F1バーレーンGP決勝で3番手を走行していたキミ・ライコネンが、レース中盤の35周目に2度目のピットストップを行う。ソフトタイヤからスーパーソフトに交換してピットアウトするはずが、ライコネンのマシンは直後にピットレーンでストップした。
左リヤタイヤの交換が完了していないまま、ピットアウトしてしまったからだ。だが、マシンはピットレーンにあったのだから、ピットクルーが走って行って、マシンをピットエリアまで戻してタイヤ交換作業を完了させれば、レースは再開することができたはず。
なぜ、ライコネンはピットクルーが駆けつける前にマシンを降りて、リタイアしたのか。
じつはこのときピットエリアではライコネンのマシンに足を引かれたメカニックが横たわったままでいた。脛骨と腓骨を骨折したメカニックのフランチェスコ・チガリーニの左脚の状況を見たほかのメカニックたちが、ただ事ではないと悟り、怪我をした仲間の救護にまわっていたため、ライコネンのマシンを引き戻すのが遅れてしまったのだ。
ピットウォールにいたエンジニアも事態を深刻に受け止め、マシンを引き戻すことなく、リタイアを決断。無線でライコネンに「パワーユニットのスイッチを切って、降りるように」と指示を送った。
もちろん、メカニック全員でなくても、数人で取り戻すことは可能で、実際にマシンはフェラーリの残りのメカニックの数人によって引き戻されている。だが、すでに十数秒も停止したままのライコネンのマシンはブレーキが発熱して白煙を上げ、レースを続行できる状態ではなかった。たとえ、すぐに引き戻したとしても、タイヤを交換するスタッフが1人倒れたままにして、スタッフの救護よりもレースを優先するという選択はフェラーリ陣営にはなかった。
ところで、なぜライコネンはタイヤ交換が終了していないにもかかわらず、クルマを発進させたのか。
現在のF1はピットストップはロリポップ式ではなく、シグナル式となっている。ドライバーの目の前に信号が設置され、赤から青になると発進しても良いという合図になる。4輪それぞれのホイールガンに取り付けてられているスイッチが完了を示すボタンを押さなければ、信号は青にはならない。つまり、左リヤタイヤを担当するガンマンがタイヤ脱着の作業が完了する前に、誤ってボタンを押した可能性が高い。
なおフェラーリは、優勝したコンストラクターを代表して登壇するスタッフとして、通常の首脳陣ではなく、ピットストップ中に負傷したフランチェスコに敬意を払う意味で、レース後、別のメカニックの1人に表彰台に上げた。