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『バーフバリ 王の凱旋』宣伝担当に取材。SVOD時代の王道を示す異例のロングラン

2018年03月31日 13:41  CINRA.NET

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『バーフバリ 王の凱旋』©ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.
インド映画『バーフバリ』がコアなファン層を拡大し続けている。Twitter上で「バーフバリ! バーフバリ!」と叫ぶファンたち、いわゆる「マヒシュマティ王国民」たちの姿を見かけることも少なくないだろう。2部作の後編にあたる『バーフバリ 王の凱旋』が日本で公開されてから3か月。現在もまだ盛り上がりは衰えていない。

どうして『バーフバリ』はここまで愛される作品になったのか? 『王の凱旋』の宣伝を担当する祭屋の宮田氏にメール取材した。

■『バーフバリ』とは? エネルギーが過剰に注入されたエンタメ大作
未見の読者のためにざっくり紹介しておこう。『バーフバリ』は、古代インドのマヒシュマティ王国を舞台にした、偉大な父と偉大な息子の物語。王位を巡る陰謀や血なまぐさい戦い、勇ましい女性たちの生き様、奴隷剣士の苦悩と救済、さらに愛、恋、絆などを神話の要素も織り交ぜつつ驚くほど明快に、そしてダイナミックに描いたエンタメ大作だ。一言でいえば、とてつもなく愉快な作品である。

南インドの映画というと、『ムトゥ 踊るマハラジャ』のように歌いまくって踊りまくる、過剰な華やかさをイメージする人が多いかもしれない。『バーフバリ』には歌や踊りのシーンは少ないが、計算し尽くされた出演者たちの所作、テクノロジーを駆使しつつ作り込まれた美しい映像は、全編がダンスシーンに匹敵するほど華麗。意表を突く荒唐無稽なアクションシーンは、鑑賞者の想像力を試しているかのようだ。

本国での人気は相当なもの。『王の凱旋』の予告編が公開された現地の劇場は大変なことになった。

■DVD・Blu-ray化したのに興行収入が上昇。極めて異例の「V字回復興行」
『バーフバリ』2部作は南インドのトリウッド映画に属する。1作目『バーフバリ 伝説誕生』は2015年に本国で公開。日本では2017年4月に公開され、同月に本国では続編『バーフバリ 王の凱旋』が封切られた。日本公開は昨年12月末。宣伝担当者は『王の凱旋』公開前の様子についてこう語っている。

<前編『バーフバリ 伝説誕生』公開時から、一部先鋭的マスコミや熱狂的ファンの間で「アクション映画の概念を変えた作品!」として注目され、噂が噂を呼び、観客が主人公の名前などを叫びながら鑑賞する『絶叫上映』も話題となった作品の待望の続編でしたが、公開前の配給/宣伝の目標はまず「前作にハマったコアファン+αでどこまで観客層を拡げられるか?」でした。>

やや控えめな目標が掲げられた日本公開は、期待以上に好調な滑り出しを見せる。しかし公開3週目から、配給や宣伝担当の予想を超える事態となった。

<メイン館の新宿ピカデリーの興行成績の推移を確認しますと、徐々に下降し始めた数字が3週目から徐々に上昇し始め、特に6週目は、公開初週のほぼ2倍の数字を上げています。
通常、大半の公開作品は初週から徐々に数字が落ち始めるのが常で、公開から時間が経って数字が上がるということは、配給/宣伝では仕込めない偶発的なニュースソースが発信される以外は極めて稀です。
さらに、極めて異例なのは、2月21日には早くもDVD・ブルーレイがリリースされたにもかかわらず興行成績は衰えずむしろ加速し、新宿ピカデリーほか各地で上映継続&新規上映劇場決定、遂に3月28日時点(公開約3か月)で、9万人を動員し、興行収入が1億3千万円を突破!しました。>

■「絶対に劇場で観るべき作品」。『絶叫上映』はSVOD時代における王道である
異例のロングラン上映の理由について担当者は「作品自体が持つ圧倒的かつ問答無用の面白さ」に加えて、公開初日から新宿ピカデリーを中心に行われている『絶叫上映』を挙げる。『絶叫上映』とは、発声、コスプレ、サイリウム・光り物の使用、タンバリン・鈴の使用が可能な参加型上映イベントだ。

<この『絶叫上映』の盛り上がりもSNSなどで話題を呼び、「観客参加型の超イベントムービー」、すでにDVDがリリースされながらも「絶対に劇場で観るべき作品」としてのポジションを不動の物とした感があります。>

1つの作品を偶然集まった観客同士がシェアするという映画館の特性を「強み」として存分に引き出す作品、それが『バーフバリ』なのだ。こういったイベント性で人気を博した作品としては、『マッドマックス 怒りのデスロード』『KING OF PRISM by PrettyRhythm』などが挙げられるだろう。SVOD時代における映画興行のあり方を指し示すスタンダード、いやここは偉大な王国にあやかって「王道」と言わせてもらおう。

■語り継ぎたい名シーンの数々
『バーフバリ』はコミュニケーションを誘発する。とにかくお気に入りのシーンや演出、登場人物たちについて語り合いたくなる作品なのだ。担当・宮田氏は本作の名シーンについて、「全編クライマックスという言葉の定義を変えてしまったとさえ言われている作品のため、まさに全編名シーン」であると胸を張る。

ちなみに担当者の個人的なお気に入りの場面を訊くと、「2人で舞踏の様な動きで弓を撃つシーン」「水牛を使ってのダム破壊」「クマーラ・ヴァルマとの熱い抱擁」といった戦闘シーンを挙げつつ、「やはり、あのぶっ飛んだ、ヤシの木を使った敵陣突入シーンです」との回答をいただいた。

■秀逸なコピー「王を称えよ!」の意図
『王の凱旋』のキャッチコピーは、「王を称えよ!」。実際、見終わったら王を称えたくなる作品である。コピーを考案した宣伝プロデューサーは、「(前作に続き)今回も『絶叫上映』で盛り上げて行きたいという狙いがあったので、観客が鑑賞時により感情移入しやすいよう(=マヒシュマティ王国の人々のようにバーフバリの名前を実際にあるいは心の中で叫ぶことで昂揚する)、また作品のストーリー自体が誰もが待ち望んだ王の凱旋を壮大なスケールで描いているので、このコピーを付けた」と意図を明かしている。

■ヒシュマティ王国の民になる方法
最後に愚問と思いつつ、念のため聞いてみた。どうすればマヒシュマティ王国の国籍を取得できるのだろうか?

<作品を気に入って頂いたマスコミの方々と一般観客の作品への絶賛の内容・熱量が、これほど寸分たがわず一致した作品は過去に余り宣伝を担当した記憶が無いので、個人的には劇場鑑賞して下さった全ての方々(作品にハマれなかった方々は除き(笑))がマヒシュマティ王国民であると思っております。また、観賞後、無意識に“マヒシュマティー!”“バーフバリ、ジャイホー!”と叫んでしまう、劇中歌(特に冒頭のバーフバリ登場時に流れるメインテーマ)を口ずさんでしまう、等の方々は完全に王国民かと(笑)>

王国はやはり偉大である。