3月22~24日にポルトガル領アゾレス諸島を舞台に幕を明けた2018年のERCヨーロッパ・ラリー選手権。総勢77台、R5規定車両も盛況35台のエントリーを集めるなか、ロシアのアレクセイ・ルキヤナク(フォード・フィエスタR5)が悲願のタイトル獲得に向け、幸先良く開幕勝利を飾った。
半世紀以上の歴史を誇る開幕戦“アゾレス・エアライン・ラリー”は、初日デイ1に3SS、23.17kmの競技区間が設けられ、実質デイ2となる“レグ1パート2”に6SS、75.56kmのステージ。そして最終日土曜のデイ2に6SS、107.57kmと、2日間開催が通例のERCとしては変則的となる総計207.30kmのスペシャルステージで構成された。
昨季の開幕早々に、テスト中の大クラッシュから多重骨折の大怪我を負い、シーズン中盤にはまだ完治しない右足にボルトを埋め込んだまま強行出場を果たしていたルキヤナクは、ラリー初日からその鬱憤を晴らすかのようなスピードを披露。
怪我から完治したことをアピールするかのようにロシアン・パフォーマンス・モータースポーツのフィエスタR5に鞭を入れると、初日最長のSS2ではオーバースピードでジャンプに突入し、コースをオーバーシュートするミスを犯しながらも気合のトップタイムをマーク。そのまま総合首位で初日を終えた。
そのルキヤナクに追随したのは、国内戦含め10度のアゾレス勝利を記録するリカルド・モーラ(シュコダ・ファビアR5)と、ERCジュニアU28登録で戦うマーティン・コチ(シュコダ・ファビアR5)のふたりで、シュコダ・スロバキアの支援を受けるコチは、SS1こそコーションマークの指示に従いタイヤ温存でペースを抑えるも、続くロングステージで3番手タイムをマーク。翌日に向けルキヤナク、モーラとともに路面サーフェスがクリーンになる、後半の出走順を手にした。
一方、ERC同イベント3勝を記録する地元の英雄で、昨季ランキング2位のブルーノ・マガラエス(シュコダ・ファビアR5)は、セッティングに苦しみ4番手。その後輩であり同じくポルトガル出身のベルナルド・ソウザ(シトロエンDS3 R5)が1.4秒遅れで5番手。
その背後には、わずか0.4秒差に今季から初のR5カーでERCジュニアU28エントリーを果たしたクリス・イングラム(シュコダ・ファビアR5)がつけ、SS2ではリヤバンパーを立木にヒットしてテールライトごと失いながらも4番手タイムをマークするなど、印象的な初日デビューとなった。
明けたデイ2となる“レグ1パート2”は、このラリーを象徴するセテ・シダースの火山帯連峰の峰をいく美しいステージでドラマが多発。
午前には地元マガラエスのタイヤがパンクに見舞われ大幅にタイムを失うと、これで楽な展開を手にしたルキヤナクが午後の同ステージで牛の大群に行く手を阻まれコース上でストップ。さらにミゲル・コレイラ(ルノー・クリオR3)がギヤボックストラブルでコース上を占拠すると、再開後にはトーマス・カスペルチェク(フォード・フィエスタR5)は派手なロールオーバーでコース外に転落するアクシデントも発生。そんな波乱をくぐり抜けたルキヤナクは、この日1日でリードを21.8秒にまで拡大することに成功し、盤石の状態で最終日を迎えることとなった。
最終レグ2は、ルキヤナクがブレーキキャリパーからのオイルリークという一歩間違えばすべてを失いかねないトラブルに見舞われつつも、午前のふたつのロングステージで驚異的スパートを披露。2番手モーラとの差を37.8秒にまで拡大すると、それを追うモーラはリミットをわずかに超え、バンクにヒットしスピン。
3番手でスタートしたマガラエスにもリヤデフのトラブルが発生し、サンミゲル最大の都市ポンタ・デルガダに設定されたミッドデイ・サービスに帰還する頃には、首位のふたりに対し30秒以上のタイムを失う結果となった。
午後のループでは安全策をとり、わずかにペースを落としたルキヤナクだが、それでも1分近い大量リードを築くことに成功し、最終SSのフィニッシュ地点からわずか数百メートルという地点では持ち前のショーマン・シップを発揮してドーナツターンも披露。
これで30秒ほどのロスを喫したものの、2番手モーラに16.4秒のリードを維持してフィニッシュ。見事に2018年開幕戦を勝利で飾った。
「最後にドーナツターンでお祝いできて本当にうれしかった。怪我をした間もサポートしてくれたチームやスポンサーのおかげで、こうして戻ってくることができた。僕らはこの素晴らしい結果を得るために全力で働いたんだ」と、喜びを語ったルキヤナク。
2位にモーラ、3位にマガラエスが続き、R5初戦で早くもスピードと才能を見せつけたイングラムが総合4位に入り、ジュニアU28部門を制覇。同じくR5でエントリーしたタマラ・モリナーロ(シュコダ・ファビアR5)が総合14位ながら、ERCレディス・トロフィー部門で勝利を挙げている。