いよいよ2018年シーズンの開幕を迎えたスーパーGTは、4月8日に岡山国際サーキットで決勝レースが行われ、GT500は予選ポールポジションを獲得したKEIHIN NSX-GTが一度は首位を奪われながら逆転でトップを奪い返し、2018年型NSX-GTのパフォーマンスを証明する今季初勝利を飾った。
決勝日のサーキット周辺は朝から例年以上に用意された場外駐車場に長い車列が続き、グランドスタンドはもとより国内でもっとも”マシンに近い”コースサイドで観戦場所を確保すべく午前からフェンス際がすべて埋まるほど、今年の開幕戦にも多くのファンが詰めかけた。
午前は快晴だったサーキット上空は、前日までと同様に正午をまたいで行われたポルシェ・カレラ・カップ・ジャパン(PCCJ)の決勝中にまとまった降雨があり、PCCJのレースは混乱。スーパーGT決勝に向けても天候の急変が危ぶまれる中、12時45分のオープニングセレモニーまでには晴れ間がのぞくなど状況が回復し、ウォームアップ走行からのスタート進行を迎えた。
前日土曜の予選ではQ2セッションが雨に祟られたこともあり、その難コンディションを味方につけたNSX-GT勢がフロントロウを独占。10分間に短縮されたセッションでミッドシップの利点を活かしてウエットタイヤのパフォーマンスを引き出したKEIHIN NSX-GTがポールポジションを獲得し、その背後にARTA NSX-GTが控える構図。同じくNSX-GTをドライブして今季から山本尚貴のチームメイトとしてスーパーGTフル参戦を開始した元F1ワールドチャンピオンのジェンソン・バトンが乗るRAYBRIG NSX-GTは5番手でスタートドライバーを務めることとなった。
そのNSX勢に対し、3番手グリッドを獲得してGT-R復権を期すCRAFTSPORT MOTUL GT-Rや、予選上位グリッドが優位と言われる岡山でライバル以上にタイヤのウォームアップに悩んだレクサス陣営がどこまで巻き返せるかが焦点となった。
気温11度、路面温度22度、午後の日差しが戻ってくる中でまずは白バイ先導のパレードラップがスタート。今季からフォーメーションに入るホームストレート上で車列は一旦ストップし、マシンは自己グリッド上を通過して隊列が整ったところからフォーメーションへと入る新たなスポーティングレギュレーションが適用された。
そして迎えたスタートはポールからKEIHIN NSX-GTがホールショットを決めたものの、大外からフォーラムエンジニアリング ADVAN GT-R、内側からMOTUL AUTECH GT-Rと、2台のGT-Rが驚異的なスタートを決めて1コーナーへ。第2コーナーとなるウイリアムズを立ち上がりアトウッドへの進入までには、8番グリッドスタートのMOTUL GT-Rがなんと2番手に浮上してみせる。
10周目を過ぎGT300首位争いに早くも追いついたGT500先頭集団は、これがデビュー戦となるWAKO'S 4CR LC500のルーキー、フェリックス・ローゼンクビスト、そしてバトンがGT300のバックマーカー処理に手こずり、うまく呼吸を合わせることができすそろってポジションダウン。開幕早々に、2クラス混走スーパーGTの洗礼を浴びる格好に。その後も中団では各所で接触が発生する中、タイヤのウォームアップなった昨季王者のKeePer TOM'S LC500が反撃を開始。
16周目の1コーナーで同陣営のライバルであるWAKO'S LC500を仕留めると、22周目にはフォーラムエンジニアリングGT-Rも捉えて3番手に。そのままの勢いで2番手MOTUL GT-Rに追いつきサイド・バイ・サイドの状態に持ち込んでいく。
このまま2番手浮上は間違いないかと思われた瞬間、なんとその23号車MOTUL GT-Rにジャンプスタートによるドライビングスルーペナルティという無常の裁定が下り、労せずしてKeePer TOM'S LC500が2番手に浮上。フォーラムエンジニアリング GT-Rにもジャンプスタートのペナルティで、序盤でGT-R2台が実質勝負権を失うことに。
23号車MOTUL GT-Rはすぐにペナルティを消化し、au LC500の前、12番手でコースに復帰。ここから仕切り直しの猛追を始めることとなった。
その後、レースは30周を過ぎたあたりで最初のピットウインドウを迎え、早めのピットを選択したチームがドライバー交代を実施。まずは34周目にZENT CERUMO LC500がピットへと向かうと、ちょうど時を同じくしてKEIHIN NSX-GT、KeePer LC500の首位争いが激化。
32周目からテール・トゥ・ノーズになった2台は、36周目のヘアピンでサイド・バイ・サイドとなりながらなんとか17号車が頭を押さえるものの、この後も1秒以内の僅差でバトルが続き、38周目のバックストレートエンドのヘアピンでKeePer LC500がKEIHIN NSX-GTのインに入り、接触しながら前に。KEIHIN NSX-GTの首位がついに陥落する。
たまらず40周を過ぎてピットへと向かったKEIHIN NSX-GTはピットストップ制止時間を41秒0でコースに復帰。一方、45周目までタイヤ交換を引っ張ったKeePer LC500は45.6秒の制止時間がかかってしまい、KEIHIN NSX-GTに順位を奪われてしまう。
ただ、このピットタイミングで注目されたのが、RAYBRIG NSX-GT。スタートを担当したバトンが38周目にピットインして山本尚貴に替わったが、なんとここでタイヤ無交換作戦を選択。まんまとKEIHIN NSX-GTの前を奪い、トップに浮上。ただ、タイヤが温まったKEIHIN NSX-GTはニュータイヤのグリップを活かしてすぐにRAYBRIG NSX-GTをパス。これでNSX-GTのワン・ツー体制となり、3番手にはKeePer TOM'S LC500をかわしたWAKO'S 4CR LC500がカムバックした。
上位勢もドライバー交代を終え、中団でも激しいバトルが繰り広げられ、6番手のCRAFTSPORT MOTUL GT-Rと7番手WedsSport ADVAN LC500が秒差の勝負が展開する中、3番手のレクサス勢対決は前年チャンピオンのKeePer LC500平川亮が前を行くWAKO'S LC500の大嶋和也に襲いかかり、56周目のヘアピンで表彰台圏内へと復帰。
一方、優勝争いのNSX-GT対決も2番手のRAYBRIG NSX-GTがペースを上げ、毎ラップごとにKEIHIN NSX-GTとの差を詰めにかかるも、塚越広大も反応し1秒半のギャップをキープ。レースも60周を過ぎ終盤に突入すると、3番手、5番手、7番手と奇数ポジションで1対1の対決構図となっていく。
そんななか、粘りの走りをみせるMOTUL AUTECH GT-Rは、フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rを引き連れて6番手、7番手まで這い上がり、70周目のヘアピンでアウトからARTA NSX-GTをオーバーテイク。これでペナルティのロスから5番手にまで舞い戻ってみせた。
そして残り10周となったところで首位の2台にまさかのドラマが発生する。2番手100号車がバックストレートで不穏なウェービングを見せ、タイヤのピックアップ(タイヤかすが剥がれずにくっついたままでグリップダウンする)を嫌がるそぶりを見せた直後、首位を行くKEIHIN NSX-GTのフロントバンパーにパーツの破片が付着して、KEIHIN NSX-GTは、わずかにペースダウン。
そのパーツはその後、モニターでCRAFTSPORT MOTUL GT-RとZENT CERUMO LC500のバトル中の接触により飛散したパーツのものとみられ、ここを好機と見た山本尚貴のRAYBRIG NSX-GTがみるみるKEIHIN NSX-GTの背後に迫る。
そこから緊迫のチェイスを展開した2台は、残り5周で1秒差にまで縮まったギャップをGT300マシンの混走を縫うように走り抜け。首位をなんとか守り抜いた塚越広大が、山本尚貴を抑えきり今季初優勝。山本もタイヤ無交換ながら最後までペースを落とさず首位を追い詰め、2位RAYBRIG NSX-GTのジェンソン・バトンにデビュー戦表彰台をプレゼントすることになった。3位にはチャンピオンのKeePer TOM'S LC500が入り、平川亮は岡山での表彰台を死守している。
昨季開幕戦は全5台にトラブルが発生するという悪夢の幕開けとなったNSX-GT勢が今シーズン、ついに優勝争いの最前線に戻り、GT-R勢はドライブスルーを経てもなお、ポイント獲得圏内にカムバックするパフォーマンスを見せるなど、昨季王者レクサス包囲網が非常に高いレベルで整ったことを示した2018年の開幕戦。
次戦、ゴールデンウイークに開催される第2戦富士は例年同様500kmで争われる長丁場のレースとなるだけに、この僅差の3メーカーがどんな勝負を繰り広げるか。近年稀に見る勢力図が拮抗した緊迫のGT500シーズンが幕を明けた。