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「製作委員会方式に並ぶ選択肢がもっとあっていい」ヤオヨロズ福原Pが展望するアニメビジネスの未来像

2018年03月28日 19:22  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

福原慶匡氏
今、アニメプロデューサーとしてアニメ業界の最前線を走っている人物をひとり挙げるとすれば、それは『けものフレンズ』『ラブ米』を手掛けたアニメ制作スタジオ・ヤオヨロズの福原慶匡氏だろう。
その福原プロデューサーが『アニメプロデューサーになろう! アニメ「製作(ビジネス)」の仕組み』(星海社新書)と題する本を上梓。アニメビジネスの構造からアニメプロデューサーに必要な知識・素養を自身の経験から解説した一冊だ。
だが、そもそも福原氏はなぜアニメプロデューサーという仕事に注目するのか? その必要性とは? 昨今話題となっている製作委員会方式の是非やアニメーターの労働環境問題も絡めて、アニメビジネスにおける疑問点や今後の未来像を訊いた。

星海社新書『アニメプロデューサーになろう! アニメ「製作(ビジネス)」の仕組み』
2018年3月23日発売
http://www.seikaisha.co.jp/information/2018/03/13-post-animep.html
[取材・構成=いしじまえいわ]

■全ての責任と決裁権を持つのがプロデューサー

――今日はアニメプロデューサーとアニメビジネスについて詳しくお話を伺いたいと思いますが、前提として「アニメプロデューサー」とはひと言で表すならどんな仕事だとお考えですか?

福原慶匡プロデューサー(以下、福原P)
アニメを作る上で「作品として作る」「商品として作る」という2つの側面があります。前者を「制作」、後者を「製作」ともいいますが、その両方が分かる人物がアニメプロデューサーと名乗るべき、と僕は考えています。

――べき、ということは、現状そうでないケースが多いということでしょうか。

福原P
そうですね。大まかに言うと、クリエイティブの現場とビジネスの現場にプロデューサーがそれぞれいてそれぞれのことをやっている、という感じです。
ただ、現在はデジタル化が進んでメディアミックスの幅が広がっているので、その両方に精通し全体を統括できるプロデューサーがより重要になってきています。仮に今、製作委員会方式の作品に関わる全てを統括するプロデューサーをひとり立てるとすれば、それは製作委員会の幹事にあたる人物になります。その人はビジネスについてはもちろん専門家ですが、さらにクリエイティブにもどれだけ造詣があるか、ということにかかってきます。

――理想的にはその立場の人がクリエイティブ側もきちんと見るべき、ということでしょうか。

福原P
本来そうあるべきだと思います。実際、ハリウッドのプロデューサーは脚本も企画も自分で決めますし、お金を集めるのも自分でやります。
ひとつ大きく違うのは、製作委員会方式というのは海外にはあまりなくワンオーナー制、つまりプロデューサーにクリエイティブとビジネス両方の責任と決定権があるんです。だから製作委員会形式のようにメンバー同士で利害が対立したり意見がまとまらなかったりということがそもそも存在しないんです。そしてそれだけ大きな責任を負うので海外ではプロデューサーとして一発当てた時のインパクトが非常にデカイですし、憧れられています。

――大きな責任がある一方、社会的地位も高く儲かるのが海外でのプロデューサーなんですね。

福原P
そうです。そのためには相応に頭が良くないと務まりません。だから海外のプロデューサーには弁護士出身やMBA持ちといった人が多いんです。それぞれの専門の立場で作品に携わった時に「こんなに儲かるんだ!」というのを目の当たりにして、プロデューサーになるんです。
もちろん、ハリウッドの形だけが正解だとは思っていません。日本では監督などクリエイターが脚光を浴びますし、プロデューサーはその縁の下の力持ち、でいいと思います。でも頭の良い優秀なプロデューサーが必要、というのは日本のアニメ業界も同じだと思います。

■ファンの熱意に応えることがビジネスの成功につながる

――これまで作品を作り手側のクリエイティブサイドとビジネスサイドという構図のお話でした。視点を変えて、作り手側と受け手側という構図で考えた場合でも、やはりプロデューサーは重要な存在なんでしょうか。

福原P
そうですね。ライブと同じで、今のアニメシーンでは観客やファンという表現も古いと思えるくらい、ムーブメントは作り手と受け手が一緒になって作り上げるものになっています。ファンはSNSなどで作品やスタッフに関する情報もどんどん集めていきますから、作り手がどれだけ作品を愛しているかも深くまで見ています。
今ちょうど日中案件のビジネスに携わっているのですが、アンケートやリサーチなどでお客さんの反応を確認してみると、日本のファンは非常に深いところまで見ています。いわゆる“考察班”と言われる方など見巧者も多く、物語の読み方がスタッフよりも深いお客さんもたくさんいます。日本のファンのコンテクストを深く読む作品愛の深さは誇るべきものです。
だからこそ、送り手側の情報発信や対応能力も高いものが必要になってきています。クリエイティブの価値を理解し、顔も名前も出してファンに対して誠実な対応をし、信頼を得られる存在でないといけません。それもまた今のプロデューサーに求められているものの一つだと思います。
そして、それができるか否かが結局ビジネスの勝敗も分けるので、今ビジネスとクリエイティブが分断されているのはナンセンスな状況です。

■製作委員会方式に並ぶ選択肢がもっとあっていい

福原P
製作委員会方式の難しいところの一つは、クリエイティブサイドとビジネスサイドの利害が対立しやすい構造になっている点です。製作委員会側が制作会社にアニメ作りを発注するわけですが、レストランにたとえるならキッチンとホールが別会社になっているようなもので、難しくて当たり前です。
昨年、ロサンゼルスや中国に行っていろんな人と話してきましたが、製作委員会制度は日本しかなく、他の国では基本ワンオーナーで自分の会社で全ての権限を一元化しています。日本でいうところの製作と制作が分かれていませんし、分かれていたとしても系列会社です。そういう面では中国の方がよほど資本主義的で合理的です。

――それでも日本では製作委員会方式が主流なのには、どういう理由があるのでしょうか?

福原P
理由はいろいろあると思いますが、ヒットしてもしなくても儲かる人がいるから、というのもその一つではないでしょうか。

――それはたとえば誰ですか?

福原P
委員会収益からの配当と窓口手数料というのが出資者の利益なのですが、権利を獲得している出資者は窓口手数料で収益を得る事が可能です、時代によりますが収益性の高い窓口を持っている会社等は委員会出資会社の中でその会社だけ黒字で他の会社は赤字というような不均衡も発生します。
また委員会を組成した会社は幹事手数料というものが得られますので、委員会全体の売上からトップオフで収益を得ることができます、もちろん幹事を務める会社は多くの出資をするという点でリスクはあります。
また、原作を提供する会社であれば、ヒットしなかった場合でも原作の売上が収入になります。出資をしないで原作印税のみを取るケースもあるのでこの場合は原作側はリスク無く収益を得る事ができます。
同様にSNSゲーム等もそもそも広告宣伝費に数億円かけているので、アニメ自体をCMと考えればそこまで高くなかったりします。
またアニメ制作会社も出資をしなければ当然制作手数料をきちんと残せば経営は黒字になります。
このように作る事で経済をまわしている会社が多数存在しています。

――なるほど。

福原P
とはいえ、僕は製作委員会方式がなくなるべきだとは思っていません。1990年代前半頃から製作委員会方式でTVアニメが作られるようになって30年近く続いてきたのは、やはり良いシステムだからです。
ただ、当時は今より作品数が少なかったですし、パッケージも売れやすく、それによって制作費が出せていた時代でした。今は制作費もコストカットされていますし、アニメの本数も増えているのでアニメーターを集めるのもひと苦労です。制作そのものがすごく大変になり、製作委員会方式のメリットが以前より減ってきています。それでもなお、このやり方がマッチする作品はありますし、実際僕も委員会を組むことが多いです。
その中で学んだ僕の考えは、作品の特性に応じていろんなストラクチャーから形式を選べる自由度があると良いな、ということです。選択肢を持てず、本当なら他のやり方をした方が最大化できるのに製作委員会方式でしかアニメを作れない、制作スタジオはそれに従うしかない、ということが一番の問題だと思うのです。


――製作委員会方式の是非と並んでアニメーターの給与問題も昨今よく取り上げられますが、それについてはいかがお考えでしょうか。

福原P
日本では原作者は法的にも手厚く守られていますが、アニメ制作会社は自社発のオリジナル作品を作らない限り権利を持っていないのでいくら作品が売れても作り手には返ってきません。
仮にアニメーターに月給30万円等、アニメに関わるスタッフに適正な給与や休日を与えると1話あたり4000万円ぐらいかかることになります。が、実際の制作費は1500万円くらいです。ということは、そもそもそのしわ寄せが制作会社にかかる構造になっているということです。これでは儲かるはずがありませんし、当然クリエイターに還元することもできません。
僕は元々アニメ業界にいたわけではありませんが、ある時本気でアニメをやろうと思って音楽関連の仕事も辞めてアニメに軸足を据えたんです。その結果作品としては話題にはなりましたが、その割に全然儲からないんです。そこで「やはり権利交渉も全てスタジオの方でやらないといけない」と思い至りました。
僕は基本的にクリエイターにお金を払ったらそのぶん良いことがあると思っています。彼らに金銭的余裕ができればそのぶん時間的余裕もできますし、それをより良い作品作りに活かしてくれます。理想論かもしれませんが、そういう環境を作ることもまたプロデューサーの務めだと思います。
理想ということだったら、本当なら委員会側から「監督印税出さなきゃ」と言ってほしいんですけどね。

■アニメビジネスの新たな選択肢「パートナーシップ方式」とは?

――ではスタジオ側が権利を持ち、クリエイターに還元するという理想を実現するにあたって、どういったビジネススキームをお考えなのでしょうか?

福原P
最終的には海外と同じようなワンオーナー制が理想ですが、一足飛びに移行するのは難しいと思います。
実は『ラブ米』では権利を自社のみで運用し何もかも1社でやったのですがとても大変でした。特に宣伝は製作委員会方式であれば関係各社が各々どんどんやるので全体としては大きなものになります。1社のパワーは弱いと実感しました。ヤオヨロズのような中小スタジオがいきなり1社だけで権利を運用しても作品展開を最大化できないという良い例です。
ですので、まずは製作委員会方式とワンオーナー制の間くらいの形、パートナーシップ方式という形態を経るのがいいんじゃないかと考えています。

――それはどういったスキームなのでしょうか?

福原P
スタジオの方でクリエイティブとビジネスの両方を握り、出資では無く作品を二次利用したい会社にライセンスアウト(権利譲渡)する、またはMG(ミニマムギャランティ)をいただく、というのがパートナーシップ方式です。
海外の例で考えれば自然なんですが、仮に「『アベンジャーズ』のフィギュアを作って売りたい」と思った時に、普通ディズニー(権利者)に著作権使用料を払いますよね。ディズニーや作品に出資、とはならないと思います。それと同じです。
音楽なら音楽、ゲームならゲームの会社が作品パートナーとして使用料を払って製品を作り、それぞれ宣伝して製品を売る。売り切っていない権利がスタジオに残る部分以外は、組織的には製作委員会とあまり変わらないものになります。
一方、エンタメにはヒットするかしないか分からないというリスキーな部分があるので、それを補うための方法がプリセールです。現在だとAmazonやNetflixなどの海外配信サービスであれば1話分の制作費を全て払ってくれたりするので、もしそこで契約できれば最低限赤字にはなりません。
ただ、そのためには原作が売れているだとか手掛けているクリエイターが有名だとか、どこか強い部分が必要です。ですので、製作委員会方式で実力と実績が付いたスタジオがパートナーシップ方式でオリジナル企画にチャレンジし、最終的にはワンオーナーにスライド、という過程を経るのが一番かなと今は考えています。スタジオの成長のためにこういった取り組みにトライしていくのもまた、アニメプロデューサーの責務だと思います。

――すでにヤオヨロズから新作『ケムリクサ』が発表されていますが、この作品もパートナーシップ方式を採用されるのでしょうか?

福原P
そのプロトタイプになるように準備を進めています。

■人と人をつなげ、作品を生み出すのがアニメプロデューサー

――福原さんは歌手のマネージャーや芸能プロダクションの代表も経験されております。またお話を伺っているとアニメビジネス特有の困難や苦労も感じますが、それでも「アニメ」に注力されるのは何故なのでしょうか。

福原P
日本が少子化など様々な問題を抱え、車や電気製品などのハード産業が縮小していく一方、和食といった文化も含めたソフトの方ではまだまだできることがあります。そんな中、日本のエンターテインメントの分野で輸出ができるのはアニメぐらいしかありません。今日本人でエンタメをやるなら一番頑張るべきなのがアニメ。それが理由です。
ただ、今の世界的なアニメ人気は、先輩たちが作った素晴らしい作品が海賊版などの不本意な形で発信された結果であり、今の僕らの頑張りによる評価ではありません。先輩たちのおかげで世界的に人気があるうちに、次の成長のために必要なことをまとめないといけません。僕はそれについて学ぶために大学院に進学し、今回の本を書きました。4月からは博士課程に進み、これを研究として続けるつもりです。
今、アニメ産業でやるべきことは新たなビジネスの枠組みを生み出すことですが、そのためには優秀なアニメプロデューサーの力が必要です。クリエイターはすでにさんざん頑張って数多の素晴らしい作品を生み出しているので、やはり今頑張るべきはプロデューサーなんです。

――では、アニメプロデューサーに向いているのはどんな人なんでしょうか? アニメプロデューサーという仕事の醍醐味を、最後に教えてください。

福原P
アニメプロデューサーは、自分自身で絵を描いたりしなくてもアニメという今日本で一番ホットなクリエイティブに関われる仕事です。そして、アニメ作品の最初から最後までをひとりだけ全部知っている人でもあります。
アニメ制作ではいくつものセクションをまたぐので、関わる全員が一緒に働くことはありません。だけど僕だけは、飲み会の打ち上げの席で、アニメーター、撮影スタッフ、声優、音響……全員の名前を言えます。それを全部つないだな、というのが嬉しいですね。人と人をつなぐ仕事だと思います。

――それに魅力を感じる方は、まずは福原さんの本を手に取ってもらいたいですね。本日はありがとうございました。