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SNS時代、オーディションはこう変わる ソニーミュージックが築く、アーティストとの新たな関係

2018年04月03日 12:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ソニー・ミュージックエンタテインメントが、新たな形のオーディション『Feat.ソニーミュージックオーディション』を開催し、現在エントリーを受け付けている(受付は4月16日17時まで)。


参考:多様化する音楽オーディションの新潮流は? SNS時代の新機軸プロジェクト『Feat.』から考察


 今回のオーディションの特徴は、ファイナリストに選ばれたアーティストたちが、ソニーミュージックのバックアップのもと、応援予算(上限300万円)やスタッフ、インフラなどの提供を受け音楽トレンド作りを目指すということ。3カ月かけて審査されるファイナル審査の模様は動画配信サイトGYAO!にて配信され、ソニーミュージックグループ独自のアルゴリズムで作られた「音楽トレンドランキング」で総合的にトップとなったら優勝という仕組みだ。


 従来のオーディションとは違い、ソーシャル上の音楽ファンを巻き込みながら公開型で行われるのがこのオーディション。そこではアーティストの楽曲やライブパフォーマンスだけでなく、セルフプロデュース能力も結果を大きく左右する。


 なぜこういったオーディションを開催しようと考えたのか。そこから見える、これからの時代のレーベルとアーティストの関係とは。プロジェクトに携わる梶 望氏(エピックレコードジャパン オフィスRIA部)、高橋 晋一郎氏(キューンミュージック制作部チーフ)、赤林 勇太氏(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル マーケティング1部デジタルマーケティング課)、平林 満己氏(SNプロモーショングループ デジタル戦略ルーム)に話を聞いた。(柴那典)


■高橋「従来のオーディションの仕組みが機能しない時代に」


ーー今回の『Feat. ソニーミュージックオーディション』は、どういうところからスタートした取り組みなんでしょうか。


高橋:基本的には各レーベルからスタッフが集まってプロジェクトが始まりました。


梶:各セクションの代表者が集まって新しいオーディションのアイデアを出そうというところから話が始まっているんですね。その条件が、一つはソニーミュージックらしいオーディションであること。もう一つは今まで誰もやったことがないようなオーディションであるということ。


ーー過去にもソニーミュージックは様々なオーディションを行ってきましたよね。


梶:そうですね。そこから実際にヒットアーティストも生み出してきました。しかし、ここ最近は様子が変わってきていて、今までのオーディションからヒットを生み出す構図が成立しにくくなっている。そういう危機感から、今までの組織ではなく、全く違った視点からオーディションを作ろうということになりました。というのも、まず今の世の中的にオーディションの意義が変わってきて、応募者にとってのゴールが見えにくくなっている。それを現場でも感じているんですね。なので、課題を出してそれを解決していく方向で考えれば新しいオーディションができるんじゃないかという発想で進めていったんです。


ーーオーディションのゴールが見えにくくなっている、というと?


高橋:これまでバンドオーディションやボーカルオーディションや、いろんな形のオーディションを続けてきましたが、たとえばそこでグランプリをとったら10万円もらえるとか、メジャーデビューできるとか、その仕組みがすでに機能しない時代になってきていると思うんです。


梶:今の若者にとっては、オーディションに合格することがゴールじゃないんですよね。承認欲求は変わらずにあるんですが、それがかつては審査員の人たちに認められることだったけれど、ソーシャルメディアが発展した今はそうじゃなくなった。みんなに共感されることや、実際にみんなに受け取ってもらって結果を出すことがゴールじゃないとモチベーションがあがらないんじゃないかと思うんです。だから、昔ながらのオーディションのやり方、昔ながらのアーティストとレーベルの関係では魅力的ではなくなったんじゃないかと考えた。


ーー昔ながらのアーティストとレーベルの関係とは?


梶:プロモーションをやっていても、今がトップダウンの時代ではなくなってきているのを感じるんですね。かつてはメディアやタイアップなどで強力にプッシュしていけばヒットを出せた時代があった。でも、いつの間にか、それをすればするほど一般の人たちが逆に引いていってしまう時代になっている。それと同じように、かつてのオーディションはお偉い人たちが並んで、面接みたいに「君、いいね」って決めるようなトップダウンのやり方だったと思うんですね。でも、今アーティストとして受け入れられている人たちは、みんな自己プロデュース能力が高いんです。僕が担当している宇多田ヒカルもそうですし、小袋成彬もそう。岡崎体育やSuchmos、SEKAI NO OWARI、サカナクションもそうです。自分をどう見せたいかを常にわかっているほうがアーティストとして成功している。


平林:僕はWebのマーケティングや広告をやっている部署にいるんですが、YouTubeやInstagramのインフルエンサーのようにデジタルの領域でセルフプロデュースをしている人たちを見ていて思うのが、特に海外のインフルエンサーは全部自分でやれるんですね。10代前半くらいの子が自分で企画を作って動画を撮って公開していたりする。もう少し大人になると、企画やディレクションを自分でやって編集だけ別の映像制作会社に発注するような本格的な動画を作っている人が沢山のフォロワー数を抱えるような世の中になってきている。


梶:だからこそ、今のメジャーレーベルの意義というのは、きちんと自己プロデュース能力を持ったアーティストたちが活躍していきやすい環境を整えるところにあると思うんですね。つまり、アーティストとレーベルの関係も、昔のような上下関係ではなく、パートナーというか、フラットな関係になっているのではないかと思うんです。そういう時代の新しいオーディションとして「ソニーミュージックと手を組んで音楽業界を変えてくれる、自己プロデュース能力の高い人を募集しよう」と考えた。じゃあ、ソニーミュージックはフィーチャリング参加でいいんじゃないかという話になったんです。


ーーそれで『Feat.ソニーミュージックオーディション』という名前になった。


梶:そこから、審査をするのも一般の音楽ファンにするべきじゃないかと考えたんです。そう視点を変えることによって、誰もやったことがないオーディションができるんじゃないかと思った。アーティストが新しい音楽トレンドを作っていけるように、ソニーミュージックが応援参加する。そういうオーディションにしました。ただ、そうすると一番難しいのが審査基準なんですね。


――審査基準はどうするんでしょう?


梶:一番悩んだのがそこです。トレンドだけで審査してしまうと、とにかく話題になったらそれでOKになってしまう。そういうことではないので、ソニーミュージック独自のアルゴリズムを開発しました。ただTwitterやInstagramのフォロワーを増やしたり、YouTubeの再生回数を増やすのではなく、それが正しく音楽のバズになっているかどうかをきちんと評価する仕組みを用意しています。


――審査はどのように進めていくんでしょうか。


梶:ファイナリストの4組までは我々の審査によって選んで、最終的にその中の誰が優勝するかを一般の人に審査してもらおうと思います。そこで、ファイナリストに残った人たちがどのように音楽トレンドを作っていくのか、それを追った番組を7月にGYAO!でスタートします。MCを平井“ファラオ”光さんと池田美優さんがつとめて、それが3カ月続く。最終的にはファイナルイベントを行うことも検討しています。


「Feat.ソニーミュージックオーディション」番組MC 平井“ファラオ”光 & みちょぱが実際にオーディションをやってみた!
――どういった番組になるんでしょうか。


平林:基本的にはファイナリストたちがトレンド作りにいそしむ姿を追っていくリアリティショーですね。アーティストが何を考えて、どう動いていくのか。その中身を配信していこうと思っています。


――先ほど独自のアルゴリズムとおっしゃいましたが、基本的にはSNSでの反響をもとに、起こしたバズが音楽的なものであるかどうかを加味していく仕組みになっているわけですね。


梶:基本的にはTwitter、Instagram、YouTube、Facebookを軸にしているんですけど、それ以外のGYAO!やニコニコ動画、Yahoo!の動画トピックなど、様々なチャンネルを加味しています。そこでのスコアを換算して、日々のランキングや何が上がって何が下がったという詳細も示せるような仕組みにしようと思っています。


――参加資格はアマチュアミュージシャンのみでしょうか。


梶:特定のレーベルに所属していなければ、プロダクションに所属している方もOKです。


梶「レーベルやオーディションの立ち位置も変わっていく」
――そういった中には、先ほど平林さんからお話があったように、メジャーレーベルに所属していなくともすでに多くのフォロワーを抱えている人も多いですよね。SNSだけでなく、SoundCloudやBandcampなどの発信手段を持っている人もいる。そういった方は、わざわざオーディションに応募するモチベーションを感じないかもしれない。そういったあたりについてはどうでしょうか?


梶:もっと大きな話を言うと、レーベルの立ち位置もオーディションの立ち位置も、今後変わっていくと思うんですよ。たしかに、なんでも自分でやれちゃう人たちにとっては「レーベルなんていらないじゃん」と思うかもしれない。それはそれでいいと思うんですけど、じゃあ、そんな時に僕たちはレーベルとして何ができるんだろうということを模索していかなければいけない。そこで、やっぱりメジャーレーベルだと圧倒的に違うものがある。


ーーそれはなんでしょうか。


梶:簡単に言うと、組織力や資金力ですね。それを使って、アーティストの魅力を世の中にもっと広く伝えるお手伝いができる。特にソニーミュージックはできることが沢山ある。それを利用することができるのが、このオーディションの面白さだと思うんですね。たとえばインディーズで活動している人、すでに事務所に所属している人で、メジャーに興味ないと思っている人も、それを試すことができる。あとは、変な話、例えばお笑い芸人がたくさんいるプロダクションに所属しているような人に応募してもらってもいいし。そういった間口は広げたほうがいいと思っています。


平林:ただ、やっぱり音楽が主語になるのがこのオーディションにおいては大事になるとは思っています。TwitterやInstagramなどのわかりやすいSNSも指標にしますが、そこだけに捉われないで、音楽がいかに聴かれているのかを評価する。たとえば海外にはSpotifyで沢山再生されていてもSNSにそこまでフォロワーがいないアーティストも多いので。


梶:一時期は、僕も「いいコンテンツを作れば必ず届く、必ず世に認められる」と思ってたんですよね。でも今はそうじゃない。いいコンテンツと共に、いい届け方がないと届かない時代になっている。このオーディションはそれを探っていく実験の場でもあるんですね。だから我々としてもどう転ぶか見えていない、未知数のところがある。


ーーどういうことでしょうか。


梶:ファイナリストに残った人たちは、それぞれ違うコミュニケーションを探るようになると思うんです。同じお題を与えられるのではなく、どうやってトレンドを生み出すのかという手段が様々で、そこには各々のストーリーがある。そこに対して我々が何を手助けできるのかを考えてやっていかないと、このオーディションは面白くならない。そこのコミュニケーションの作り方みたいなことを僕らも勉強させてもらいながら一緒にやっていきたいと思っているんです。そういうことができたら、すごく面白いオーディションにできるのではないかと思います。


■梶「トレンドとは“みんなが気にする定性的なもの”」


――このオーディションのキーワードとして「トレンド」というものがありますよね。音楽トレンドを作った参加者が優勝となる。では、みなさんはトレンドというものをどう捉えてますでしょうか。


梶:僕は普段マーケティングを生業にしてるので、その中で考えるならば、今の世の中の人が指標にしているもの、ということですね。かつてはオリコンのランキングやレコチョクやiTunesのチャートで1位になることがそれなりの指標になった時代もあるんですよ。でも、そういう定量的な指標だけでは昔に比べたら明らかに通用していない。若い子たちがランキングだけを信じているわけではないんですよ。でも、TwitterやYahoo!のトレンドは気にしている人が多い。これだけ情報が多い時代に、みんなトレンドだけは気にしてるんですよね。だから僕は「トレンドとは何か」と聞かれたら、「みんなが気にする定性的なもの」と言いかえるようにしています。


赤林:僕が考えるトレンドは、オリジネーターになる人ですね。流行を誰が生み出したのかを辿ってみると、そういう人が最初にいて、それを真似して広がっていくようなところがある。そういう流れを作った人がトレンド、すなわちオリジネーターなんだと思うんですね。たとえばSuchmosが出てきた後に、彼らのようなタイプの音楽が流行っていたりする。今回のオーディションでも、作った楽曲が真似されて広がっていくようなアーティストが出てくるといいなと思います。


高橋:さっきのオリコンの話もそうですけど、価値基準の指標としてきたものが通用しなくなってきている中で、SNSが唯一面白いのはそこにみんながわくわくするような何かがあるからだと思うんです。そういったわくわくする何かを作って、それを広げた人が勝者になっていくと思います。言ってしまえば、これはソニーの組織力と300万円の資金を使ってあなたの夢を広げましょうというオーディションなんですね。そういう中で、僕らも見たことのないようなものを見つけたいですね。


平林:今の日本にヒットチャートが不在であるというのはよく言われていることで、そういう時代にみんなが何を信頼しているのかというと、それは自分の身の周りに聴こえてくる音楽だと思うんですね。たとえばそれがTwitter上のフィードやタイムライン、もしくはYouTubeの関連動画だったりする。そこで聴こえてくる量が多いものがトレンドだと思います。ただ、そういったプラットフォームのアルゴリズムをハックして人の目に晒すことって、案外できたりするんです。そういうものでなく、生の声として耳に入ってくるものが本当のトレンドだと思います。だから、その過程のコミュニケーションをどうデザインするか、それをどんなストーリーにするかというのが大事になってくると思いますね。そういったことをできるような人と一緒に何かできたら面白いと思います。(取材・文=柴那典)