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太田光が監督を務めるのは必然だった? 草なぎ剛主演の監督第2作『光へ、航る』への期待

2018年04月06日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 稲垣吾郎、香取慎吾、草なぎ剛の「新しい地図」によるオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』が4月6日より公開される。SMAP解散後、リスタートを切った彼らの新たな挑戦として、情報が更新されるたびに熱視線が注がれてきた。


参考:稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾の劇中の様子が明らかに 『クソ野郎と美しき世界』本予告公開


 国際映画祭でも高い評価を得ている園子温と山内ケンジ。数多くのCMや名だたるアーティストのミュージックビデオを手がけてきた児玉裕一。日頃から映画・映像の世界で活躍する彼ら3名に対し、“異例”の監督抜擢となったのが、お笑い芸人・爆笑問題の太田光だ。


 太田が手がけるのは、草なぎ剛が尾野真千子と夫婦役を演じるエピソード3『光へ、航る』。太田を監督に推薦したのは、本作のスタッフ、そして園子温だったという。太田はパーソナリティを務めるラジオ番組『JUNK 爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)や、ゲスト出演した『伊集院光の週末TSUTAYAに行ってこれ借りよう!』(TBSラジオ)などで、映画界の寵児となっていた園子温に向けて、「園子温の映画はクソ」など挑発的なメッセージを度々送ってきた。もっとも、それはリスナーを楽しませる“プロレス”としての発言であり、園は自宅に太田を招くほどの仲のようで、以前から園は太田の映画監督としての資質を評価していたという。(『クソ野郎と美しき世界』オフィシャルブック参照)。


 園が太田を高く評価する理由として、作家(『マボロシの鳥』新潮社)・作詞(SMAP「We are SMAP!」)活動、そしてお笑い芸人としてネタを作成する、映画監督と共通する「物語」を構成する才にあったようだが、1番大きかったのは太田の映画への情熱だという。それもそのはず、今回監督を務める4名の監督の中で、最も“日本映画”のDNAを受け継いでいるのは太田と言っても過言ではないからだ。


 自主映画出身の園、演劇出身の山内に対し、太田は1991年に森田芳光プロデュースの下、オムニバス映画『バカヤロー!4 YOU!お前のことだよ』の第1話『泊まったら最後』で、26歳で監督に抜擢されている。現在のような誰もが知っている爆笑問題の太田光ではなく、まだ駆け出しと言ってもいい時代。その2年前の同シリーズの映画、『バカヤロー!2 幸せになりたい。』で、役者として森田監督に才が認められたことがきっかけだったという。


 当時の周りを固めたスタッフがとにかくすごい。森田芳光、伊丹十三など数々の作品を手がけたカメラマン・前田米造、録音技師・橋本文雄、照明技師・矢部一男と、撮影所で技術を学んだ日本映画史に名を残すスタッフ陣に太田は囲まれていたのだ。しかも、太田の下に付いていた助監督は、実写版『時をかける少女』の谷口正晃、『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』の篠原哲雄、『リング』シリーズの中田秀夫という現在第一線で活躍する3名。


 太田は『JUNK 爆笑問題カーボーイ』(2017年12月5日放送)で、「自分が1番年下でどこの馬の骨も分からないやつで、『こいつ分かってんのか?』っていうスタッフたちからの空気も感じていて。俺の耳に入るように『あいつ何なんだよ』って声も聴こえてきてもう辛くて辛くて。でも、そりゃあそうだと思うんですよ。そんな中でも、ロケハンをしながら前田さんが日活時代の苦労話をしてくれたり。前田さんが俺のイメージ通りの場所を、工夫に工夫を重ねて見つけてくれて。年齢も離れていたのにベテランのスタッフさんたちは優しかった」と当時のことを振り返っていた。


 しかし、年上ばかりの現場、しかも超短期間での撮影ということで、自身が納得できなかったラストシーンにOKを出したことが心残りだったと太田は度々語っている。最終日に現場に訪れた森田は、太田の意を汲むように「なにこれ? 馬鹿なの? 太田くんがやりたいことじゃないよね?」と一回り以上も年上のスタッフたちに容赦ない言葉をかけたという。それでも、太田は一生懸命頑張ったスタッフたちの思いを優先し、撮り直しはしなかったそうだ(『JUNK 爆笑問題カーボーイ』参照)。


 初監督から27年、年齢も立場も大きく変わり、満を持しての第2作目となる『光へ、航る』。脚本段階でスタッフと“衝突”した箇所もあったそうだが、自身の納得できる映像を今回は撮ることができたそうだ。「こっちがほしい画だったり、音楽を具体的に言っているわけではないのに、イメージ通りに汲み取ってくれる」(『JUNK 爆笑問題カーボーイ』3月13日放送)と太田は語っていたが、特に助監督を務めた山口義高(『デメキン』監督)、撮影の瀧本幹也(『海街diary』)の働きが大きかったという。そうそうたるスタッフが揃った27年前と同様、名スタッフに支えられる資質が監督・太田光にはあるのかもしれない。


 太田プロから独立し、タイタンを立ち上げ、独自の道を切り拓いてきた太田と、新しい歩みを始めた「新しい地図」の3人。どこか共通点を感じる両者が生み出した本作が、多くの人々に届くことを期待したい。(石井達也)