今シーズンのスーパーGTでもっとも注目を集めるRAYBRIG NSX-GTの山本尚貴とジェンソン・バトン。開幕戦の岡山では多くのファンがRAYBRIGのガレージ前に詰めかけたが、その大注目の中で走り出した最初のセッションで、まさかのトラブルに見舞われてしまった。開幕の予選日について山本に聞いた。
──朝の練習走行のスタートで、いきなりギヤボックスからのオイル漏れというトラブルに見舞われてしまいました。
「トラブルの影響でアウト/インのチェックランだけで、練習走行ではまともには1周も走れませんでした。代わったJB(ジェンソン・バトン)も同じでした。修復してセッションの残り1分でコースインできましてクルマの確認はできましたが、そこから雨が降ってきたので、ドライタイヤでのまともな走行を1周もしないまま、予選に向かうことになりました。そんな状況でしたので、予選Q1がドライになったらキツイなあと思っていたら、案の定、ドライのスリックになりました(苦笑)」
──予選のQ1とQ2、RAYBRIGはどちらがどのセッションを担当するかも注目されていたが、この岡山ではQ1は山本選手が担当することになりました。どのように担当は決めましたか?
「もともとQ1はJBが担当する予定でしたが、経験の差が大きく出るような状況だったのでスーパーGTの経験が多い僕が担当することになりました。それはチームとJBと話をして決めました」
「実際のQ1走行では、どこでブレーキを踏めばいいのか、どこまでタイヤが温まってグリップが発動するのか、全然分からなかった。ある意味、吹っ切れていましたが、今年はこれだけ多くの注目を集めていることも分かっていましたし、経験の豊富な僕がここでQ1で落ちるわけにはいかないという責任感で、うまく自分自身をコントロールできました。そして、スリックタイヤのデータがまったくない中で、内圧やクルマのセットをあのQ1でドンピシャで合わせてくれたチームの力を改めて感じましたね」
──Q1セッション開始直後からコースインして、チェッカー直前に入ったアタックラップで2番手タイムをマーク。その組み立ては予定どおりだったのでしょうか。
「今回はタイヤの温度レンジがもともと外れていて、自分たちが想定していた気温よりもだいぶ低い状況でした。他車の練習走行の様子からも、タイヤのウォームアップはかなり必要と見ていたので、セッション開始から待たずにコースインすることを考えていました。それでも、あそこまでタイヤのグリップが発動しないとは思わなかったですね」
「Q1の最後は前のクルマに引っかかったので、残り時間がギリギリでしたが賭けで1周捨ててギャップを開けて、ミスのできない最後の1周に掛けました。アタック自体は思い切っていけたし、うまくまとめることができました。今日の朝の状況を考えると、自分自身、意外と落ち着いてベストな仕事ができたと思います。朝にまったく走行できなかったことで、変な先入観がなくアタックできたのが、変にプレッシャーを感じずに行けたのかもしれませんね。だけど、Q1はシビれましたね(苦笑)。久々に、自分なりに良い仕事ができたなと思っています」
──クルマの挙動、フィーリングはどう感じていましたか?
「Q1に出て行ったときは最初、ホイールスピンが止まらない状況で、実際にアタックした周も2コーナーでは四輪とも横滑りして、行きすぎたなと思いましたが、行きすぎるぐらいじゃないとタイヤが発動しないので、タイヤを滑らせて発動させている状況でした。そうやってアグレッシブに行った結果が、タイヤに熱が入ってグリップを出せたのかなと思います」
──Q1を2番手、ホンダ陣営内でトップで通過。その後のQ2を担当するバトンに、アドバイスは送りましたか?
「JBにアドバイスをしようとしたところで雨が降ってきてしまったので、Q1ではなく朝の練習走行のときに履いたウエットタイヤのフィードバックを彼に伝えました」
──バトンのアタックはどのように見ていたのでしょう。
「タイヤの状態はすごくよかったようなので、JBは『もう1周行きたかった』と話していましたね。彼の前に17号車(KEIHIN NSX-GT)がいてウォームアップのペースをコントロールしていたのと、JBもフロントタイヤを壊してしまうのを恐れてペースをコントロールしていた部分があって、タラレバですけど、もう少し前との距離を大きく開けてそこでプッシュしてタイヤに荷重を掛けないと、タイヤの温度は上がりきらなかったと思います。それで1周足りなくなってしまったのかなと。GT500のウエットの経験が少ない状況でJBのアタックは素晴らしかったけど、それ以上にライバルが素晴らしいアタックをしました」
──レインタイヤの選択で、同じホンダのブリヂストンユーザーの中でも選択が分かれました。17号車(KEIHIN NSX-GT)はミディアムタイヤ、8号車(ARTA NSX-GT)はソフトタイヤ、100号車はフロントソフト、リヤミディアムのコンボを選択したと聞いています。
「どのタイヤを選択しても、その選択したタイヤのパフォーマンスを引き出す暖め方をしないとベストなタイムは出ない。それをしないと、今回の予選では上に行けなかったと思います。そういう意味では8号車も、17号車もベストなアタックをしていましたよね。JBはどうしてもそこが経験の部分になってしまう。だからこそ、スーパーGTは難しいんです。JBが悪いわけでもないし、チームが悪いわけでもない。GT500クラスの経験の差が出てしまったと思います。やはり、スーパーGTはそんなに甘くはないですよね」
──明日の決勝はどんなレースを期待していますか?
「ホンダの他のチームが前に2台いるので悔しい気持ちはありますが、今日の状況を考えると、僕もJBもチームも、最善の結果を生み出せたと思います。5番手なので充分チャンスはあると思いますし、どちらがスタートを担当するのかなどはこれから話して決めることになりますが、悩みますね(苦笑)。いずれにしても気温が低そうなので、ウォームアップが厳しい展開になるでしょうね」