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エレファントカシマシが辿り着いた今とこれから デビュー30周年を締めくくるワンマンレポ

2018年03月30日 10:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 さらにドーンと行くぜ! 今からちょうど一年前、昨年の3月からスタートしたエレファントカシマシのデビュー30周年記念ツアー。バンド史上初めて全都道府県を網羅する形となった、この全国ツアーの最終公演『30th ANNIVERSARY TOUR“THE FIGHTING MAN”FINAL』が3月17日、さいたまスーパーアリーナにて開催された。その翌日には、同ツアーのスペシャル公演として、スピッツ、Mr.Childrenを招いた『ド・ド・ドーンと集結!!~夢の競演~』が同会場で開催されたけれど、“30周年”を冠したエレカシの“ワンマン”ライブは、この日が最後。アンコールを含めて全31曲、3時間超え……このライブを通じて見えたものと感じたこと、そして何よりもデビューから30年の歳月を経てエレカシが辿り着いた“場所”とその先の“未来”について、以下書き綴ってみたいと思う。


 会場前の特設スペースに、同ツアーのこれまでの様子を記録した写真展や歴代ライブ写真、エレカシ年表などが展示された『エレファントカシマシ THE FIGHTING MAN MUSEUM』がオープンするなど、開場前から来場者の熱気に溢れていた、さいたまスーパーアリーナ。予定時刻をやや過ぎた頃、ようやく幕を開けたステージには、宮本浩次(Vo&Gt)、石森敏行(Gt)、高緑成治(Ba)、冨永義之(Dr)というエレカシ不動の4人と、ツアーを共に回ったサポートメンバーであるヒラマミキオ(Gt)と村山☆潤(key)の2人に加えて、さらにストリングス8人、ホーンセクション4人が加わった、総勢18名ものミュージシャンが、ズラリ顔を揃えていた。生音にリアレンジされた「3210」から「RAINBOW」という、彼らの通算22作目であり、現状の最新アルバムである『RAINBOW』を踏襲した導入部から、ライブの定番曲「奴隷天国」で一気にぶちあがる観客。その歓喜は、客席上空から舞い落ちるカラフルな風船によって、早くも絶叫に変わるのだった。


 “特別な夜”に相応しいゴージャスな演奏が会場を満たしたあと、メンバー4人のみとなって披露されたのは、彼らの代表曲のひとつである「悲しみの果て」だった。そして、宮本が15歳のときに書いたという「星の砂」へ。30年以上という決して短くはない歳月を、鮮度の変わることのない楽曲によって駆け抜けてみせること。それが、この日のライブの醍醐味のひとつだった。激しいロックから、メロディと歌が美しいバラードまで、楽曲のテイストよって適宜ストリングスとホーンを加えながら、次々と惜しみなく繰り出される新旧さまざまな楽曲たち。今回のツアー中に作ったという新曲「ベイベー明日は俺の夢」から、ストリングスが加わることで新味を増したライブの定番曲「昔の侍」まで、過去から未来へ、そして現在から過去へと、彼らは自在に時を駆け抜けてゆく。


 その中盤のハイライトは、彼らが2008年にリリースしたシングル曲「桜の花、舞い上がる道を」が披露されたときだった。ゆったりと伸びやかに、そして力強く響き渡る宮本のボーカルが、聴く者の心を鼓舞してやまないこの曲。ステージから客席に向かって突き出した長い長い花道を、マイク片手に意気揚々と練り歩く宮本のまわりには、その歌詞さながら、艶やかな桜の花びらが舞い踊る。そんな夢のような光景に、胸のすくような思いを感じたのは、恐らく筆者だけではないだろう。ストリングスを交えた編成で、エレカシの持つメロディと歌の豊かさがフィーチャされた中盤戦を含めて、全19曲にわたった“一部”。その最後を飾ったのは、〈さあ がんばろうぜ!〉という歌い出しでお馴染みの一曲「俺たちの明日」だった。


 東芝EMIからユニバーサルミュージックに移籍したエレカシが、その移籍第一弾シングルとして2007年にリリースした「俺たちの明日」。“俺”と“君/あなた”の世界から、自らと同時代を生きる人々を巻き込んだ“俺たち”の歌へ。「歌を届けたい」――この日のMCをはじめ、宮本自身が近年繰り返し口にしている“思い”が、歌詞として具体的に登場するようになったのは、この時期からだったように思う。曰く、「みんなにいい歌届けたいぜ、ドドドドーン!」。この日も改めて思ったけれど、風、明日、未来、夢……エレカシの歌には、“掴めそうで掴めないもの”が、何度も何度も繰り返し登場する。決して手にすることはできないけれど、確かに感じることのできるそれらのものを、飽くことなく掴もうとする人間の意志。それは、悲喜こもごもな“人生”そのものを応援する“賛歌”のように響き渡るのだった。世代を超えた多くの人々の心に、今もなおエレカシの歌が突き刺さり続けているのは、きっとそのせいなのだろう。


 「男餓鬼道空っ風」「この世は最高!」など、粗削りなロックバンドとしての魅力に溢れた、エレカシ初期の楽曲でスタートした“二部”。それは、その荒々しさと飽くなき衝動が現在も変わることのないことを高らかに示す「RESTART」(ステージから立ち上る火柱!)「夢を追う旅人」といった最近の荒ぶる楽曲へとシームレスに繋がってゆく。そして、しばしの静寂のあと、アコギを抱えた宮本がおもむろに歌い出したのは、〈くだらねえとつぶやいて/醒めたつらして歩く〉というお馴染みのフレーズだった。昨年の大晦日、NHK紅白歌合戦という大舞台から、しっかりとその歌を“届ける”ために、再びアレンジを見つめ直したという「今宵の月のように」。それを、耳を澄ませて聴き入る観客たち。けれども、そこからまたエレカシは、現在進行形で大きく動き始めるのだった。すでに音楽誌などで大きな反響を呼んでいる注目の新曲「Easy Go」だ。〈涙に滲んだ過去と未来/Oh baby/俺は何度でも立ち上がるぜ/Easy Easy Go! Easy Go!〉。性急なビート感と4人のみで掻き鳴らすバンドサウンドが、否応なく聴く者の心を湧き立たせるこの曲には、依然として荒ぶる魂をもったロックバンド、エレカシの“現在”が、しっかりと刻み込まれている。


 しばしの休憩ののち、「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」でスタートした“三部”は、再び弦と管が加わり、豊かな音色によってクライマックスへと走り出す。巨大な会場を埋め尽くすゴージャスなサウンドで響き渡る「so many people」の興奮。しかし、本編の最後を締め括ったのは、昨年リリースされたオールタイムベスト盤のタイトルでもあり、30周年記念ツアーのタイトルにもなった「ファイティングマン」だった。30年前の3月にリリースされた1stアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』の1曲目に収録され、その後何度も何度も繰り返しライブで披露され続けてきた、彼らのテーマソングとも言うべき一曲を、メンバー4人のみの演奏で披露したエレカシ。ザクザクと刻まれるギターサウンドに、宮本の荒々しいボーカルが響き渡る。〈自信を全て失っても/誰かがお前を待ってる/oh yeah/お前の力必要さ/俺を俺を力づけろよ〉。そう、彼らは今もなお、“掴めないものを掴む”ために、闘い続けているのだ。それに万雷の拍手で応える観客たち。


 鳴りやまない拍手を受け、アンコールで再びステージに登場したエレカシが、あらかじめ数曲用意されていたというアンコール曲の中から選んだのは、「四月の風」だった。エピック・ソニーからポニーキャニオンに移籍した彼らが、その移籍第一弾シングルとして1996年4月ににリリースしたシングル曲「四月の風」(「悲しみの果て」と両A面扱いだった)。四月の風に吹かれながら〈毎日何処かで街の空仰ぐ俺がいた〉と独りごちながらも、〈明日もがんばろう/愛する人に捧げよう〉と結ぶこの曲を、さいたまスーパーアリーナという巨大な会場で歌い上げる宮本の胸に去来する思いとは、果たしてどんなものだったのだろうか。その頬を静かにつたう熱い涙。無論、それは観客の側も同じだった。


 バンド史上初となる全都道府県ツアー、そして初出場となったNHK紅白歌合戦など、実に充実した内容となったデビュー30周年のアニバーサリーイヤー。それを終えた今もなお……否、むしろ、その勢いまま彼らは、新しい明日へと踏み出そうとしている。4月6日からは、先述の新曲「Easy Go」が主題歌となった池松壮亮主演のドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)がスタート、6月6日には、この日告知された通り待望のニューアルバムの発売が決定。そして、再び全国ツアーへ。さらに、この夏には満を持しての“初出場”となるフジロックフェスティバルへの出演も決定している。さらなる新しい季節に向けて、夢を追う旅人エレファントカシマシは、この日さいたまスーパーアリーナに駆けつけた人々、来たくても来られなかった人々など、数えきれない人々の“人生”を巻き込みながら、ドドドドーン!と進んでゆくのだ。(文=麦倉正樹)