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山田杏奈が語る、『ミスミソウ』で感じた10代の切実さ 「根底には深い悲しみがある」

2018年04月07日 17:41  リアルサウンド

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「主人公の春花には、自分の大切な人の命を奪われたことに対する強い憎しみがあるけれど、その根底にはどうしようもないほど深い悲しみもあります。その悲しみに寄り添うようにして、春花という人物を作り上げていきました」


参考:武田玲奈が語る、『人狼ゲーム』で味わった“初体験” 「涙が溢れるのも自然だった」


 今、もっとも注目を集める若手女優のひとり、山田杏奈の初主演映画『ミスミソウ』は、あまりにも壮絶な復讐劇に仕上がった。『ゆうやみ特攻隊』などのホラー作品で知られる押切蓮介の同名漫画を原作に、『先生を流産させる会』や『ライチ☆光クラブ』など若者たちの心の闇に向き合う作品で知られる内藤瑛亮が監督を務めた同作は、山田を中心とした若手俳優たちの鮮烈な演技により、目を背けたくなるほどの陰惨なリアリティを獲得している。


 物語は、東京から過疎が進む地方の学校に転校してきた主人公の野崎春花が、イジメの標的となるところから幕をあける。スマートフォンがない時代の閉塞的な田舎町で、やり場のないフラストレーションを抱えた若者たちにとって、イジメはそれぞれの存在意義を問うための、ある種の儀式のようなものとして激化していた。山田は、10代の女優として、本作で行われているイジメに嫌な近視感を覚えたという。


「学校という場所にはたくさんの人がいるから、意識的にせよ無意識的にせよ、その中で順列を付けたりしてしまうのは、起こりうることなのかもしれません。だからといって、イジメが行われて良いわけはないし、本当に恥ずかしいことだと思います。大人だったら理性で善悪の判断が付くけれど、中高生はまだ精神的にも未熟なところがあって、それがイジメに繋がるのかなと。春花がイジメの標的になるのは本当に些細なことがきっかけだけど、そこにこそ現実味を感じました。他人から見たら『そんなこと?』と思えるような出来事も、多感な10代の子にとっては大きなことで、なにかが壊れるきっかけになりうるということを、本作から感じてもらえれば」


 春花へのイジメは日を追うごとに激しくなり、ついには自宅にやってきた同級生が家に火を放つ事件にまで発展する。残酷なことに、春花の両親は焼死し、妹は全身に大やけどを負う。春花は復讐を決意し、血で血を洗う凄惨な争いへと身を投じていく。


「オーディションでは監督から、『春花の気持ちが理解できる?』と聞かれました。実際に人を殺めることはできないと思うけれど、もし自分が同じ目に遭ったら、やっぱり許せないと思うし、憎しみを抱く気持ちは理解できると答えました。春花の心情を表現するために、何度も原作を読み込み、そこで描かれている眼差しを意識して、役を作り上げました。押切蓮介先生の漫画のキャラクターは目に特徴があって、シーンごとに細かな変化があります。家族を殺されてからは、虚ろでいて、心が壊れてしまっている感じ。瞬きをあまりしないようにして、サイボーグみたいに気持ちを無にして、撮影に臨みました」


 容赦のないバイオレンス描写が、本作の大きな見どころのひとつだ。グロテスクなシーンも少なくないが、山田は平常心を保って演技に集中することができたという。


「幽霊とかは怖いんですけれど、グロテスクなのは意外と平気なんです。監督は血糊が大好きみたいで、『もっといっぱい付けよう』って、嬉しそうに自ら役者さんたちに塗っていました(笑)。現場で目玉や切れた指の模型を見たときは『うわぁ~』って思いましたけれど、撮影が始まってからはほかの役者さんも振り切って演技していたので、私も思いっきりぶつかっていくだけでした。そういう意味では、集中できる状況に持っていってくれた共演の俳優さんにも感謝しています」


 撮影期間中、俳優たちはお互いの役柄を意識して、距離を保ったコミュニケーションを心がけていたという。真冬の山村での撮影は過酷を極めたが、結果としてフィルムには若手俳優たちによる魂の演技が焼きついた。残酷な作品でありながら、儚い美しさも同時に感じられるのは、本作の優れた点である。


「とにかく雪深いところだったから、本当に寒くて。私のシーンではないんですけれど、殺されて地面に転がって、その上に雪が積もっていくシーンもあって、演じていた役者さんはすごく辛かったはずです。1日に1回、コンビニに行くのだけが楽しみみたいな場所で、ああいう環境にずっといたら、精神的に参ってしまうのも無理はないかなと。でも、そんな過酷な環境で演技に向き合ったからこそ、特別な作品になったんじゃないかと思います」


 10代の若者による生々しい暴力の奥にある、切実な感情までも切り取った同作。改めて、10代で本作に出会えたことについて、山田は次のように振り返る。


「私たちは物心がついたときからスマホが身近にあって、それほど労力をかけずに色んな情報を手に入れることができた世代です。その分、私たちの世代は物事に対する執着心とかが希薄になっているように思います。仲のいい友達でも、実はLINEでしか繋がっていない、なんてことも珍しくありません。だから、春花たちがあそこまでめちゃくちゃになっていくのは、正直なところ、理解しがたいところもあります。でも、彼女たちの中にある脆い部分や、居場所が見つけられない悲しみみたいなものは、とてもよくわかります。いまの私たちとは異なる環境の物語だけれど、だからこそ彼女たちと私たちの間に共通する感覚が、ちゃんと映し出されているのではないかと思います」


 そんな山田はいま、女優としての将来を見据えつつある。目標とするのは、満島ひかりだ。


「満島さんの演じる人物は、それぞれに全く異なる個性がありながら、魅力に溢れています。満島さんが息を吹き込んでいるからこそ、魅力が倍増されているわけで、そこの女優さんとしての素晴らしさを感じます。セリフの言い方や立ち振る舞い、ひとつひとつが素敵で憧れてしまいますね。私はよく『目力がある』と仰っていただくことが多くて、それを自分の個性として活かしながら、満島さんのように存在感のある女優さんになっていきたいです」(取材・文・写真=松田広宣/ヘアメイク=安海督曜/スタイリスト=杉浦優)