ーパーGT GT500クラスに参戦するLEXUS TEAM WedsSport BANDOHのエグゼクティブアドバイザーに就任した織戸学 3月19日、スーパーGT GT500クラスに参戦するLEXUS TEAM WedsSport BANDOHは、2017年までGT300クラスに参戦していた織戸学がチームのエグゼクティブアドバイザーに就任すると発表した。24~25日の2日間、富士スピードウェイで行われたスーパーGT公式テストは、織戸エグゼクティブアドバイザーの初仕事となったが、どんな役割を担っているのだろうか。織戸、そして坂東正敬監督兼チーム代表に聞いた。
■マサ監督からの電話
ウェッズスポーツ、ヨコハマ、そしてカーナンバー19のロゴをつけた、テッドマンのウェアを身にまとった織戸学は、予想していたがやはりなんの違和感もない。古巣であるLEXUS TEAM WedsSport BANDOHのエグゼクティブアドバイザーに就任し、3月24~25日の富士公式テストで、何度も「楽しい」という言葉を口にした。
2017年までGT300クラスで戦っていた織戸は、もともとレーシングドライバーを志すにあたって、マサ監督の父であり、現GTA代表の坂東正明代表率いる坂東商会に社員として入った。マサ監督とはその頃からの付き合いであり、2009年にはともにGT300のチャンピオンも獲得。しばしば酒席もともにし、エピソードは数知れない仲だ。
そんな織戸は、今オフにシートを失った後、坂東正敬監督──この文中ではあえて『マサ監督』と表記させてもらおう──に「ドライバーとして参戦しないかもしれない」と電話をかけたという。その連絡を受けた後、しばらくしてマサ監督は折り返し織戸に電話をかける。エグゼクティブアドバイザーという仕事をやってほしいと。
「最終的に乗れないという連絡が来たのは2月に入ってからかな。ただ、毎年JLOCは公式テストが近くならないとシートが決まらないから、いつもの流れだと思っていた。『無かったら無かったで仕方ない』と思っていたくらい」と織戸は当時を振り返ってくれた。
「マサに連絡をしたら、しばらくして向こうから連絡が来た。正直、嬉しかったよね。たぶんマサの環境、そして僕がドライバーとして活動を止めたタイミングが、良い意味でうまく合致したんだと思う。2007年にGT500のシートがなくなった時も良いタイミングで、マサがチームをやることになったときに声をかけてもらって、(レクサス)IS350をやることになったから」
■監督が望む“エグゼクティブアドバイザー”の役割
“エグゼクティブアドバイザー”という肩書きは他チームでも見られるが、マサ監督が織戸に求める仕事はどんなものなのだろうか。率直な疑問をマサ監督にぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。
「僕はもともと、レーシングドライバーじゃないんですよね」とかつてはサッカーに熱中していたマサ監督は語る。
「他チームの監督は、星野一義さんも脇阪寿一さんも、レーシングドライバー出身なんですよね。僕にはもちろんエンジニアもいて、監督の仕事を飯田章さんや織戸さんからいろいろ教わってやってきた。でもスーパーGTのレベルが高くなるにつれ、ドライバーが欲しい情報が、僕の気付かないところでもっとあるはずだと思っているんです」
「予算がなかったからか、僕は監督もオーナーも、他のさまざまな業務も全部やってきた。僕の目標はGT500で勝つことで、それは達成した。次にチャンピオンという目標があるんですが、それに向けて強いチームにしないといけないと考えたとき、足りないところを補おうと思ったら、それを明確化しなければいけないと思ったんです」
「今のGT500はGT300との兼ね合いも大きいので、ドライバー目線で見られるところがないと困るな……と思った。その部分と、ずっとヨコハマタイヤを使っていて、その進化を知っている人が必要だと思ったんです。ヨコハマ内で人員が変わったときに、間違った方向に行っていないかを見極める人が必要だった」
ドライバー出身で、ヨコハマタイヤのことを良く知っている男。織戸からの電話を受けたマサ監督は、チームをさらに強化するために、古巣を良く知り、条件にピッタリ合う織戸を“エグゼクティブアドバイザー”としてチームに招き入れることを決めたというわけだ。
「ずっとヨコハマを履いている“ミスターアドバン”がチームに必要なんだと考えたんです。全体を見たなかで、僕のチームの方向性がブレていないかの確認をしてもらおうと。会社で言ったら監査役みたいなポジションで見てもらいたいですね」
■「ドライバーよりも楽しいかも」。ヨコハマとドライバーの繋ぎ役に
こうしてエグゼクティブアドバイザーに就任した織戸は、富士での公式テスト初日こそ「ちょっと戸惑いがあった」というが、マサ監督からのリクエストを受け行動を開始した。無線をつけコースサイドに行き、GT500の走りを観察。走行が終わったらピットに戻り、ドライバーのコメントを聞き、そのときに履いたタイヤに関するコメントを、まるでエンジニアのようにノートに書き記していった。
「2日目はだいぶ慣れてきて、すごく楽しい。レースになってみたら分からないけど、ドライバーよりも楽しいかもしれない(笑)」と織戸は語ってくれた。
「しばらくGT500は意識していなかったけど、無線を聞いて、コースに行って見たり、ドライバーのコメントを聞いていたりすると、だんだん走りとリンクしてくる。他のGT500の動きも外から分かるようになってきたし、何をやっているかもだいたい分かってきた。2日目で流れはだいぶ理解した」と織戸は言う。
また、非常に興味深いのはマサ監督の希望にもあったタイヤ作りの面。「タイヤの構造やコンパウンドもたくさんあるけれど、今までドライバーとしてやってきた流れから理解できてきている。今やっているタイヤの方向性と、どういうタイヤにしたいかというタイヤ作りも、なんとなく理解できた」というのは、さすが“ミスターアドバン”だ。
「僕としては、タイヤ屋さんの目で見たいのね。タイヤ作りの勉強をしたい。ドライバーの言っているコメントをヨコハマにドライバー目線でうまく伝えられて、タイヤ屋さんが言っていることをドライバーに伝えられるポジションになることができれば」
そう語る織戸は、スープラや自身が手がける“チーター”を走らせているときのような、子どものように輝く目をしていた。
■監督を押し上げながら、ドライバーを気持ち良くする環境を
こうしてテストをこなしていった織戸エグゼクティブアドバイザー加入後のLEXUS TEAM WedsSport BANDOHだが、富士ではヨコハマのパフォーマンスが高かったこともあり、好タイムを連発。チームの雰囲気も非常に良好なものを感じさせている。
国本雄資と山下健太というふたりのドライバーについても、「今年は国本がリーダーになることで、より国本の良さがピックできていると思う」と織戸の評価は高い。
「それにヤマケン(山下)がいいね。すごいポテンシャルを秘めていると思う。変なこだわりがないから、国本といい関係ができている。兄弟みたいだよ。オレがオレが……って感じはないけど、数字にはすごくこだわっているからね。見ていて本当に面白いよ」
「ふたりとも雰囲気もすごく良い感じ。彼らは岡山、富士はけっこう狙っていくつもりでいるよ」
チームの他のメンバーも旧知の仲で、織戸はすんなりチームに溶けこんでいる。まずは富士公式テストでは、“織戸効果”が出ているのは間違いなさそうだった。
「いい感じでスタートが切れたよね。マサのことも良く知っているし、ずっとGT500でやってきたことも話を聞いてる。とにかくマサの下で、マサを押し上げながら、ドライバーを気持ち良くする環境を作ることだね。マサはそれが得意だからやってきたけど、それをより良くする。表立って数字になって出てきたらいいよね」と織戸。
ただマサ監督にとっては、織戸に期待する部分もありながら、ちょっぴり残念な部分もあるようだ。マサ監督は「いま、新田(守男)さんがスーパーGTではいちばんキャリアが長くて、たしか次が織戸さんのはずなんです」という。
「前に話していたときに、織戸さんは『200戦は乗りたい』って言っていたんです。今回はちょっと急な話でしたが、まだまだ織戸さんにはドライバーとして乗って欲しい部分もあります。スーパーGTに携わり続けてないと、そういう縁もなくなっちゃいますから、そこも叶えてあげたいんですよね……」
とは言え、今季LEXUS TEAM WedsSport BANDOHに間違いなく波及するであろうエグゼクティブアドバイザーとしての“織戸効果”。長年の先輩をドライバーではない役割で迎え入れたマサ監督にとっては、嬉しい悩みのひとつになるのかもしれない。