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『ペンタゴン・ペーパーズ』初登場5位 スピルバーグ・ブランドは復活するか?

2018年04月04日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 学生の春休み真っ最中と重なった先週末の映画動員ランキングは、1位が『リメンバー・ミー』、2位が『ボス・ベイビー』、3位が『映画ドラえもん のび太の宝島』。すべてアニメーション作品となった今年の「春の3強」が3億円台の興収でしのぎを削る中、初登場作品で最も高い5位にランクインしたのはスティーヴン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』だ。


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 1970年代初頭、当時のニクソン政権を揺るがす大スクープをめぐって、ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストの編集部及び経営陣の内幕を描いた『ペンタゴン・ペーパーズ』(原題はこれ以上なくシンプルかつダイレクトに、ワシントン・ポストの略称である“The Post”)。昨年トランプが大統領に就任した直後、スピルバーグが「今、撮るべき作品」として次作の撮影スケジュールを急遽変更して製作に入った本作だが、偶然にも、森友文書問題で政権が揺れている日本でも極めてタイムリーな時期の公開となった。


 全国281スクリーンで公開された『ペンタゴン・ペーパーズ』の土日2日間の動員は11万人、興収は1億2800万円。これは、スピルバーグ作品として同じくポリティカルな史実を扱っていた近作『ブリッジ・オブ・スパイ』の動員比、興収比ともに約90%の成績だ。トム・ハンクス、メリル・ストリープの二大スターを擁し、受賞こそ逃したものの今年のアカデミー賞でも作品賞と主演女優賞にノミネートされた非常に前評判の高い作品(実際に、近年のスピルバーグ作品において出色の出来である)であることを踏まえると、少々期待外れのすべり出しと言っていいかもしれない。


 冷戦下のスパイを扱った作品(『ブリッジ・オブ・スパイ』)と比べても、マスメディアの矜持を描いたような外国映画に、日本ではそこまで一般的な吸引力がないということなのかもしれないが、そもそも日本では年々「スピルバーグの威光」が弱まってきていることも影響しているのではないか。日本でスピルバーグ監督作品が最後に大ヒットしたのは、ちょうど10年前の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(最終興収57.1億)。以降、『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(2011年)、『戦火の馬』(2011年。日本公開は2012年)、『リンカーン』(2012年、日本公開は2013年)、『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015年。日本公開は2016年)、『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(2016年)と比較的地味な興行が続いていて、ひと昔前ならば考えられないことだが、作品によっては最終興収5億を下回る作品もあった。


 『ペンタゴン・ペーパーズ』が「次作の撮影スケジュールを急遽変更して」撮られた作品であることは前述した通りだが、その「次作」にあたるSF作品『レディ・プレイヤー1』が先週末に世界各国で公開されて(日本公開は4月20日)、スピルバーグ作品としては久々の超特大ヒットを記録している。機動戦士ガンダムやAKIRAを筆頭に日本発のネタも豊富に盛り込まれていることもあって、日本での興行にも高い期待が寄せられている同作。今月から撮影に入る、2020年7月10日公開予定(日本での公開日は未定)の次作『インディ・ジョーンズ5(仮題)』を前にして、世界的には「ヒットメイカー」としてのスピルバーグの大復活となったわけだが、日本でも同じような軌跡を描くことができるか? まずは、傑作『ペンタゴン・ペーパーズ』のリアル・ワールドを劇場で味わって、その上で『レディ・プレイヤー1』のバーチャル・ワールドを体験して、この稀代の映画作家の懐の深さと本当の凄さを実感してもらいたい。(宇野維正)