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Far East Dizain、JILUKA、DEVILOOF……独自の進化遂げるV系シーン新進気鋭のバンドたち

2018年04月04日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「激しいサウンドのロックが聴きたければ、まずヴィジュアル系バンドをチェックすべきだ」ーーいま、耳の早いロックリスナーの中でそう囁かれていると音に聞く。


 念のために言っておくが、“ヴィジュアル系”とは音楽ジャンルを指す言葉ではない。表現するスタイルであり、ムーヴメントであり、文化である。煌びやかでポップなバンドもいれば、ダークでヘヴィなバンドもいる。型があるようで、実際は何でもあり。そこがヴィジュアル系シーンの面白いところだ。


 かつてDIR EN GREYの海外進出は、世界における日本のバンドの評価を大きく変えたと同時に、国内においても多大な影響力を及ぼした。メタル色を濃く打ち出しながらもカテゴライズ不能な音楽性を持つ異形で圧倒的な存在感は、どこか偏見の目で見られがちだったヴィジュアル系が他ジャンルからの注目を浴びるきっかけになり、“V系ラウドロック”ともいうべき多くのフォロワーを生んだ。MUCCは日本古来の歌謡曲やアングラ芸術をベースとしながらも海外の最先端サウンドを貪欲に取り入れ、唯一無二のオルタナティブロックをかき鳴らしている。メタルシーンにいたNOCTURNAL BLOODLUSTがあえてこのシーンに乗り込んできたのも、自由闊達な様相を呈すヴィジュアル系に可能性を見い出したからこそだろう。


 メインストリームから離れたマニアライクな音楽嗜好を、キャッチー性で咀嚼しながら独自の解釈を以って表現するオリジナリティは日本ならではであり、それが顕著に現れているバンドが多いのがヴィジュアル系シーンの特色である。


 聴きやすいが、マニアックでもある。その逆もまた然り。そんな、ロックファンをも唸らせるV-ROCK、気鋭のヴィジュアル系バンドをいくつか紹介したい。


■Djent×ヴィジュアル系、Far East Dizain


 高い演奏力と音楽性でメタルファンからの支持も熱かったヴィジュアル系バンド、DELUHIの元メンバー、Leda(Gt)とSujk(Dr)を中心に結成されたFar East Dizain(ファー・イースト・ディザイン)。


 ジェント(Djent)と呼ばれるプログレッシブ・メタルより派生したヘヴィメタルのジャンルを、疾走感溢れるビートとメロディアスでキャッチーなボーカルで昇華させていく様は、まさにV-ROCKの真骨頂ともいうべきものだ。


 Ledaは、BABYMETALのツアーギタリストとしても名を馳せており、人間工学に基づいた革新的な設計で注目されているスウェーデンのギターブランド、Strandberg Guitarsから、日本人初のシグネイチャーモデルが制作されたことも先頃話題になったばかり。まさに次世代ギターヒーローが率いる新世代のヴィジュアル系ロックバンドといえるだろう。


■ヴィジュアル系モダンメタル、JILUKA


 同じく、V-Djentの潮流にいるバンドであるが、スクリーモ要素が強く、よりラウドな印象を受けるのがJILUKA(ジルカ)である。


 Ricko(Vo)の獰猛なシャウトといい、Sena(Gt)のシュレッドでテクニカルなフレージングといい、複雑な楽曲展開とともにどこか変態的な香りを匂わせているのは、確かな演奏技術による遊び心、余裕といったところだろう。


 オーセンティックなHR/HMからニューメタル、V-ROCKのメタルバンドであるのに、ヒップホップやブレイクビーツを積極的に取り入れ、本格的な縦ノリまでこなす振り幅も圧巻である。メロディアスというほどでもなく、ポップとはほど遠いはずなのに、なぜか耳馴染みが良いキャッチー性を感じてしまうほどの説得力を持ち合わせる、奥深いバンドだ。


■ヴィジュアル系メタルの最終形態、DEVILOOF


 ラウドロックを掲げるヴィジュアル系バンドといえば、猛り狂う“デスボイス”と艶のある歌声を響かせる“クリーン”を使い分けるボーカルスタイルが一般的であるが、一切クリーンなしの本格派デスコアでヴィジュアル系シーンに殴りこみをかけたのが、このDEVILOOF(デビルーフ)だ。


 EDMやシーケンスといった、V-ROCK御用達のデジタルサウンドなんてどこ吹く風。グロウル、ガテラル、ピッグスクイールにホイッスルボイスまで駆使するKeisuke(Vo)の狂気的で邪悪なボーカルを武器に、ただひたすらに重々しく禍々しいブルータス・デスメタルを叩きつけた『PURGE』(2016年)で多くのメタルファンのハートをがっちりと掴んだ。


 メンバーの脱退、加入を経て、バンド名を大文字表記に変更した再始動後(2017年~)は、猟奇的な部分は薄れ、クリーンのボーカル部分が増えるものの、その差し込み方も他バンドとは一線を画す。スケール感の増した轟音の中に飛び込むシュレッドギターも見事で、V-ROCKならでは雑多性を見せながら、クオリティの高さで纏め上げる手腕もさすがの実力派バンドだ。


■負の感情を吐き出す、キズ


 痛みや苦しみといった負の感情を叙情的な旋律にのせて吐き出していく、V-ROCK様式美の正攻法ともいうべきスタイルを掲げる、キズ。


 カミソリで斬りつけてくるようなアブなさを放ちながら、エッジの効いたサウンドにのる、歌謡テイスト香る泣きのメロディが魅せる表情はどこか儚げ。聴くものの心を揺さぶっていくかのように、昂ぶる激情に合わせてうねりをあげるダイナミズムは、表面だけのローチューニング&ハイゲインサウンドに偏りがちになってしまう、流行に乗っただけの形骸化したラウドロックバンドに対するアイロニカルなアプローチにも思えてくる。古き良き、ともいうべき80年代のポジパン~ジャパニーズパンクの魂を感じずにはいられないのだ。


■ダイナミックな音像とクールさが共存する、Sick.


 燃え滾る獰猛さの中に一滴の水を落としたような、そんな冷ややかなクールさを見せるTatsuki Nakanishi.(Vo)のハイトーンボーカルは、メタルともエモとも違う新しい感覚。それでいてどこか懐かしい気もする。聴いていると焦燥感で胸を抉られるような気持ちになるSick.。


 洋楽的アプローチによるダイナミックな音像とメッセージ性の強い歌詞は、2000年代以降に登場した、海外スクリーモバンドを彷彿とさせるポスト・ハードコアバンドに近いのかもしれない。しかしながら、どこか頽廃的で情緒を感じさせる美学は紛うことなきV-ROCKイズムだ。


■墓場の街から人間界にやってきた、Leetspeak monsters


 墓場の街グレイヴタウン出身のモンスター4人組、Leetspeak monsters(リートスピークモンスターズ)。


 ダークファンタジーな世界観とゴシックなビジュアルは、ホラー小説/映画をルーツとするイギリスのゴシックロックの源流でもある。“儚さ”や“病み”といった一般的な“ヴィジュアル系っぽさ”はなく、どこかコミカルな雰囲気漂う“Spooky”なキャラクター性に親しみやすさを覚える。D13(Vo/Rap)の小気味良いラップと妙な色気のある歌声がもたらす心地よさは、まるで海外バンドを聴いているような、いや、彼らはモンスターであったか。


 ハロウィンミュージックや映画音楽のような、高低差の大きい音づかいを用いたパーティーテイスト溢れる音楽を、ラップコアやエモで訳していくような卓越した音楽センスは、幅広いロックファンへの訴求力も高いだろう。


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 いまや日本のロックファンのみならず、世界が羨むほどの“Visual-kei”。それは、ただの洋楽の真似事だけではたどり着けないものであることを、ここに上げたバンドは証明している。良くも悪くも“私服化”したロックが増えた裏では、“戦闘服”というべき世界観を纏ったヴィジュアル系バンドが、元来ロックの持つ狂気性を研ぎ澄ましているのだ。だから、ヴィジュアル系は面白い。(文=冬将軍)