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『ちはやふる -結び-』ヒットの理由ーーキャストや監督らの絶妙なバランスが“奇跡”生む

2018年03月30日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 競技かるたをテーマにした末次由紀の人気コミックを実写映画化した『ちはやふる』シリーズ完結編『ちはやふる -結び-』が、過去2作品を上回るオープニング興収をあげ好スタートを切った。劇場公開後の口コミや映画レビューも高評価が多く、今後も数字を伸ばしそうだが、こうしたヒットにはいくつかの要因が考えられる。


 『ちはやふる』が実写映画化されることが発表された際、多くの人気コミックの実写化と同じように、賛否両論が巻き起こったが、公開後は、原作ファンからも好意的な意見が数多く見られた。メガホンをとった小泉徳宏監督は、原作コミックに最大限の敬意を払いつつも「実写化」という言葉ではなく「映画化」というイメージを持って作品に取り組んだという。


参考:【インタビュー】広瀬すずが語る、“青春モノ”ではない作品の届け方


 「実写化」ではなく「映画化」という言葉。そこには、コミックをより忠実に写しだすというよりは、作品の持つさまざまな魅力のなかから、核となるものをより強調し、キャラクターにのせて描くという意味が込められている。小泉監督は、千年前の歌が、3年間という限られた時を輝かしいものにしてくれるという“時間”を軸に、キャラクターの青春を瑞々しく切り取っていった。


 こうして描き出された登場人物は、みな魅力的で、観客に「彼らの姿を追いたい」と思わせる存在となった。もちろん、広瀬すずや野村周平、新田真剣祐や上白石萌音ら主要キャストたちの『上の句』、『下の句』公開後の飛躍というのも大きな要因になっているのだろうが、それよりも、それぞれのキャラクターに感情移入できるエピソードがうまく盛り込まれているので、応援したくなるのだ。


 こう思える大きな要因は、作り手の作品に対する愛がスクリーンを通して伝わってくるからではないだろうか。もちろん、どんな作品でも製作者は愛を持って取り組んでいるのだろうが、『ちはやふる』の登場人物には、みな見せ場がある。愛に溢れているのだ。小泉監督は「映画のなかに登場する人物には、描かれる理由がある。その理由を作品に馴染ませて、カタルシスに持っていくことは意識している」と語っているが、特に『結び』では、その愛が増しているように感じられるほど、登場人物が光り輝く瞬間がある。


 そんな既存のメンバーのキャラクターをより深いものとしたのが、『結び』から登場した、賀来賢人演じる最強名人・周防久志や、瑞沢かるた部の新入部員である花野薫(優希美青)、筑波秋博(佐野勇斗)、そして映画オリジナルの我妻伊織(清原果耶)ら新キャラクターたちだ。


 彼らは、既存のメンバーたちに多くの“気づき”を与える役目を担う一方で、それぞれもしっかりとした見せ場があり、ただの引き立て役ではない。特に賀来が演じる周防は、独特のキャラクターであり、芝居のさじ加減によっては大きく作品の世界観を崩しかねない存在なのだが、偉大さと脆さ、重厚さと滑稽さという、相反する感情を見事なまでのバランスで表現している。


 小泉監督も「キャラクター付けには相当悩んでいるようでした」と現場での苦悩ぶりを語っていたが、舞台をはじめとする福田雄一監督とのタッグで、瞬発力系の演技の引き出しを増やしてきた賀来にとって、多面性を持つ周防という役柄は、非常にやりがいのある役だったのではないだろうか。実際、周防の動きによって、物語は大きなうねりをみせ、彼が作品を支配する瞬間もあった。


 こうしたキャラクターたちが、出たり引いたりしながら、120分の物語は、大きなクライマックスを迎える。キャラクターへの愛情いっぱいの脚本、そこに命を吹き込んだ若くていきがいい俳優たち、それをさらなる愛で包み込む監督……この絶妙なバランスが、奇跡的な完結編を生み出しているのだろう。


(磯部正和)