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BiSHモモコグミカンパニーの初著書を読む。大学生が興味本位でアイドルに

2018年03月29日 12:51  CINRA.NET

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モモコグミカンパニー『目を合わせるということ』表紙
3月7日に刊行された、モモコグミカンパニー(BiSH)の著書『目を合わせるということ』の表紙には、頭から花と葉っぱが生えたモモコグミカンパニー、裏表紙にはBiSHの5人とリンリンが手にした衣服のような「何か」、カバーを外すと表には両手で両目を覆ったモモコグミカンパニー、裏には葉っぱが刺さったスルメイカが、アニメ『キルラキル』のキャラクターデザインなどで知られるすしおによって描かれ、帯には「成長痛」「『モモコのこと嫌いだった』」「嘘のない言葉しか伝わらない」「BiSHはアイドル!?」「カラフル」といったトピックが並び、本を開くとモモコグミカンパニーの顔写真が掲載されており、キラキラとしたその瞳はこの本のタイトルを喚起させ、先ほどの目を隠したモモコグミカンパニーは、やがて表紙に描かれているような「頼もしい」モモコグミカンパニーになることを暗示してようでもあり、涙を隠しているのかもしれないし、「いないいないばあ」をしているところなのかもしれない。

■作詞数はメンバー最多。「言葉でなら伝わるかもしれない」
2015年に「BiSをもう一度始める」ために「新生クソアイドル」として世に放たれ、文字通り「クソ」が投げつけられるPVが新たな世界の始まりを予感させた“BiSH -星が瞬く夜に-”の中で「決定からの速さは異常だし」と歌われるように、その翌年には早くも「新生クソアイドル」の肩書を捨て「楽器を持たないパンクバンド」としてavexからメジャーデビューシングル『DEADMAN』をリリースし、その後、日比谷野外大音楽堂、幕張メッセ、昨年末の『ミュージックステーション』出演といった大舞台を経て、5月22日には既に完売となった横浜アリーナでの単独公演『BiSH“TO THE END”』を控えているBiSH。

BiSHのオリジナルメンバーであるモモコグミカンパニーは、これまでに“JAM”“Nothing.”“DA DANCE!!”“デパーチャーズ”“ぴらぴろ”などBiSHの楽曲の作詞をメンバーの誰よりも多く手掛け、「日頃から自分の考えや思ったことをうまく表現できない不器用なわたしだが、言葉でなら伝わるかもしれない」(本書5ページ)と語るように「言葉」の人という印象がある。そのことは、たとえば、サッカー上達のための日々の記録を「サッカーノート」に記していたという高校の女子サッカー部でのエピソードや、憧れの人だという作詞家・高橋久美子(ex.チャットモンチー)への想い、渡辺淳之介(WACK)の「作詞では、すごく独特のセンスを持っています」(同192ページ)、モモコグミカンパニー母の「本は子どもの頃からよく読んでました」(同197ページ)という証言からも窺える。

■「目を合わせるということは簡単に見えてすごく難しい」
この本には、彼女がBiSHに加入してから現在までの約3年間で見てきたことの記録が、言い換えるとこの本のタイトルが示すように「目を合わせるということ」を続けてきたことの証しが、各エピソードに添えられたスナップショットと共に、ときおり小学生時代や中学生時代の話に飛びつつ概ね時系列に沿って淡々とした、あるいは「等身大」の文体で綴られている。読者は、「個性の塊がぶつかり合って黒くなりかけていたわたしたちは、白によって鮮やかになっていった」(同69ページ)といった「美しい」フレーズに出会いながら舞台裏の出来事や、「飄々」と見えるこの本の著者の別の姿を垣間見ることもできる。
「目を合わせるということ」についてモモコグミカンパニーはこう語る。

・目を合わせるということは簡単に見えてすごく難しい。目を合わせるには自分が相手を見ていること、相手が自分を見ていること、その二つが同時に必要だからだ。(同3ページ)

・自分の弱みをさらけだすことでもあって、人に弱みを見せることはわたしにとってすごく怖いことだったからです。だから長い間、目をそらしながら生きてきました。(同205ページ)

「目を合わせるということ」は自分ひとりでは成しえず、ときに相手との衝突は避けられないし、相手への歩み寄りも必要である。その対象はメンバーであり、大人たちであり、ファンであり、そして「モモコグミカンパニー」との狭間で揺れ動く「わたし」である。だからこの本を読むということは、この本の著者であるモモコグミカンパニーと、読者である「わたし」や「あなた」が「目を合わせるということ」を試みることでもある。

■「アイドルになったからといって自動的に自分の人生もキラキラし始めるわけでもない」。
本書でかつての自分について「当たり障りなく生きてきた」「感情に流されない冷静な自分の方が賢いんだなんて思ってた」「飽き性」と語るモモコグミカンパニーにとって、「目を合わせるということ」が容易でないことは想像に難くないが、そんな彼女がメンバーの脱退や加入、メンバーとの衝突、幕張メッセと卒業論文といった様々な「試練」の際に生ずる「成長痛」から逃げずに「目を合わせるということ」を続けることができたのは、彼女が「ちょっとずつ“ヘン”」(同124ページ)な人たちが集まったBiSHのメンバーと出会ったからにほかならない。

・わたしの中で一つしかなかったモノクロの世界は一気に色鮮やかに変わった。大学に行って就職活動をするのが当たり前。そんな“普通”を変えてくれたのがBiSHだった。窮屈な檻の中から飛び出したような気持ちになった。
BiSHのメンバーに出会ってから、わたしの世界の常識は一つひとつ確実に壊されていった。(同172ページ)

・BiSHに入って人前に立つようになってからは、自分の弱みをさらけだすことは同じ弱みを持つ誰かを救うことでもあると気づきました。(同205ページ)

だからモモコグミカンパニーは苦しいときに彼女を助けてくれた「言葉」で、自身の「強み」でもある「言葉」で表現する。
そして、「お互いのダメな部分も初めて知ることができた。(中略)わたしたちはすべてをさらけ出すことで、特別な信頼関係が生まれ、グループとして大きく前進することができたのだ」(同129ページ)。

だからこの本はモモコグミカンパニーが見てきたBiSHの「成長」を記したものでもある。BiSHと共に歩んできたからこそ「目を合わせるということ」を続けることが可能であったことは、この本の随所で語られているが、「アイドルになったからといって自動的に自分の人生もキラキラし始めるわけでもない」(同134ページ)。同時に「人はどこにいても輝ける」とも綴る。「あなたもわたしも一人では生きていけない同じ人間」(同206ページ)だからだ。そして「わたしは一人でもこの世界で戦おうと思うよ」(同134ページ)と宣言する。アイナ・ジ・エンドに代わって急遽参加することになった『WACK合同オーディション2018』を経験した今、モモコグミカンパニーはこの本を書いたとき以上に頼もしくなっているのだろう。

最新シングル『PAiNT it BLACK』のアーティスト写真で黒い背景から薄っすらと浮かぶBiSHの面々は黒い衣装をまとい顔を黒く塗られている。Spikey Johnが手掛けたPVも話題となっている「PAiNT it BLACK」な彼女らは今、何色をしているのだろう。そして横浜アリーナ公演を終えた後、彼女らは何色になっているのだろうか。