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ライブ会場不足、本当に深刻化するのは“東京五輪前後”? 関東のアリーナ&ホール新設の傾向を探る

2018年04月07日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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■「2016年問題」は深刻ではなかった?


 ライブ・エンターテインメント業界において、2015年頃から話題に上り始めた会場不足の問題。2020年東京オリンピック開催に向けた大型施設の改修や建て替え時期が重なる2016年に、会場不足が深刻化すると言われてきた。「2016年問題」である。果たして実際に「2016年問題」は起こっていたのか。一般社団法人コンサートプロモーターズ協会が2003年から発表している「年別基礎調査報告書」(http://www.acpc.or.jp/marketing/kiso.php)の2015年と2016年の通年(1月~12月)、2017年上半期(1月~6月)のデータを比較し、考察してみたい(※カッコ内は前年同期比)。


2015年
・年間公演回数…29,546本(107.1%)、都道府県別公演数[関東]…11,252本(103.5%)
・年間総動員数…47,533,118人(111.5%)、地域別動員数[関東]…25,026,098人(107.2%)
・総売上額…318,634,672,225円(115.9%)、地域別売上額[関東]…165,190,852,392円(119.3%)


2016年
・年間公演回数…29,862本(+316本/101.1%)、都道府県別公演数[関東]…10,710本(95.2%)
・年間公演回数…47,687,760人(+15万4642人/100.3%)、都道府県別公演数[関東]…23,915,599人(95.6%)
・総売上額…310,078,303,681円(97.3%)、地域別売上額[関東]…160,188,010,758円(97%)


2017年
・公演回数…13,767本(前年同期比+305本/102.3%)、都道府県別公演数[関東]…5,156本(前年同期比108.2%)
・動員数…1986万7914人(前年同期比+71万3753人/103.7%)、都道府県別公演数[関東]…9,970,353人(前年同期比+105%)
・売上額…129,709,863,706円(115.7%)、地域別売上額[関東]…70,456,564,784(122.7%)


 公演回数、動員数、売上ともに前年から大幅な伸びを見せていた2015年に対し、2016年は公演回数、動員数ともに前年超えではあるもののスケールダウン。総売上額についてはやや前年割れという結果だった。また、渋谷公会堂・日本青年館・SHIBUYA-AX・横浜BLITZといった多くのホール・ライブハウスが「2016年問題」に先駆け相次いで閉館した余波や、横浜アリーナやさいたまスーパーアリーナの数カ月に及ぶ改修による閉鎖なども影響し、関東公演が減少傾向にあった一方、北陸新幹線の開通に伴いアクセスしやすくなった北陸・信越、関東に次ぐ公演数を誇る近畿地方の動員数は前年比110%超え、特に北陸・信越は売上額に関しても前年比146.9%という伸びを見せた(参照:http://www.acpc.or.jp/marketing/kiso_detail.php?year=2016)。翌年2017年上半期には、再びいずれの項目も上昇傾向に。関東では横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナも再オープン。動員数の内訳ではアリーナ公演が4,141,556人で125.9%という結果となった(参照:http://www.acpc.or.jp/marketing/kiso_detail.php?year=2017&hanki=1)。


 このように、ここ数年の業界全体の数字を見ると、「2016年問題」はさほど大きな問題ではなかったように映る。実際、全体を司る大きな数字の増減はアリーナ・スタジアム級の公演数による影響が大きい。集客力のあるビッグネームのアーティストがロングツアーを開催するか否かで数字が大きく変動するからだ。2015年にはMr.Children、2016年にはBIGBANG、2017年には三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEをはじめとする人気アーティストたちが数十~百万単位の動員による大規模ツアーを積極的に開催しているため、結果として大きな変化が表れなかったのだと思われる。


(関連:不足するライブ会場、興行側に求められる工夫は? 三代目 J Soul Brothersの成功例を考察


■本当に会場が不足するのは、東京オリンピック前後?


 会場不足は、むしろ今後のほうが問題である。東京オリンピック開催に伴い、日本武道館、東京国際フォーラム、幕張メッセ、さいたまスーパーアリーナといったライブ・コンサートに頻繁に使用されている1~2万人規模の会場が会期前後は一斉に使用できなくなる。ふだんその規模で公演を行っているアーティストは地方・海外公演を行う以外にも、集客を確保するため、その下の規模の会場での複数公演に切り替えることが考えられる。すると、その規模で公演を行っているアーティストが会場を押さえられなくなり、ライブハウスでの複数公演に切り替えていく。その連鎖でライブハウスも空きのない状態になり、日頃ライブハウスを使用しているアーティストたちにもしわ寄せがくることになる。


 2017年は神奈川県民ホールと代々木第一体育館が改修に入り、2018年は東京国際フォーラムホールA、2019年は日本武道館の改修も控えている。東京オリンピック開催前から、特に中~小規模の会場で会場不足の問題が一層深刻化していくのではないだろうか。


 しかし、今、関東に新たなアリーナやホールが次々とオープンする動きが見られる。一つは、味の素スタジアムの向かいにできた「武蔵野の森総合スポーツプラザ」。2017年11月に完成した収容人数1万人の会場だ。バドミントン・近代五種で使用するためオリンピック会期中は使用できないが、改修中の他会場の穴を埋める場としても重宝されそうだ。神奈川、埼玉、さらには羽田・成田空港からのアクセスもよく、吉川晃司、田村ゆかり、Red Velvet、欅坂46らがすでにライブを開催している。「カルッツかわさき(川崎市スポーツ・文化総合センター)」も2017年10月に完成した約2,000人を収容できるホール。鈴木雅之、ポルノグラフィティ、CHEMISTRY、椎名林檎などがすでに使用しており、定番会場の仲間入りを果たすのもそう遠くはなさそうだ。また、今年7月には東京・有楽町に900人が収容できるヒューリックホール東京もオープンする。


 さらに「東京オリンピック前後」に新設される会場情報も次第にアナウンスされている。千葉競輪場は2020年度を目標にコンサート開催が可能な多目的アリーナへリニューアル、バンダイナムコは2020年を目指し渋谷区に複合ライブ施設を建設することを発表。横浜市西区のみなとみらい21(MM21)地区には、2020年春にぴあが運営する1万人規模のアリーナ、zeppホールネットワークによる2,000人収容のライブハウス型ホール・KT Zepp Yokohamaもオープン。その後2021年度には不動産会社ケン・コーポレーションが運営する2万人規模の音楽専用アリーナの新設も予定されている。


 新設だけではなく、2015年から改修中だった日本青年館が移転し2017年よりリニューアル、2019年には地上6階、地下2階、2,000人収容のホールとして新たに生まれ変わった渋谷公会堂が完成するなど、おなじみの会場が使用できるようになる流れもある。公演数の増加や土日に人気が集中するなど恒常的な会場不足はあったものの、東京オリンピックの開催を契機として、これまで以上にエンターテインメントの発信が活発に行われるような場の確保が急がれる。(久蔵千恵)