香取慎吾、草彅剛、稲垣吾郎のオフィシャルファンサイト「新しい地図」によるオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』が、本日4月6日から公開。CINRAのオフィスから近いTOHOシネマズ渋谷で早速鑑賞してきた。
■「事件性」を帯びた謎の映画、『クソ野郎と美しき世界』
全国86館にて2週間限定で公開される同作は、4作から構成されたオムニバス作品だ。4作品はそれぞれ、稲垣吾郎主演の園子温監督作『ピアニストを撃つな!』、香取慎吾主演の山内ケンジ監督作『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』、草彅剛主演の太田光監督作『光へ、航る』、さらにクソ野郎★ALL STARSが出演する児玉裕一監督作『新しい詩(うた)』。企画初期段階のコンセプトは「ぶっとんでるけど愛がある」。
予告編には「アクション&ファンタジー&ラブ&ミュージック オールジャンルムービー!」「極悪でバカで泣けて踊れる」「クソ野郎だらけ つながる4つのストーリー!」といったキャッチコピーが踊っていた。ラストの『新しい詩(うた)』がミュージカル仕立てになっており、稲垣、香取、草彅が合流することが示唆されていた。
『クソ野郎と美しき世界』は謎に包まれていた。意味深なタイトル、ビジュアル。そして4人の監督陣。エンタメ界の各ジャンルを揺さぶるような人選に驚かされた。3人のジャニーズ事務所退所後初の主演映画という意味では、芸能史的な点でも事件性を帯びた作品である。さて、一体どんな作品だったのか? ネタバレをできるだけ避けつつ、紹介していきたい。
■稲垣吾郎×園子温『ピアニストを撃つな!』
17歳で詩人としてデビューし、20代から映画制作を開始した園子温。『愛のむきだし』『ヒミズ』などの作品で国内外から高い評価を受けている。
『クソ野郎』の冒頭を飾る『ピアニストを撃つな!』は、稲垣吾郎演じるピアニスト、馬場ふみか演じるフジコ、浅野忠信演じるマッドドッグこと大門および満島真之介演じるジョーを巡る、愛と暴力の逃走劇。ストーリー自体も荒唐無稽でスラップスティックだが、俯瞰的な視点から観客に物語を語る稲垣吾郎の語り口は、「なんでもあり」なこの作品にふさわしい。予告編でも耳に残った「愛してる」という言葉は、この章を通じて40~50回程度発せられたのではないだろうか。
なおタイトルの『ピアニストを撃つな!』は、フランソワ・トリュフォー監督による1960年の作品『ピアニストを撃て』から取られたものと思われる。現代アートファンにとっては、美貌、知性が優れた「完璧」な女性としてスプツニ子!が登場している点も見逃せないところだ。
■香取慎吾×山内ケンジ『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』
香取慎吾主演の『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』で監督・脚本を手掛けた山内ケンジは、演劇ユニット「城山羊の会」の主宰。2015年に「演劇界の芥川賞」とも呼ばれる『第59回岸田國士戯曲賞』を受賞した。2011年には『ミツコ感覚』で長編映画監督デビュー。人間関係における不条理さや滑稽さを、ブラックな笑いを交えながら、軽妙かつ繊細な手つきでえぐり出す作風が特徴だ。
『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』は『クソ野郎』全編を通しての白眉とも言える作品。香取慎吾の演技はシリアスさとシュールな笑いのバランスを絶妙に引き出していた。目を引いたのは歌を食べて生きる「歌喰い」役の中島セナ。存在感が圧倒的で、2006年生まれというのが信じられないほどだ。元SMAPたちが直面している現実の出来事も巧みに取り入れた山内ケンジの脚本は見事の一言。「クソ野郎」という言葉に別の角度から光を当てている。
■草彅剛×太田光『光へ、航る』
爆笑問題の太田光が約27年ぶりにメガホンを取った『光へ、航る』。カート・ヴォネガットやジョン・アーヴィングの小説を愛し、チャールズ・チャップリン、ウディ・アレンらを敬愛する太田監督は、親子や夫婦の絆を描いた。
主人公オサム役を演じる草彅剛のチンピラのような危なっかしいセリフ回しや、裕子役の尾野真千子との爆笑問題を思わせる時事ネタを取り入れた勢いのある会話が見どころの1つ。尾野真千子の演技はとにかく力強くエモーショナルだが、悪態をつきながら現実に向き合い、言外に優しさを滲ませる草彅の演技はさすがと思わせる。小道具の野球ボールといい、古き良きロードムービーを思わせる展開といい、どこかノスタルジーを感じさせる作品である。
■グランドフィナーレは児玉裕一監督によるきらびやなミュージカル。歌と踊りの力を堪能
椎名林檎をはじめ、Perfume、水曜日のカンパネラ、DAOKOといったアーティストのPVを数多く手掛けている児玉裕一。椎名林檎が作詞作曲したSMAP“華麗なる逆襲”のPVでも監督を担当した。
「CLUB KUSO UNIVERSE」の支配人を狂言回しに、稲垣、香取、草彅らが集結。音楽の華やかさ、彼らの歌の説得力を堪能できる大団円となっている。あのラッパーもさりげなく登場していたりする。
愛への飢餓を抱えた『ピアニストを撃つな!』の登場人物たち、「歌」を食べなければ生きていけない「歌喰い」と、歌を失ってしまう歌手たち、そして自身の小指と息子を失う父。彼らは何かを失い、何かを得ようとする。それが『クソ野郎と美しき世界』全体を貫くテーマの1つだろう。私たちはSMAPを失った。だがここから新しい何か、これまで観たことがなかったエンターテイメントが始まる。いや、もう始まっている。そんな感触が得られる作品である。やはりこの映画は1つの「事件」だった。