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BRADIOが語る、ソウルミュージックに等身大の思いを乗せる理由 「今の時代と一緒にやっていく」

2018年04月04日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 メジャーデビュー直後のドラマー脱退という、衝撃のニュースで幕を開けた2018年のBRADIO。バンドはどうなるのか? とざわめく周囲の声に対し、彼らが出した答えは“さらにスピードを上げて前進する”だった。新体制で作り上げた2ndシングル『きらめきDancin’』は、パーカッションを加えた分厚いグルーヴがうねりを作り出す、かつてないほどに強力なファンクチューン。いかにして彼らは、最大のピンチを最高のチャンスに変えたのか? 前向きな言葉しかない、3人体制による初のインタビュー。(宮本英夫)


■「人間のグルーヴがすごく良かった」(大山)


――新体制になってからのライブは2月から始めていますが、手応えはどうですか?


大山聡一(以下、大山):1月にドラムが抜けて紆余曲折あって。でも自分たちとしても早めに頭の中を切り替えられたし、その中で自分たちがやれること、やりたいことをもう一回見直すいい機会でもあったと思ってます。とはいえ、ライブをやってみるまでわかんねえなと思ってたんですけど、やってみたら大変ではあったけど、すごくポジティブにバンドが回っている感触は持ってますね。


――良かった。正直、どうなるんだろう? という不安もあったので。貴秋さんは、新体制への移行をどう受け止めてました?


真行寺貴秋(以下、真行寺):もちろん不安もありましたけど、それよりも前に進もうという気持ちがチーム全体にあったので。“Show Must Go On”じゃないですけど、ここまでやってきて、何があっても止められねえなという気持ちをチーム全体で再確認しあえた、ポジティブな時期になったのかなととらえてます。


――わかりました。新曲「きらめきDancin’」の話に行きましょう。グルーヴ、はっきりと変わりましたね。


真行寺:ヤバいですね。うはははははは!


――いきなり爆笑してますけども(笑)。


真行寺:この曲で言いたいのは、そこなんですよね。グルーヴが明らかに違う。僕はレコードがすごい好きで、ソウルミュージックとかレアグルーヴとかを掘ったりすると、こういうすごく土着的な、独特のエネルギーみたいなものがあるんですよ。「きらめきDancin’」をレコーディングで初めて聴いた時……事前にプリプロするんですけど、今回は突然ドラムチェンジになったので、急遽お願いして。


――ああ、そうか。そんなに急な話だったんですね。


真行寺:そう。練習で合わせることもなく、レコーディングスタジオでそのままドーンと入ったんですけど、最初に音が鳴った瞬間に「あ、この匂いだ」と。DJの人がブレイクビーツに使うような、このスメルはファンクの匂いだなってすごく強く感じた土台だったので、その上に歌を乗せるのは興奮しました。レコーディングは本当にエキサイティングな現場でしたね。血が騒ぐ感じがむんむんしてました。いやもう、ヤバいですよ。


――ヤバいしか言ってないですね(笑)。


真行寺:本当にこの匂いがするんだ! と思って、僕は興奮しました。エンジニアの方も相当興奮してましたね。ドラム、ベース、パーカッション、ギターも、4人で一緒に録って、「これは来たな」と思った。そこで初めて曲の形が見えたという感じがしました。


大山:確かに、プリプロだとよくわかんなかったんですよ。なんとなくテイストは出てたんですけど、実際録ってみて、生のグルーヴがあることで「ああ、そうか」みたいな腑に落ちる感覚がありました。


酒井亮輔(以下、酒井):土台がしっかりしてたので、ベーシックを4人で録った時に、貴秋が言ったみたいに、エネルギーのぶつかりあいができた感覚をビシバシ感じたので。それをパッケージできたのはすごくうれしいことですね。


――間奏で貴秋さんが「ベース!」って叫んでから、ベースソロに入るという。ああいうところ、すごくスリリング。


大山:俺はずっと怒ってましたけどね。なんで「ギター!」って言ってくれないんだって。


――確かに(笑)。その次にギターソロもあるのに。


酒井:でもライブだと、だいたい逆だからね。「ギター!」って言われてバーッとソロを弾いて、俺の時は言ってくれない(笑)。


――ギター、ストイックでめちゃくちゃかっこいい。ファンキーなカッティングの鬼と化してます。


大山:もう常套句のように。あんなグルーヴを出されたら、それはもうやりますよと。でも本当にいいテイクでしたね。今回は状況的にも、チームとしても試されるレコーディングだったなと思っていて、でもこれまで8年間の中で築いてきたBRADIOというチーム力がすごかったと思います。事務所のスタッフ、レコーディングのスタッフ、サポートミュージシャンが、みんなわかってるんですよ。大変な状況だからこそ、もっと面白いものを作ってこの状況を生かしちゃおうぜ、みたいな。そういう人間のグルーヴが、今回はすごく良かった。


――ああー。なるほど。


大山:何のために生でレコーディングしてるのか? というものが、今回は如実に出ましたね。今の時代は別に打ち込みでもいいクオリティを出せるけど、この曲は絶対に生じゃないと出せないグルーヴが出まくってるんで、めちゃくちゃ楽しかった。


――しかも、あのイントロのヴィブラスラップの音がね。でかいでかい。


真行寺:カ~ン!って(笑)。


――めちゃくちゃインパクトある。あれは誰のアイデアですか?


大山:あれは、パーカッションをやってくれた朝倉(真司)さんです。最初はボンゴとティンバレスを入れようか、ぐらいの話だったんですけど、パーカッションをいっぱい持ってきてくれて、みんなで「これ入れてみよう」って。


酒井:しかも、サステインがめちゃくちゃ長いやつなんですよ。カ~~~~ン! って。長っ! みたいな。でも入れてみたら「いいじゃん」って。すごく面白かったです。


■「今生きている僕のソウルを反映できたら」(真行寺)


――貴秋さん、リリックはどんなイメージで書きましたか?


真行寺:仮歌の段階でサビの歌詞が出ていて、そこからふくらませていった感じです。すごくシンプルで、前回の「LA PA PARADISE」の時もそうでしたけど、ソウルミュージックの典型として、ひとりでくたばってて、そこに女の子が現れて、恋に落ちて、踊っちゃうみたいな、すごくシンプルなストーリーですね。


――<チャンス到来>というフレーズがあって。カップリングの「Once Again」にも同じ言葉が出てくるんですよね。これはたまたまですか。


真行寺:たまたまです。最近けっこうそういうこと、あるんですよ。ここのところ自分の中で「ソウルミュージックって一体何なんだろう?」という壁にずっとぶち当たっていて……今もその最中なんですけど。僕が好きなソウルミュージックと、僕らがやるソウルミュージックって、歴史の背景が違う。本家のソウル、ファンク、ブルースとか、彼らが生活の中で感じてきたつらいことや悲しいことを、そのまま歌うのがブルースだったり、楽しいことに変えるのがソウルだったり、神様にお願いするのがゴスペルだったり、そういう背景がない僕が歌うソウルミュージックっていったい何なんだろう? ということにぶち当たっていて。


――はい。


真行寺:やっぱりソウルミュージックって、オーセンティックであるべきだと思うんですね。音楽を通して夢を見てもらうことも大事なんですけど、やっぱり今自分が思っていることが歌の中に自然と投影できたらいいなと思っている、今はなんとなくその段階にいるんですけど、それが今の歌詞にも出ていると思っていて。昔は、同じ言葉を使ったらありきたりでまずいかなと思うこともあったんですけど、でも同じ人間が書いているし、そんなにしょっちゅう違う気持ちにはなれないし、その時に感じているものをダイレクトに音楽に入れたいなという気持ちがすごくあって。


――うん。わかります。


真行寺:だから「きらめきDancin’」は、さっき話したソウルミュージックのストーリーがあって、女の子と恋に落ちて一緒に踊ろうぜというストーリーの中に、本当に今生きている僕のソウルというものが反映できたらいいなと思って、そういう言葉をポンと入れてみました。カップリングの曲にも自然とそれが出てしまったというか、あとから「いつのまにかこんなこと書いてるな」というのはありましたね。「Once Again」のほうが昔からあった曲で、今の気持ちを歌詞に書いたら、こっちに寄って行った感じです。僕らがやるソウルってこういうことなのかな? って、今は思ってますね。


――大きな方向がある気はしますね。チャンスを探して、夢に向かって、つらいこともあるけど、やるしかないだろっていう等身大のメッセージは、この2曲に限らず今のBRADIOに共通している気はします。それこそメンバーチェンジという出来事だって、ある意味でピンチをチャンスに変える絶好の機会なわけじゃないですか。


真行寺:まさに。


――それで<チャンス到来>というフレーズが出てきたから、「なるほど」と思ったんですよね。それはさておき、タイトルの「きらめきDancin’」って、えらいインパクトですよね。ちょっと前に「ときめきダンシン」っていうのもありましたけど。


真行寺:シザー・シスターズですね。


――そうそう。別に関係ないですか?


真行寺:いや、大いにあります(笑)。よくある邦題的なやつがいいなと思っていた時に、マネージャーが「絶対これでしょ」と。僕らはずっと昔の音楽を追いかけて聴いてきたんですけど、それだけじゃなくて、今の時代と一緒にやっていかないとダメだということも感じていて、YouTubeとかで探す時にも、タイトルってすごく重要だと思うんですよ。「きらめきDancin’」というタイトルで引きつけられて、ポチッと押すことで曲が広まっていく。その入り口として、パンチのあるタイトルは必要だと思ったんですよね。


――そしてミュージックビデオ、この取材の時点ではまだ完成してないんですけど、ものすごい力作だと聞いてます。


大山:いやー、今回はすごいことになってますよ(笑)。映像と曲のマッチ力がすごくて、本来あるべきミュージックビデオが作れたと思ってます。


――みなさんぜひ、ポチッと押していただければ。あらためて「Once Again」はどんな曲になりましたか?


大山:僕らはこの質感のジャンルはけっこう得意だと思っていて、逆に「きらめきDancin’」のほうが、新しいグルーヴを楽しんでいる気がしてます。言葉にするのが難しいんですけど、心に何かが残っていく感じの曲なんですよね。テンポが早くて疾走感があって、でも余韻がしっかりと残せる曲になったと思っています。


――「きらめきDancin’」が土着的なソウル/ファンクなら、「Once Again」はストリングスをフィーチャーした、シティポップっぽさもあるアダルトでスムースなソウルミュージックになっていますね。


酒井:「Once Again」は途中のスキャットを3人でやってるんですけど、めちゃくちゃ難しかった。最初は二人だけだったんですけど、聡一が「3人でやったら面白いんじゃね?」って。「嘘だろー?」と思ったんですけど(笑)。


大山:どのぐらい難しいことなのかもわからずに誘いました(笑)。


酒井:でも、これをライブでできたら楽しいし、BRADIOにしかできないことだろうなとは思いましたね。曲自体は、個人的にはすごいエモい曲で、元気になりたいから聴くという曲ではないなとは思ってるんですよね。レコーディングが終わってから、今も毎日聴いてます。それぐらい好きな曲です。あとはライブで、どれだけ世界観を表現できるか。


■「対決感と相乗効果をどっちも楽しんでほしい」(酒井)


――これも歌詞がいいですね。ブルースっぽいというか、けっこうグダグダしてますよね。


真行寺:してますね(笑)。


――夢に向かって、<こんなとこで終われない>と言いつつ、<夏を目の前に早くも決意が薄れソファーに根を生やす>と、やる気があるんだかないんだかわからない男のひとりごとみたいな話。これは自分ですか?


真行寺:自分ですね。面白いこと書けたなと思います。こういうグッとくるメロディで、感動的なサウンドに、皮肉とかユーモアを入れられたので、僕らしい歌詞が書けたなと思います。


――新曲を引っ提げたライブ、楽しみです。今後のライブは、サポートメンバーも含めて、どんな形でやっていきますか。


大山:もともと決め事とかも特になく流動的にやってるので、自由な発想でやっていきたいなと思ってます。こうじゃなきゃいけないというものもないし。ね?


酒井:そうだね。


大山:チーム全体も、この際音楽を楽しんじゃおうというモードになってるので、それをそのままライブの形にしていきたいと思ってます。あんまり過去にはとらわれたくないし、かといって今までやってきたことを否定するのでもなく、ここまで持ってきた思いがある中で、新しいものを作っていく楽しみを感じてます。いい意味で安定感のない、「またこれか」ということのないものを作っていけたら面白いんじゃないかと。


――6、7月には恒例の主催イベント『エイリアンサーカス』も控えてます。どうなりそうですか?


大山:今回のコンセプトは“先輩と勝負する”です。『エイリアンサーカス』は毎回、僕らが「ヤバいなこいつら」と思う人を呼んでるんですけど、要はその人たちのいい部分をどんどん吸収しちゃおうという気持ちでやっていて。一緒にやったら何が生まれるんだろう? ということを毎回楽しみにしてますね。今までは、同世代や若手と一緒にやることが多かったのですが、今年は自分たちの中のレジェンドを呼ぼうということで、北海道がSCOOBIE DO、福岡が鶴、東京がORIGINAL LOVEという。ヤバいですよ、今年は。


――ヤバいですね。強敵揃い。


大山:“先輩と勝負する”というコンセプトはいいねということでブッキングしていったんですけど、いざ出演していただけるということになって、これはヤバいぞと(笑)。呼んだのはいいけどどうしようみたいな。


酒井:SCOOBIE DOなんて“ライブ・チャンプ”だからね。


大山:3組ともライブは強烈なので。『エイリアンサーカス』は今回で3年目ですけど、過去2年とはまた違うものが今年も生まれるんじゃないかと思って、楽しみにしてます。自分らでも、やって初めて「こういう感じなんだ」と毎年思うので、不安もありますけど楽しみの方が何倍も大きいです。今年は負けたくないですね。


真行寺:本当にすごい実力のある方たちですし、でもスーパースターが同じ場所に二組存在してもいいかなと思っているので。リスペクトしつつ、見せつけられたらという気持ちでいます。


酒井:いろんなフェスに行っても、自分は対決感が出てしまうんですよね・勝ち負けではないんですけど、ただ仲良しというだけではなく、音楽で相乗効果が生まれそうなアーティストばかりなので、すごいワクワクしますね。来てくれる人にもワクワクしてほしいし、対決感と相乗効果をどっちも楽しんでほしいと思います。


(取材・文=宮本英夫)