「売り手市場」の昨今、社員の初任給引き上げが相次いでいる。通販事業を展開する北の達人コーポレーション(本社:北海道札幌市)は3月30日、初任給の引き上げを発表した。月給25万円から9万円増額の34万円になるという。
対象は今年度入社の総合職社員で、前年度の1.36倍。年収ベースで考えると300万円から408万円へと、100万円以上アップする。
他にも、富士フイルムが今年度の初任給を23万5000円と、昨年度より1万1200円上積みした。大和証券は入社予定の総合職を対象に、6月以降、現在から1万円増額の25万5000円、明治安田生命保険は来年度から月5000円引き上げ21万円となる予定だ。
「いつ年収1000万円超えるかの方が重要」「引き上げと応募者増加はあまり関係ない」
しかしなぜ今"初任給引き上げ"が起こっているのだろうか。人事コンサルティングを行う人材研究所の曽和利光代表は人材不足の"採用難時代"であることに加え、高年齢層の引退により若者に振り分けられる報酬原資が増えたことが理由だと分析する。
「初任給引き上げはITエンジニア、サービス業、小売業など採用難の業種で出てきていますが、総合職ではまだ珍しいですね。ただ"初任給引き上げ"と"応募者の増加"はあまり関係ないように感じます」
さらに「初任給を上げない会社は、上げなくても採用できます。学生からすれば『いつ年収1000万円を超える?』という質問の方が重要では」という。日本は歴史的に見ても、勤続年数が長くなるほど報酬が上がる企業が多いため、
「初任給よりその後の昇給率などのほうが重要。会社の給与水準を見たいのであれば初任給ではなく、例えば30歳の平均賃金を見る方が適しています」
とコメントしている。
今後初任給が上がる可能性があるのは「代替出来ない仕事」
一部IT企業では"初任給制度"自体が変わってきている。サイバーエージェントは今年1月、初任給制度を撤廃し、能力別給与体系に変更すると発表した。メルカリも今年度から新卒入社の社員に、能力や経験に応じた年収を提示する。
現状のような、全員がほぼ同じ額をもらう初任給の風潮は、今後廃れていくのだろうか。曽和代表は、「実態がどうあれ"初任給"の名称をなくすことは流行的にありそう」だが、
「個別に初任給を決めるといっても中途採用と異なり、前職報酬などの参考数字もない。その中で差をつけるなら、『学歴(高卒・大卒・院卒)』『職種』『総合職・一般職・地域限定』など、群ごとにつけることが現実的ではないでしょうか」
と言う。
実際、社内での報酬水準ですら「『差の根拠』を納得感あるものにするのに各社は苦労している状態」のため、新卒社員個々人を評価することは容易ではないと感じているそうだ。今後の初任給事情は、
「採用競合が激しい業界、不人気な企業では『上げざるを得ない』状況になるところから始まるでしょう。ただ企業間というより企業"内"格差が生じていくと考えています」
とコメントした。今後、最低賃金法などの要因以外で初任給が全体的に上昇していくことは、あまり考えられないという。簡単な業務はAIなどが代替していくため、「初任給が上がるとすれば、中長期的に見ると"代替できない仕事"」ではないかと推測していた。