が議論になり謝罪する等の問題がありつつも、最終的にはBasickに次いで準優勝を果たした。


 番組内でリリースした「Fear(feat.SOL)」は内面の弱さをストレートに吐露した歌詞が共感を呼び、同番組最大のヒット曲となった。MINOのラップスタイルは、低いトーンの声でありながら歌詞はクリアに聞こえ、さらに歌詞のユニークさに定評がある。リリックの頭がカナダラ(ハングルのアイウエオの様なもの)順になっていたり、シリアスな歌詞にユーモアのある擬音をあえて入れたりとセンスのあるライムと言葉選びが特徴だ。所属しているWINNERでは、リーダーYOONとラッパー兼ダンサーHOONと共同で曲を作るケースが多く、トレンディからセンチメンタルまでソロと比較するとより爽やかな作風が多い。


■BANG YONG GUK(B.A.P)


 デビュー前からアンダーグラウンドのクルーで活動していたのがB.A.PのリーダーBANG YONG GUKだ。中学生の時にヒップホップユニットCrispi CrunchのCRPが主催したソウルコネクションにJepp Blackman名義で参加し、ラッパーのMasloとBlackoutというデュオを組んでいたこともある。2010年にTSエンターテインメントにスカウトされ、2012年にB.A.Pとしてデビュー。その後事務所との訴訟騒動から決着するまでの活動空白期間にはsoundcloud等でソロトラックを発表しており、「AM4:44」には当時の心境が赤裸々に綴られている。


 B.A.Pとしての活動時には重めダンスチューンからアイドルらしいポップな曲まで幅広くこなしているが、本来のトーンはアイドルラッパーの中でも特にダークで、ソロ活動とグループでのギャップが一番大きいかもしれない。2017年にリリースした「YAMAZAKI」は和楽器を取り入れたスローでdopeなトラックと日本語まじりのウィスキーを讃えるリリックにYONG GUKの低い声が陰鬱に絡みつき、タトゥーと血飛沫の飛び交うセクシーなMVも相まって、他のアイドルラッパーの追随を許さないアダルトで中毒性のある1曲となっている。グループの楽曲制作にも参加しており、SLEEPYやSecret等の事務所の先輩だけでなくVIXXやファン・チヨル等外部アーティストへの歌詞提供も行っている。


■RAVI(VIXX)


 MINOが準優勝した『SMTM4』にも参加、第2ラウンドで脱落するもその後も精力的に楽曲を発表しているRAVI。『SMTM3』でBOBBYがアイドルラッパーをdisした時もきっちりとアンサーソングを発表していた。HIPHOP界の人脈もあり、自身の作品にも複数人のラッパーが参加、Swingsも親しいアイドルの一人と言及している。グループのデビュー後から本格的にラッパーとして活動を始めたが、ミニアルバム『R.EAL1ZE』は商業作品としてリリースする等、ラッパーとして積極的に表舞台に出ていく向上心の高さが目立つ。VIXXではユニットのVIXX LRも含めて楽曲制作に参加しており、後輩のgugudanや他事務所のB.I.Gにも曲提供を行っている。


■VERNON(SEVENTEEN)


 アイドルラッパーが一般的に認知されるのに大きな役割を果たした『SMTM』だが、逆方向に認知されてしまったのがSEVENTEENのHIPHOPチーム所属のVERNONだ。『SMTM4』参加当時は17歳でデビューしてから1カ月足らずだった。当時は経験、スキル共に不足しており3回戦で脱落したが、当時所属事務所のPledisと親交が深く楽曲制作にも深く関わっているBRANDNEW MUSICがPDとして参加しており、2回戦で脱落しなかったのはジャッジに贔屓があったのではないかと他のラッパー達から名指しで指摘され、疑惑の目線を向けられることになった。しかし脱落後にリリースしたDok2プロデュースのソロトラック「LOTTO(feat.Don Mills)」では、当時の心境と思われる率直な歌詞と、スキル的にも内面的にも成長した姿を見ることができた。続けて発表した「Lizzie Velasquez」は実在のアクティビストをタイトルにし、J.Coleの原曲「January 28th」をなぞった彼の生い立ちと内面を反映した1曲となっている。今後の成長が楽しみな一人だ。


■Mark(NCT)


School Rapper [8회]′차가운 시선, 괜찮아 누가 뭐래도′ 마크 (feat.슬기 of 레드벨벳) – ♬두고가(Drop) @Final 170331 EP.8
 HIPHOPブームに同調せず、あくまでもEDMメインのアイドルポップスを貫いていたSMエンターテインメントだが、2016年にリリースされたNCT Uのデビュー曲「the 7th Sense」は衝撃だった。それまでのSMドルの“ラッパーというよりラップパートの担当”を超え、明らかにHIPHOP的なセンスとフィールを感じるラッパーが現れたからだ。Markのラップパートはたった20秒足らずの尺ではあったが、インパクトは大きかった。翌年の2017年に韓国版高校生ラップ選手権とも言えるラップサバイバルプログラム『高等ラッパー』が始まり、高校3年生だったMarkも参加。SMエンタのアイドルという偏見に勝ち、最終的に決勝ラウンドまで進んだ。


 Markの特徴と言えば独特の反復のあるリリックとリズミカルでクリアなフロウ。ダンサーならではのリズム感の良さは番組内でも審査員から評価されていた。ダンスパフォーマンスに特に力を入れるSMエンタ独自のカラーを持ったラッパーとして、新しいスタイルを作り出す可能性を秘めていると言えるだろう。


 韓国のアイドルグループではラップパートの存在が不可欠ではある。その一方で、アイドルポップスのジャンルとしてのHIPHOPブームが落ち着いたことで、アイドルラッパー達にとってはアイデンティティとも言えるHIPHOP/ラップ、あるいは創作への意欲をぶつける場所としてのミックステープやソロ活動という流れが生まれ始めているのかもしれない。


 BIGBANGの成功以降、HIPHOPアイドルブームの流れから急速に増えた自作アイドルも、男性アイドルではすでに定着しつつある。TWICEやGOT7が所属するJYPからデビューしたばかりのStray Kidsなどは、デビュー前から楽曲制作に携わるメンバー内のヒップホップクルー作の曲をInstagramやsoundcloudで発表するなど、過去のJYP所属のグループとは明確に違うスタイルで注目されている。また、ダンスミュージックにおいてもtrapのようにHIPHOPをルーツに持つベースジャンルの流行もあり、スキルとリアリティのあるラッパーの存在が不可欠となりつつあるのが、今の韓国アイドルグループなのかもしれない。(文=DJ泡沫)