2018年03月29日 10:32 弁護士ドットコム
2018年春の労使交渉で、パナソニックが家庭の事情を理由とした有給休暇を1時間単位で取得できる仕組みを4月から導入すると労使に回答したことが報じられている。
【関連記事:「田中の対応最悪」社員名指しの「お客様の声」、そのまま社内に貼りだし公開処刑】
労組は、パナソニックで有給休暇の一種となっている「ファミリーサポート休暇」を使いやすくするよう求めたという。親の介護や子どもの学校行事、育児、出産などを理由に使える制度で、これまでは半日単位での取得が条件。労組は、これを1時間単位で取れるようにしたい考えだった。
厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、時間あたりで年次有給休暇を取得できる制度がある企業割合は18.7%(2017年調査)にとどまる。取得率も49.4%(2016年)と低く、政府が目標とする「2020年までに70%」を達成できるかは不透明な状況だ。
時間単位の取得を認めれば、労働者はより有給休暇を柔軟に取りやすいとみられるが、時間単位で取得できる企業が大多数ではないのはなぜなのか。取得率が低迷する背景はーー。労働問題に詳しい河村健夫弁護士に聞いた。
ーー時間単位の取得はどのような使い方が考えられますか
「例えば、資格取得のため予備校などに通学しているけれど、毎週1回の講義に間に合うためには定時の17時退社では無理。16時10分には会社を出なければならないという方のことをイメージしてください。
こういったときに有給を取得する方もいるかと思いますが、有給は原則として1日単位で勤続6年半以上の方でも付与日数は年間20日ですから、有給を毎週使っていたらあっという間になくなってしまいます。
そんなときの強い味方が『時間単位の有給休暇』制度です。年間5日分までとの制限はありますが、1時間単位での有給取得が可能。上の例で1日の所定労働時間が8時間なら、5日分で40時間分使えます。毎週1時間ずつ有給を使えば、40回も「毎週1時間分、有給で早退」できます。これで勉強もバッチリですね」
ーー時間単位の取得はいつから認められていますか
「時間単位の有給は、低迷する有給取得率のアップを図り、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を図る観点から2010年に導入されました。便利な制度ではあるのですが、残念なことに導入は進みません」
ーーどのような原因が考えられますか
「(1)制度を導入するには改めて『労使協定』の締結が必要で、労働組合が機能しない企業などでは「労使協定」の締結が進まない
(2)経営者から見て、制度を導入すると勤怠管理が複雑になり、不規則な時間単位で有給を取る労働者が増加して『細切れ勤務』だらけとなり業務の能率を損なうと感じかねない
(3)1日単位での有給取得率が低迷する現状では、いくら時間単位の有給制度を導入しても有給取得に対する心理的ハードルは下がらないなどが考えられます」
ーー時間単位の導入は企業にとってプラスに働きませんか
「様々な業界で人手不足が顕在化している現在、時間単位の有給制度を導入することは『当社はワークライフバランスを重視する』との具体的アピールになりますから、企業側も積極的に導入を試みて欲しい制度です。
同時に、労働者も積極的に有給を取得して、有給を使うことが当たり前の職場環境を作ることです。幹(=1日単位の有給)が細いのに枝葉(時間単位の有給)を繁らせようとしても上手くいくはずがありません。有給をバリバリ使い、職場に戻ったら一層活き活きと働く。こういった環境こそが時間単位の有給が最もその効果を発揮できる職場だと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
河村 健夫(かわむら・たけお)弁護士
東京大学卒。弁護士経験17年。鉄建公団訴訟(JR採用差別事件)といった大型勝訴案件から個人の解雇案件まで労働事件を広く手がける。社会福祉士と共同で事務所を運営し「カウンセリングできる法律事務所」を目指す。大正大学講師(福祉法学)。
事務所名:むさん社会福祉法律事務所