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『高校生RAP選手権』が映し出す、国内ラップシーンの変化 G-HOPEや$ph1Nを例に考える

2018年03月27日 14:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『BSスカパー! BAZOOKA!!!第13回高校生RAP選手権 in TOKYO』が3月17日、豊洲PITにて開催された。


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 “フリースタイルラップの甲子園”と謳われる同大会は、自身の置かれた境遇や悩み、大会に懸ける想いなどを、等身大の言葉で表現する若手ラッパーの姿が、様々な年代に人気を博している。神奈川県川崎市を拠点に活動するT-PablowとYZERR(BAD HOP)や、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)のレギュラー出演者である裂固らも過去の優勝者であり、彼らのほかにも数多くのスターMCを輩出している『高校生RAP選手権』。今回で3度目の出場となるG-HOPEが優勝した今大会では、国内外問わず、HIPHOPの文化的興隆が目覚ましい2018年らしさ溢れるラップを楽しむことができた。


 本稿ではまず、第2ラウンドより「はまぞう v.s. G-HOPE戦」の模様を紹介したい。この試合は、お互いが前回大会の出場経験による知名度の高さや、巧みな表現と言い回しによる大きな盛り上がりを見せた。


<G-HOPE>


 俺なら中二病 俺も主人公 手札眺めてる遊戯王 1が並んでた通知表 でもこいつでかませば急に5 ゾーン(=ZORN)に入ったぜ


 こいつのラップと掛けまして草野球のキャッチャーと解く その心はズバリ、どちらも“みっともない(=ミットもない)”でしょう


<はまぞう>


 勝ちは無し こういうアンサーには価値は無し 当たり前な話 韻が一番理解されやすいから俺も使いだしていくだけ


 G-HOPEが勝利し、準決勝に駒を進めたこの試合について、審査員を務めたR-指定は、「お互いがお互いのフィールドに立った試合。“上手いことを言うはまぞう”のフィールドにG-HOPEが立ち、“韻を踏むG-HOPE”のフィールドにはまぞうが乗り、互いの得意技で(相手を)倒そうとしていたが、G-HOPEのやり方が少し上手だった」と解説した。


 G-HOPEはここで、<俺なら中二病~>というZORN「Backbone feat. 般若, NORIKIYO」のラインをインサートし、最後には<ゾーン(=ZORN)に入ったぜ>と、ダブルミーニングを含んだオチを付けていた。その後も、<みっともない>という言葉に“キャッチャーミット”の意味を含ませるなど、はまぞうの得意とする“掛詞”を操ることで、次の試合へと駒を進めた。


 第11回大会開催時の『BAZOOKA!!!』(BSスカパー!)内にて、オーディション審査員のMC正社員が「フリースタイルができるという時代を生きている子達だから、(ラップが)上手いのは当然という感じになっている」と語っていたように、近年の『高校生RAP選手権』出場者は、ラップのスキルに加え、別の要素で他出場者との差別化を求められている背景があるのだろう。


 その傾向は、出場者の操る“フロウ”の変化にも表れている。決勝バトル後にLicaxxxが「日本語ラップのバトルでは、“日本語ラップバトルっぽさ”をいつも感じるものの、今回はUSラップの(国内普及による)影響などで、皆のスタイルがバラバラだったのが面白かった」と振り返ったように、今大会ではトラップ流行後の滑らかなフロウが用いられている場面を確認できた。その一例として、第1ラウンドより「$ph1N vs LITO戦」における1ラインを紹介したい。


<$ph1N>


 爽やかだけどBoujee “さわやか”あるの富士 俺はレペゼンしてるMt.Fuji まるでMigosみたく“My b**ch is bad and boujee” みたいな感じ お前、俺とバトル後(あと)は無事に帰れない


 この試合のビートに、JP THE WAVY「Cho Wavy De Gomenne」が選ばれたことより$ph1Nは、SALUの<爽やかだけどBoujee>というラインをサンプリング。さらに、地元静岡のチェーン飲食店「さわやか」をピックアップし、Migosの有名なパンチライン<My b**ch is bad and boujee>に繋げた。この一連の流れだけでも目を見張るのだが、ここで特に印象に残ったのが$ph1Nの操る、滑らかで自在なフロウだ。「Cho Wavy De Gomenne」が、トラップ特有のゆったりとしたビートだったことより、JP THE WAVYのフロウにも似たUSラップ寄りの歌い回しを$ph1Nは披露。KOHHやJinmenusagi、さらには清水翔太らが、海外トレンドの吸収に力を注ぐ昨今のHIPHOPシーンだが、その影響力の強さを、今大会における$ph1Nの登場が物語っているのではないだろうか。


 そんな同大会の卒業生であるT-PablowとYZERRを擁し、破竹の勢いを見せているBAD HOPは、昨年9月に初の全国流通作『Mobb Life』をリリース。4月6日にはZepp Tokyoにて、クルー最大規模のワンマンライブ『BAD HOP HOUSE』を開催する。また、第9回大会に出場したちゃんみなも、昨年11月にリリースした2ndアルバム『CHOCOLATE』がヒットを飾るなど、大会出場者の立て続きの音楽リリースとその成功を目にする機会が増えている。


 大会後のインタビューでG-HOPEが、「(出場前に)フリースタイルの練習はせず、音源制作をしていた」と明かし、今後はバトルには出ずに、「現在制作しているEPを4月にリリースするので、そこからは音源制作やライブ活動に力を入れていきたい」と語っていたように、音源のリリースとその成功こそが、ラッパーとして目指すべき目標なのだろう。その橋掛りのひとつに『高校生RAP選手権』への出場があるのだと伺える。今後の『高校生RAP選手権』を経て、どんな若手ラッパーが登場するのか楽しみだ。(青木皓太 )