GT300クラス 決勝スタート 不順な天候、波乱の展開……。混戦が予想されていたスーパーGT第1戦岡山だが、ここまでの混戦を誰が予想しただろうか。終わってみれば、GT300クラスの決勝は悲願の優勝となったUPGARAGE 86 MCの勝利、予選20番手からスタートしたD’station Porscheの2位、圧倒的に速いと予想されていたHOPPY 86 MCの3位という結果となった。いったいなぜこんな結果となったのだろうか。それぞれの“理由”を検証してみよう。
■序盤温存。中山と小林のコンビが魅せた念願の勝利
「3年間チームを作ってきて、昨年まで組んでいたバンドウからノウハウを入れてもらって、今年から新しいチーム形態となりました。今季はSRSで同期だった小林崇志選手が加入し、すごく心強かった」というのは、これまでエースとしてチームを作り上げ、辛酸を嘗めてきた後に悲願の勝利を飾ったUPGARAGE 86 MCの中山友貴だ。
小林の加入、そして鈴鹿サーキットファン感謝デーでの走行で速さをみせ、非常に強力な存在となることが予想されていたUPGARAGE 86 MCは、二度の公式テストで思うようにセットアップが決まらず、土曜の予選でも天候に振り回され、マザーシャシーが速いはずの岡山で、9番手グリッドとなっていた。
マザーシャシーの勝ちパターンは、スタートから逃げること。その点でまだ勝負権があったのは、5番手スタートのHOPPY 86 MCだった。実際、序盤からHOPPY 86 MCを駆った坪井翔はトップ争いを展開する。
一方、UPGARAGE 86 MCのスタートを担当した中山は、前を行くSUBARU BRZ R&D SPORTとはわずかにマージンを取りながら、前日サーキットからの帰路にクルマのなかで決めたというタイヤ無交換作戦に向け、タイヤを温存していった。
「とにかく無交換をするために、タイヤをどれだけセーブするかを考えていました。前にトラフィックが起きている状態で、前に25号車が見えていたので、ひょっとするとひょっとするかな……と思っていた」と中山は前半スティントを振り返った。
■「今日は、良くも悪くも坪井のレース」
レース後半、トップ争いはどちらもタイヤ無交換作戦を採ったHOPPY 86 MCとUPGARAGE 86 MCとなった。そしてHOPPY 86 MCの背後につけた小林は、ダブルヘアピン立ち上がりでうまくオーバーテイクし、優勝に繋ぐ。
小林は、同じマシンで、同じ作戦を採った2台の差について、「マザーシャシーはダウンフォースが強いので、前にピタリとつけているとタイヤを消耗してしまう。25号車がアウディとかとやり合っていたけど、中山選手は前と間隔をとって労ってくれていた。そこが勝敗の分かれ目だったのかな……と思います」と前半の中山の走りを観ながら感じたことを語った。
そして、小林の予想は当たっていた。レース後HOPPY 86 MCの坪井は、「18号車がすごい勢いで迫っているのを観て、僕の雲行きが怪しくなった。うしろからも他のマシンが来ていて、『早くレースが終わって欲しい』と思っていました。松井選手にもっと楽をさせることが僕の任務だったのに、それができなかったのが悔しくて……」と、自らのスティントの“仕事”が果たせなかったことを悟っていたのだ。
「今日は、良くも悪くも坪井のレースだったと思う」というのは、HOPPY 86 MCの土屋武士監督だ。
「序盤、坪井はいっぱい抜いてきて『こんなレーサーなんだ』というのを見せてくれたと思う。でも、最後にトップでチェッカーを受けるためにはどうするべきかを考えるのがプロ。いいところも見せてくれたし、学ばなければならないことも分かったと思う」
土屋監督は、今季チームに加わった坪井を育てるために、「内圧に気をつけて」と無線で伝えるのみに留め、あえて悔しい思いを実感してもらったのだという。これは、HOPPY 86 MCの今後に繋げるための“策”というわけだ。
悲願成就を成し遂げ笑顔をみせた中山、チームに加わり、その技で貢献した小林、逆に自らのファイターぶりを見せつつも、勝ちに繋げれられず悔しさに暮れた坪井。人間ドラマが見え隠れする表彰台となった。
■本来のポテンシャルと作戦的中で2位獲得
一方、GT3勢の最上位で、終盤のレースを沸かせてくれたのは、なんと20番手スタートだったD’station Porscheだ。いったいなぜこんな追い上げが実現したのだろうか。
D’station Porscheは、4月7日の予選でスベン・ミューラーがQ1を担当したが、予想以上の低温に悩まされ、持ち込んだタイヤを活かしきれず、20番手グリッドに留まった。しかし、富士公式テストでも速さをみせているとおり、藤井誠暢は「クルマは決まっている」とセットアップもそこからいじっていないという。
そして迎えた決勝日。前日よりも気温が上がっており、藤井はグリッド上で自信に満ちていた。「いいところにいけると思います」と。彼らが採った作戦は、前半スタートを務めた藤井がスティントを引っ張り、タイヤを温存。ポルシェでは定番と言えるリヤのみ二輪交換というのが作戦だ。
藤井は序盤、ポジションを守りながら少しずつオーバーテイクをし、無理をせず走っていく。上位陣が混戦で差があまり開かなかったことも幸いし、他車がピットインするなか、自分のペースで追い上げ。気付けばトップにまで浮上した。
44周を終えピットインしたD’station Porscheは、藤井からミューラーに交代する。リヤタイヤを換えても好調だったミューラーは、4番手で前を行くLEON CVSTOS AMGの蒲生尚弥を追った。ちなみに、LEON CVSTOS AMGはリヤのみの交換。GT3勢は片側のみ交換など、さまざまな作戦が採られている。
D’station Porscheはレース後半までピットインを引っ張ったこともあり、ミューラーのペースは速く、LEON CVSTOS AMGが最終コーナー手前でわずかに姿勢を乱した間にオーバーテイク。さらにHOPPY 86 MCをかわし手に入れたのが2位というわけだ。本来の気温に上がれば決まっていたクルマと、作戦勝ちによる2位と言える。「LEONには4回くらいアタックしたけど、クリーンなバトルができた。だからスーパーGTは好きなんだよね。チームも素晴らしい仕事をしてくれた」とミューラー。
レース後、藤井は表彰台の脇で「言ったでしょ?」とニヤリ。D’station Porscheは富士公式テストでも素晴らしい速さを披露しており、ウエイトを積むとは言え、次戦も優勝候補の一台かもしれない。
■接触がまさかのトラブルに……!?
一方で、序盤トップ争いをしていたマシンたちに何が起きたのか。ピットイン前までトップ争いを展開していたHitotsuyama Audi R8 LMSと31号車TOYOTA PRIUS apr GTは、思わぬアクシデントにより悔しいレースとなった。
2番手スタートでトップを走っていたリチャード・ライアンのHitotsuyama Audi R8 LMSは、ピットイン直前まで嵯峨宏紀がドライブしていた31号車TOYOTA PRIUS apr GTとバトルを展開していたが、28周目、ピットインしようとしていた30号車TOYOTA PRIUS apr GTに、Hitotsuyama Audi R8 LMSが接触。これに31号車TOYOTA PRIUS apr GTも接触してしまったのだ。
この後、Hitotsuyama Audi R8 LMSはピットインし富田竜一郎に交代したが、ABSのトラブルでコースアウト。さらに、ドライブシャフトにトラブルを抱え、マシンを止めてしまっている。ただ、「原因は特定中」というものの、このドライブシャフトの壊れ方が接触に起因するものではないかという可能性もありそうだ。
そして、31号車TOYOTA PRIUS apr GTも「接触してから駆動系がおかしくなった。たまたまなのかもしれないけど(金曽裕人監督)」というのだ。「あのペースで行って、タイヤ交換したらいいところにいけると思っていた。後半、(平手)晃平が行っていたら面白いレースにできたのに」というから、両者ともに悔しいレースになったのは間違いない。
今回素晴らしいレースを展開したUPGARAGE 86 MC、D’station Porsche、悔しい思いをしたHOPPY 86 MC、Hitotsuyama Audi R8 LMS、TOYOTA PRIUS apr GT。そして4位のLEON CVSTOS AMGも悔しいレースだっただろう。そして、まだまだ役者は多い。ドラマチックな開幕戦となった今年のGT300は、まだまだ混迷を極めそうだ。