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葵わかなと松坂桃李が紡ぎ続けた“笑い”の大切さ 『わろてんか』最終週を振り返る

2018年04月01日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 これまでの物語を喜劇にしてプレイバックする。『わろてんか』(NHK総合)第26週「みんなでわろてんか」最終回は、およそ10分間余りの青空喜劇『北村笑店物語』にて締めくくられた。


 てん(葵わかな)と藤吉(松坂桃李)が巡り会い駆け落ちしたところから、寄席小屋を見つけ、寺ギン(兵動大樹)との芸人をかけた揉め事、かけがえのないパートナー・伊能(高橋一生)との出会いを面白おかしく喜劇のショウにしたものだ。戦火をくぐり抜け、大阪の地に再び笑いの火が灯ったこと、北村の熱意を見てもらうための特別公演。この喜劇は、北村笑店の社史を振り返ると同時に、てんの半生を描いたものでもあった。


 『わろてんか』は、てんと藤吉が二人三脚で多くの人に笑いを届けてきた物語だ。そして2人の周りには、家族同然の芸人たち、かけがえのない仲間、信頼するパートナーがいた。最終週は、序盤のストーリーをなぞっていくシーンが多々ある。


 藤一郎(南岐佐)と飛鳥(花田鼓)が福笑いで話す「ギョロ目の鬼さん」は、てんの父・儀兵衛(遠藤憲一)のあだ名。てんのモットーである「つらい時こそ笑うんや。みんなで笑うんや」というセリフは、若くして亡くなった新一(千葉雄大)の言葉だった。以前、てんを演じる葵わかなにインタビューをした際、「笑いの裏にある涙」について話してくれた言葉を思い出す。


「生きていれば、周りの人が亡くなっていくのは、当たり前のこと」「裏にはいろんな失敗や苦悩があります。てんと藤吉は、経営者側の立場ですが、笑いを生み出す芸人さん側にはいろんな苦労や挫折があり、そこから笑いが生まれている。笑顔ってすごく単純で、分かりやすくて、誰もが持ってるものですが、その笑顔を周りに与えられる人になることはすごく難しいことです」


 『わろてんか』は笑いをテーマにしたドラマであるが、その裏で戦争の悲劇、大事な人の死を懸命に乗り越えていく力強さが描かれている。劇中で、葵はまだ幼さが残る17歳のてんから、花嫁修行、母親を経て、実年齢よりも20歳以上年上のてんを好演。戦中では老けメイクにも挑戦している。中でも、夫である藤吉を亡くし、女社長として北村笑店を牽引していく姿は、芸人たちだけでなく、我々視聴者の朝の希望にもなっていた。


「笑う門には福来る。幸せやから笑うんやのうて、今がどんなにつろうても、笑うからこそ幸せになれる。そう信じてます」


 青空喜劇終演後の挨拶として、てんが話すこのセリフは、彼女がどんなつらいときでも笑いを大切にしてきたからこそ生きる言葉だ。空襲で焼け落ちた屋根の上で、てんは藤吉と出会った頃のように、また再び歩き出すことを誓う。白文鳥が飛び立ち、風車が回る光景は、てんは藤吉の思いと寄り添い生きていくことを想像させる。そして、我々視聴者の心にもてんと藤吉が「これからもわろてんか」と生き続けていくことだろう。(リアルサウンド編集部)