■EXILE、三代目メンバーらが語る「僕たちはどう生きるか」――LDH社外秘の一冊が書籍化
EXILE、三代目J Soul Brothers、GENERATIONS などを擁するLDHが、所属するアーティスト、スタッフ、そしてスクールに通う生徒たちに向けた門外不出の書「our promise」を再編集し、そこに30人のメンバーへのインタビューを加えて書籍化された。
LDHと言えば、昨今はドラマからスタートし、映画やライブとして発展した『HiGH & LOW』のヒットもあり、かつてのファン層以外にも訴求し、彼らのキャラクターも物語とともに広く知られることとなった。パブリックイメージとしては、屈強で怖そうに思えたときもあったが、今では礼儀正しく謙虚なイメージも知られるようになった。
■受け継がれるHIROの姿勢、受け取る後輩たちの素直さ
本書を読めば、LDHメンバーがなぜ謙虚なのか、その秘密がわかる。それは、LDHの創業者であるHIROが人一倍気を遣い、敬語を話し、そして謙虚であるからだ。
EXILE/劇団EXILE松組の松本利夫はHIROのことを「いい意味でとても心配性なんです。アイツ、やりにくくないかな、気分悪くしてないかな。そうやって、いつも周囲に気を配っています」と語る。また、三代目J Soul Brothersの小林直己は、EXILEに入る前のAKIRAに出会ったとき、「メールも敬語で、他人へもすごく気を遣う」ことで興味を持ったが、後にAKIRAから「実はHIROさんの真似してるだけなんだ」と教えてもらったという、実にほほえましいエピソードを披露している。
彼らが謙虚でいられるのには、HIROの存在がもちろん大きいが、その根底には、個々の素直さも関係があるような気がする。本書の教えの中にも「『自由』をはき違えず、背伸びせず、素直な人でいてください」というものがあるが、「素直」であるからこそ、良い先輩の良い行動を真似られるし、新しいことにもチャレンジできるし、ファンにも感謝できるのではないか。
私を含む、今まではLDHに対して壁を感じていた人々にまで、その魅力を知らしめたのにも、こんな姿勢が関係あるのではないか。ある知人も、以前はLDHに対してちょっとした思い込みを持っていたが、彼らが自意識などはねのけ、人目など気にせず、ただがむしゃらに何かに取り組む姿を見て、応援せずにはいられなくなったと語っていた。
■今や韓流スターのようなファンミーティングも
2000年代中盤、韓国や中華圏から俳優や歌手が来て、ファンミーティングをするという文化が定着したが、個人的には日本の俳優や歌手がこうしたことをする日は来ないのではないかと思っていた。その理由は、こうしたコミュニケーションを照れ臭く、「そんなことできるか!」という思いを持つ人のほうが多いように見えたからだ。そして、そのころの私は、ファンミーティングから最も遠いのがLDHのような存在だと思っていた。
しかし、現在では、GENERATIONSの片寄涼太は上海でファンミーティングを開催し、北京語であいさつをし、つたない発音に現地の客は可愛さを感じさらに盛り上がる。そこには、片寄が『兄に愛されすぎて困ってます』のような、中華圏で人気になるタイプのラブコメに出演したことも大きいが、そんなラブコメに出演することも、ファンミーティングのお約束の文化を、まさかLDHの面々が取り入れることも、かつての私にはまったく想像できなかった。しかし、素直にファンの目線を取り入れ、交流を深めた結果、中国語圏での人気を確実にものにし、その結果ライブツアーも成功させることとなった。
■アパレル、アジア展開…事業拡大のルーツも「謙虚さ」にあり
良いもの、良い意見は素直に取り入れる姿勢で、いまやオタク層やアジアのファンまでを取り込み、またNAOTO(EXILE、三代目J Soul Brothers)はアパレル、黒木啓司(EXILE、EXILE THE SECOND)は九州を軸にしたエンタテインメントプロジェクト「THE NINE WORLDS」を立ち上げ、TETSUYA(EXILE、EXILE THE SECOND、DANCE EARTH PARTY)はパフォーマンス研究で早稲田大学大学院を修了、橘ケンチ(EXILE、EXILE THE SECOND)は北京語を活かしてLDHアジア部門のスタッフに配属されるなど、それぞれがビジネスのチャンスを広げているLDH。
そんな風に素直に事業を拡大していく、そのルーツもやはりHIROにある。HIROは本書で「日本の社会では『イキがること』は周りからカッコいいと思われず、むしろ『謙虚であること』のほうがはるかにカッコいい」と語っている。そして、「謙虚だけど勢いがある」というアーティストのあり方こそが「世界に通用するジャパニーズスタイルであると証明していくことも使命だと思っています」ともつづっている。
■「謙虚なジャパニーズスタイル」で世界を目指す
実は、これはジャパニーズスタイルでもあるし、異文化が海外で定着する大きな所以でもある。確固たるパフォーマンスや技術やスタイルがあるからこそ、違った言語や文化を取り込み、その上で自分たちの良さを伝えられる。「イキがって」ファンミーティングなんて、ラブコメなんてしゃらくせえと言っていては、こんなことになっていないだろう。
今市隆二(三代目J Soul Brothers)は「EXILEオリジナルメンバーの方々も、ストリート育ちで『リアル』を経験しています。でも、僕らの下の世代のGENERATIONS以降はそうじゃない。小さい頃からEXPGなどで“英才教育”を受けてきた」と指摘しているが、GENERATIONSより下の世代は、いまやNYで「世界に通用するアーティスト”」を目指して何年もかけて修行をしている。
素直な気持ちで、異文化を取り入れ、自分たちを知ってもらうために真剣にとりくみ、それを謙虚なジャパニーズスタイルで広げていく。本書は、一般の読者に生き方を教える本としても、もちろん有益であるが、彼らがなぜ事業を拡大していけているのか、その理由が見えてくるような本でもあった。
(西森路代)