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日本で暗黒時代が続いたドリームワークス 初登場1位『ボス・ベイビー』で大復活?

2018年03月28日 17:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 期待を上回る結果と言っていいだろう。春分の日の3月21日(水・祝)に公開されたドリームワークス・アニメーション作品『ボス・ベイビー』が好スタートをきった。週末の興行でも、春休み不動の2強と目されていた『映画ドラえもん のび太の宝島』と『リメンバー・ミー』を振り切って、見事に動員ランキング初登場1位に。『ボス・ベイビー』の土日2日間の動員は28万7000人。公開2週目の『リメンバー・ミー』が28万3000人、公開4週目の『のび太の宝島』が27万2000人だったので、まさに薄氷の勝利ではあったが、それでも初日から5日間の累計動員67万人、累計興収7億9600万円という数字はなかなかのもの。


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 『ボス・ベイビー』が全米で公開されたのは2017年3月31日。その後、各国でも同年の4月までには順次公開されていて、世界中で日本だけがそこから約1年遅れの2018年3月という異例のタイミングでの公開となった。その背景には、ドリームワークス・アニメーションを巡る日本における配給権の紆余曲折がある。


 ドリームワークスといえば、1994年にスティーヴン・スピルバーグ、音楽業界の大物デヴィッド・ゲフィン、ディズニーを退社したばかりのジェフリー・カッツェンバーグという、当時のエンターテインメント界における文字通りの「ドリーム」チームが結成した映画会社。もっとも、設立から10年が経った2004年の時点でそのアニメーション部門であるドリームワークス・アニメーションは既に分社化していて、その後の度重なる買収劇などを経て資本関係は複雑に絡み合っているのだが、現在、実写作品を製作しているドリームワークス・ピクチャーズとアニメーション作品を製作しているドリームワークス・アニメーションは別会社となっている。


 日本では2004年の『シャーク・テイル』以降、角川グループ(当時)のアスミック・エース エンタテインメントがドリームワークス・アニメーション作品を配給していたが、本社をバイアコムが買収したことによって『マダガスカル2』(2008年、日本公開は2009年)以降の作品はパラマウント映画(当時)が配給するようになった。しかし、それも2012年の『マダガスカル3』まで。日本での配給権はその後、20世紀フォックスに引き継がれた。


 ところが、20世紀フォックスは『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』(2012年)、『クルードさんちのはじめての冒険』(2013年)、『ターボ』(2013年)、『天才犬ピーボ博士のタイムトラベル』(2014年)、『ホーム 宇宙人ブーヴのゆかいな大冒険』(2014年)、『トロールズ』(2014年)をいずれも日本では劇場未公開のままDVDスルーにするという判断を下した。パラマウント映画配給期に日本公開された前作の熱心なファンからの要望で、かろうじて『ヒックとドラゴン2』は本国公開から9か月後の2015年3月に全国公開される運びとなったが、同年の『ペンギンズ FROM マダガスカル ザ・ムービー』は一部シネコンでの限定上映にとどまり、2016年の『カンフー・パンダ3』を日本で初公開したのは当時日本でサービスを始めたばかりのNetflix。世界的にヒット連発という状況ではなかったこの時期のドリームワークス・アニメーション作品だったが、日本では20世紀フォックス期の約6年間、暗黒時代が続いたことになる。


 2016年4月にコムキャスト傘下のNBCユニバーサルによって買収されて、ユニバーサル・グループの一員となったドリームワークス・アニメーションだが、実は日本以外の国では今回の『ボス・ベイビー』は20世紀フォックスが配給している。したがって、これまで通り日本では劇場未公開になることが懸念されたが、それを救済したのが、日本でユニバーサル作品を配給している東宝東和。世界的にドリームワークス・アニメーション作品をユニバーサルが配給するのは来年の2019年からとなるが、それに先んじて特例処置を講じた。今回、日本公開が1年遅れた裏にはそのような事情があったのだ。


 2004年にドリームワークス・アニメーションが分社化されて以降も、同社を指揮してきたドリームワークスの創始者の一人、ジェフリー・カッツェンバーグ。2016年にNBCユニバーサルに売却した際にCEOを退いたカッツェンバーグだが、ドリームワークス・アニメーション作品の特徴に関して、かつてこんな言葉を残している。「ディズニーは子供と大人の中にある子供心に向けて映画を作るが、ドリームワークスは大人と子供の中にある大人心に向けて映画を作る」。「子供(赤ちゃん)の中にある大人心」を主題にした今回の『ボス・ベイビー』は、まさにドリームワークスの精神をそのまま体現した作品と言えるだろう。(宇野維正)