■Netflix作品は今年の『カンヌ』コンペ部門から排除
Netflix作品は「映画祭」にノミネートされるにふさわしいか否か。そんな議論に再び注目が集まっている。
『カンヌ国際映画祭』の総代表を務めるティエリー・フレモーは、The Hollywood Reporterによるインタビューで、5月8日に開幕する『第71回カンヌ国際映画祭』のコンペティション部門にNetflix作品を出品させないことを改めて発表。
Netflix製作の作品を巡っては、昨年の『第70回カンヌ国際映画祭』コンペティション部門に、ポン・ジュノ監督の『オクジャ』、ノア・バームバック監督の『マイヤーウィッツ家の人々』というNetflixオリジナルの2作品が出品され、フランスの映画界から反発の声が挙がっていた。
フランスの法律では、映画のストリーミングは劇場公開から36か月後に初めて認められるという規定があるが、Netflixの作品はそれよりもはるかに早くストリーミング配信されてしまう。地元映画界からの反発を受けて、映画祭側は2018年からコンペティション部門の出品作は全てフランスの劇場での上映を義務付ける、と規定の改定を発表していた。
ティエリー・フレモーは、今回のThe Hollywood Reporterのインタビューに対し、「去年この2作品(『オクジャ』『マイヤーウィッツ家の人々』)を選出した時、私は生意気にもこれらを劇場上映するようにNetflixを説得できると思っていたが、断られた」と明かし、「Netflixの人たちはレッドカーペットを愛してるし、ほかの作品と一緒に上映されたいと思ってる。でも一方で妥協しない彼らの独自のモデルが、私たちの方針と正反対だということも理解している」と話した。
『カンヌ国際映画祭』は今年からNetflix作品のコンペティション部門出品を禁じたため、パルムドールを争うことはできなくなってしまったが、ほかの部門での上映は認められている。
■スピルバーグも「オスカー候補にふさわしくない」
NetflixやAmazonなどの配信プラットフォームが会員数を増やし、映画やドラマなどの良質なコンテンツを次々に生み出している2018年、その存在感は賞レースにおいて無視できない。
今年の『第90回アカデミー賞』ではNetflixオリジナルの『マッドバウンド 哀しき友情』が助演女優賞、脚色賞など4部門にノミネート。同じくNetflix製作のドキュメンタリー『イカロス』が最優秀長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した。
スティーブン・スピルバーグは先日行なわれたITV Newsの取材に対して「(配信プラットフォームのおかげで)多くの作り手が資金に困ることがなくなってきているし、『サンダンス映画祭』で競わなくてもよくなった」と理解を示しながらも、「もしいい作品だったら『エミー賞』には値するがオスカーは違う」「1週間に満たないくらいの短い期間にいくつかの劇場で上映された作品が、『アカデミー賞』にノミネートされる資格があるとは思わない」と発言。『カンヌ』の人々同様に、劇場での上映を重視する姿勢を見せた。
また近年ドラマなどのテレビ番組が高い評価を得ていることを受けて、「テレビ番組はテレビ史上最高の時を迎えている。脚本も演出もパフォーマンスも良くなったし、より良いストーリーが語られている。テレビは本当に隆盛を極めている」と評価しつつ、現在の状況を「テレビの登場が人々を映画館から引き離した1950年代初頭と似ている」「ハリウッドはこの状況を知っている。僕らはテレビと激しい競争することには慣れている」と自信を示した。
■Netflix作品はテレビでも映画でもない「ハイブリッド」
『カンヌ国際映画祭』のティエリー・フレモーは先のインタビューで、AmazonやNetflixといった新しいプラットフォームがより大きな予算の映画を作ることを可能にしている、と認めつつも、彼らが作っているのはテレビ番組でも映画でもない「ハイブリッド」であるとし、「シリーズものの黄金期にあってもなお、映画は負けない」「映画の歴史とインターネットの歴史は、2つの別物なのだ」と主張した。
NetflixやAmazonの映像分野での躍進は、映画ファンにとっては選択肢が増えて喜ばしいことのように思えるが、従来の映画ビジネスにとっては大きな脅威にもなっているようだ。映画祭へのノミネートが妥当か否か、という論争に留まらず、配信オリジナル作品は果たして「映画」と呼べるのか?とフォーマットそのものにも疑問を投げかけている。家にいながらにして良質なコンテンツを手軽に楽しめる配信サービスへの需要はこの先もしばらく衰えることはないだろう。大物監督も次々と参入し始めている。SVOD(定額制動画配信)を巡る議論は今後も続きそうだ。